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アディヤートマ・ラーマーヤナ(50)「ランカーの炎上」

第四章 ランカーの炎上

◎捕われたハヌマーン

 まるで苦痛であるかのように縛られている縄を手でつかみ、まるで恐怖しているかのようにランカーの街中の至るところを見ながら、ハヌマーンは自分をランカーの通りを悪魔に連行させたのであった。
 彼を見るために、怒った悪魔の民たちはその一行について行き、彼に拳で殴打の雨を浴びせた。
 ブラフマーに与えられた恩寵のために、ハヌマーンはすぐさまそのブラフマーの武器の束縛から開放された。
 しかし彼はあえて自らを取るに足らない縄に縛らせておき、重要な目的を成就するために彼を捕らえた者たちに同行したのだった。

 ハヌマーンは、大臣や延臣の集会の中に座すラーヴァナの前に連行された。彼を差し出すと、インドラジットはこう言った。

「ブラフマーに与えられた恩寵の助けを借りて、私は多くの悪魔を大殺戮したこの猿を縛り上げ、御身の面前に連れて参りました。
 おお、父上よ! 大臣等との会議において御身が決定されたことは何でも、私にご命令ください。奴は普通の猿ではありませぬ。」

 そこで、悪魔の王は、白銀の山のような肌の色をし、彼の面前に立っていた大臣プラハスタを見てこう言った。

「おお、プラハスタよ! 奴にこのように問うてみよ。
『何ゆえにこの猿はここにやって来たのか。何処から来たのか。何ゆえに、わがアショーカの林を破壊したのか。何ゆえにわが悪魔の軍隊を殺戮したのか。』」

 そこで、プラハスタはラーヴァナの命に従って、丁寧にハヌマーンにこう問うた。

「おお、猿よ! 誰が御身をここに遣ったのか?
 恐怖を抱きたもうな。
 王の中の王であるわれらが大王のご面前で、御身の真相を話すなら、御身を解放して差し上げよう。」

 そこでハヌマーンは、三界を虐げし者・ラーヴァナと面と向かって歓喜し、何度も何度もラーマのことを心中に思いながら、ラーマの神聖なる物語を最初から語り始めた。

「おお、神々の仇敵、ラーヴァナよ!
 注意深く聞きたまえ。私は一切の衆生の胸の中に住まうラーマ様の使者である。
 御身は近頃、彼の奥方を、犬がコソコソと供儀用の供物を取っていくようにして、連れ去ったであろう。それゆえに、御身は破滅の道を歩み始めたのである。
 リシャムーカ山に赴かれ、ラーマ様が聖火(アグニ)を証人としてスグリーヴァ様と同盟を結ばれたのだ。その後、たった一本の矢でヴァーリンを殺戮され、スグリーヴァ様を猿の王国の王として任命された。
 猿たちの強力なる王は、今ラーマ様とラクシュマナ、そして勇敢なる猿たちの膨大な軍隊と共に、プラハルシャナ山に大いなる怒りを抱きながらとどまっておられる。
 その猿の王は、勇敢なる猿の将軍たちに、シーター様の行方を突き止めるよう命じられたのだ。
 その猿の中の一人、風神の子である私は、大変な捜索の後、ここに参ったのである。
 蓮華の眼をされたシーター様は見つかった。私は猿であるから、その本能が、アショーカの林の木々を破壊するよう私を駆り立てたのだ。
 その後、大いに怒って、弓と矢を持って私を殺しに来た御身の多くの使者たちを見つけた。ゆえに、自己防衛のために、私は彼らを殺さなければならなかったのである。
 おお、偉大なる王よ! 御身は一切の生類がどれほど己の身体を大切にしているかをよくご存じであろう。
 遂には、メーガナーダ(インドラジット)はブラフマーの神器で私を縛り上げた。
 しかし、ブラフマーが私にお与えくださった恩寵により、その武器の効果は、ほんの一瞬しか続かず、私はその後に解放されたのだ。
 おお、ラーヴァナよ! 私はこの事実を知っているが、それでも御身への哀れみから、御身にいくつかの助言を与えたかったゆえ、まるでまだ縛られているかのようにして、ここに連れて来させたのである。」

◎ハヌマーンのラーヴァナに対する説教

「正しい識別の修習によって、この世界の、極めて取るに足らない、一時的な本性を理解したまえ。おお、ラーヴァナよ、その理解の助けを借りて、御身の悪魔という悪しき性質を捨て去りたまえ。
 御身の魂の究極の善性のために、輪廻の取るに足らぬものからの解脱に導く善行に励むのだ。
 御身は偉大なるブラフマーの系統に生まれ、リシ・プラスティヤの息子であり、クベーラの兄弟であられる。
 ゆえに、御身は自分たるものが肉体だなどという邪見解を与えられていたとしても、肉体的感覚においてですらラーヴァナではない。
 そして、神秘性の見解の点からは、御身の中に魔性さえもないなどということは、言うに及ばないのだ。
 真実の御身あるいは『真我』には、一連の肉体、知性、感覚から生じる苦しみがない。なぜならば、真我はただ不動であり、何にも影響されることなきそれら一切の変化の目撃者だからである。
 それらの変化における実際的な関与は、肉体と心の観念に属している。それはただの一つの眠りの経験に過ぎないのだ。
 眠りがもたらす一連の夢の経験は、夢で終わる。――それらは夢の迷妄なる無智の性質の影響である。
 真我について言えば、肉体の経験も同様に非真実なのだ。
 不動性と影響を受けないものが御身の真我の性質にかかわる真実なのである。
 御身は生来不変なのだ――なぜならば、非二元である真我にとって、それにおける変化に影響を与える原因が存在しないのである。客体に遍く満ちているが、それによっては影響を受けない、すべてに遍在する虚空のように、あなたの真我は、その微細さゆえに、身体に遍在しているにもかかわらず、肉体的な経験によっては影響を受けない。
 一切の束縛は、真我と共に、肉体、心、プラーナという観念との同一化の感覚から生じる。そして解脱は、
『私は純粋なる意識。私は束縛されることはない。私は不滅。私は純粋なる至福なのだ。』
という経験のなかにある。
 地元素から生じる肉体は『自己』ではない。プラーナも『自己』ではない。なぜならばそれは風元素が変容したものであるからである。
 心もまた『自己』ではない。なぜならばそれは『私意識』アハンカーラの結果である。
 ブッディ(知性)について言うならば、それはプラクリティが変容したものであり、『自己』ではない。
 真我は、純粋意識であり、至福である。彼には生と死のような変化がない。そして肉体と心の結合から離れている彼は、ただのそれらの目撃者であり、監督者である。
 彼は彼が顕現するものを通じての一切の付加物から離れている。彼は自ら、永遠に純粋なのだ。
 そのように真我を知るならば、人は輪廻の束縛からの解脱を得る。
 ゆえに、私は今御身に、究極の解脱に達するための手段をお教えいたそう。
 おお、智者よ! 心して聞くがよい。
 まず最初に、マハーヴィシュヌへの信仰を培いたまえ。それは御身の知性を浄化し、御身はそれによって純粋なる叡智をも得るであろう。
 それから、御身は永遠に純粋な叡智と、影響を受けることなき真理を得るであろう。この叡智が完全に確立されるならば、御身はブラフマンの至高なる境地に達するであろう。
 それゆえに、あらゆる信仰心を抱き、ハリそのものであられ、プラクリティを超越し、一切に遍在するラクシュミーの夫であられるラーマ様を礼拝するのだ。
 己の愚行と敵対心を捨て去れよ。自己を明け渡したすべての者たちにとって愛おしきラーマ様の御足に避難せよ。
 御身の息子、縁者と共に、シーター様をラーマ様のもとにお連れして返還し、降伏の印として完全なる礼拝を捧げるのだ。
 そうすれば、御身は恐怖から解放されよう。
 思慮なき者が、いかにして、至福の本質であり、非二元の存在であり、一切の者の胸の中に住まう至高なる真我であられるラーマ様のもとに、完全なる信仰を持って避難することなく、荒れ狂う波の輪廻の海を渡ることなどができようか?
 もしそのようにしなければ、無智という炎に焼かれることから誰からも守ってもらえることなく、御身は霊性の堕落の深みに沈んでしまうのだぞ。
 御身は、輪廻の辛苦から引き上げられる好機を得ることは決してなかろう。」

◎火の拷問の刑

 風神の子ハヌマーンのアムリタのようなこれらの言葉を聞いて、十の頭を持つ悪魔ラーヴァナは、耐え難いほどの怒りを感じ、激しく興奮して眼を真っ赤にしながら、堂々たる猿に向かってこう言った。

「お前はなんの恐れもなく、何ゆえにわしの前でそのようなばかげたことを話しておるのだ?
 お前は猿どもの中でも、最も堕落し、邪悪な者に違いあるまい。
 そのラーマとは誰だ?
 その森に住まうスグリーヴァとは何者だ?
 よいか、愚かな猿め!
 わしはそのスグリーヴァと同盟を組んだ悪しき輩を殺してやろう。
 お前をただちに殺し、そしてジャナカの娘のシーターも殺してやろう。その後すぐにわしは、ラーマとラクシュマナ、そして強力な猿スグリーヴァを、従者諸共滅ぼしてやるのだ。」

 十の頭のラーヴァナのこれらの言葉を聞くと、風神の子ハヌマーンはまるで彼を焼き尽くしてしまうかのように怒りに燃え上がり、威嚇的な態度でこう言った。

「おお、この上なく堕落した輩め! 一千万のラーヴァナでさえも、私と対等にはなれぬだろう――なぜならば、私、ラーマの使者は、無尽蔵の力を有しているからである。」

 ハヌマーンのこの言葉は、ラーヴァナをカンカンに怒らせた。彼は近くの悪魔を呼んでこう言った。

「この猿を殺して、バラバラに切り刻んでしまえ。他のアスラや友、縁者等にもこやつの処刑を見せてやるのだ。」

 そこでヴィビーシャナが介入し、処刑のために武器を持って前に進んできた悪魔たちを追い払った。
 ヴィビーシャナはこう言った。

「おお、偉大なる王よ! 彼は他の王によって使者として遣われた猿でありますぞ。どうして、勇気と気高さで名高き王たる者が、使者を殺すように命令することなどができましょうか? それは極めて相応しからぬことです。
 あなたが今この使者の猿を殺すならば、あなたの破滅を究極の目的とするラーマは、いかにしてシーターがここにいるということを知って、戦争をしかけにランカーに来ることができましょうか?
 ゆえに、処刑と同等の罰を他に考えたまえ。その猿の身体に罰を与えて、彼を返すのです。
 彼を見るや、ラーマはすぐにスグリーヴァと共にここにやって来て、あなたと戦争を開始するでありましょう。」

 これらのヴィビーシャナの言葉聞くと、ラーヴァナは次のように言った。

「猿共は、尻尾に非常なる誇りを持っておる。ゆえに、こやつの尻尾に布をまき、火をつけるのだ。
 そして猿の軍の将軍共に、やつの変わり果てた姿を見せつけるために、やつを街中引きずり回し、それから奴を帰せ。」

 悪魔たちはハヌマーンの尻尾の周りに頭陀袋と油に浸したさまざまな種類の布をまきつけると、その尻尾の先に火をつけたのだった。
 そして彼らは紐で彼を縛り上げ、力の強い悪魔たちがドラムを叩き鳴らしながら、街中、彼を引きずり回し、『さあ見てみろ! こいつがこそ泥だ』と何度も何度も宣言した。そしてすべての悪魔たちが雨のようにハヌマーンを殴打した。
 心にある戦略を抱きながら、ハヌマーンは根気強くその一切の迫害に耐えたのであった。
 西門に到着すると、彼は身体を小さくして、すべての縄の束縛から抜け出し、今度は再び巨大化して、塔門のてっぺんに跳び登り、その巨大な建物の柱を一本引っこ抜いて、そこにいたすべての悪魔たちを壊滅させた。
 ランカーでの使命を果たすために、彼は火のついた尻尾で、街の建物から建物をピョンピョンと跳び回り、すべての邸宅と殿堂に火をつけた。
 そしてランカーの至る所で、『ああ、お父様』、『ああ、息子よ』、『ああ、あなた』という女性の泣き声が聞こえた。
 多くの女悪魔たちが火から逃れるために建物のてっぺんへと登ったのだが、結局火が全方向を取り囲んで広がっているということを知る結果となっただけであった。
 まるで空から落ちるかのように、それらの女悪魔たちは上方から火の中に落ちて行ったのだった。
 ヴィビーシャナの家を除いて、全ランカーは灰と化してしまった。
 これらの一切を為すと、ハヌマーンは海に飛び込み、尻尾を水につけて火を消した。そして彼は、使命を果たしたという満足感を感じたのだった。
 ハヌマーンの父である風神と火神の友情とシーターの祈りのおかげで、彼の尻尾は少しも火に焼けなかったのである。
 反対に、彼はそれを涼しく感じていた。
 その御名を唱えることで、人々は一切の罪の影響を免れ、その御名を唱えることでこの世界の人々は生の三つの炎を制圧するところの彼――そのラーマの特別な使者に対して、いかにしてこの世界の普通の炎が負傷を負わせることなどができようか?

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