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アディヤートマ・ラーマーヤナ(40)

アディヤートマ・ラーマーヤナ(40)「ヴァーリンの死後」

第三章 ヴァーリンの死後

◎ターラー、ヴァーリンの死に心を取り乱す

 至高者そのものであるラーマが戦いでヴァーリンを殺すと、すべての猿たちは極度に恐怖して、キシュキンダーへと飛んで行った。
 猿たちはターラーのもとへ行くと、このように報告した。

「おお、高潔なる御方よ! ヴァーリン様が戦いで殺されました。アンガタ王子をお守りする措置をお取りください。この点において大臣方に指示を出したまえ。
 都中の門を閉鎖し、われわれはこの都を守護いたします。どうか、アンガタ様を猿の王として公表したまえ。」

 ヴァーリンの死を聞かされると、ターラーは悲しみに圧倒され、何度か手で自分の胸を叩いた。彼女はこのように泣き叫んだ。

「私は、アンガタ、王国、都、富によって、何を得ればよいというのでしょうか? 私も今すぐに夫と共に逝きます。」

 こう言うと、悲痛な苦しみに涙を流し、彼女は巻き毛を乱れさせたまま、急いで彼女の夫の死体が横たわっている場所へと歩いていった。
 血と埃に塗れて床に横たわっているヴァーリンの死体を見るや、彼女は「ああ、あなた! ああ、あなた!」と泣き叫び、彼の足もとに倒れた。
 眼から涙を流しながら、彼女はラーマを見て、こう言った。

「ああ、ラーマよ! 私も同様に、ヴァーリンを殺した矢で殺してください。
 私は夫と同じ世界に行き、共に在りたいのです。ああ、ラグ族の末裔よ! 私なくしては、彼はたとえ天であっても幸せではないでしょう。
 そして、ああ、スグリーヴァよ、ヴァーリンの殺害者によって、あなたは王国の王位を速やかに獲得されたのです。さあ、あなたは敵からの恐れなしに、妻のルーマーと共に王位を楽しんでください。」

◎ターラーへのラーマの説法

 このように自らの運命を嘆くターラ―は、ラーマに真理の叡智を授けられることによって優しく慰められた。ラーマは彼女にこう仰った。

「ああ、内気な女性よ! 夫の死を嘆き悲しむことは、あなたには相応しからぬことである。あなたの夫とは誰だ?――この身体か? それともジーヴァであるか? 事象の真のありさまを考えてみなさい。
 身体は五大元素の組み合わせである。それは皮膚、肉、血、骨などから構成されており、時、カルマ、そしてグナの働きから生じる。それ今ここで、あなたの前に横たわっている。
 あなたが、夫は真我であると思うならば、魂として、彼は死ぬことはない。彼は魂として、生まれることも、死ぬこともなく、どこにも存在しない。
 ジーヴァは一切に偏在し、永遠である。彼は男でもなく、女でもなく、中性でもない。彼は空のように、何にも影響を受けない、二のない一なるもの。彼は永遠であり、純粋であり、意識の本質である。ならば、なぜにあなたは彼を嘆き悲しむのであるか?」

 ターラーは、ラーマにこのように質問した。

「ああ、ラーマよ! 肉体は木片のように、知覚のないものです。ジーヴァは不滅であり、純粋なる意識であります。そうであるならば、この束縛は誰のものでありますか? 苦楽を経験するのは誰ですか? そしてそれらから影響を受けるのは誰なのでありますか?」

 シュリー・ラーマはこうお答えになった。

「粗雑、あるいは微細な身体、そしてインドリヤに関して、『私』意識を持つ限り、その無智なる魂は、ずっと生死輪廻に支配される。
 虚偽の重ね合わせの輪廻の束縛は、夢の誤った経験がひとりでには消えないように、感覚の対象について考えている者についてはひとりでには消えない。睡眠が終わるときにのみ、それは根絶される。
 無始なるアヴィディヤー(無明)と結合して、アヴィディヤーの産物である『私』という感覚は、それが全く意味がないというのにもかかわららず、執着や嫌悪などの性質を持つ輪廻を経験する。
 ああ、気高き女性よ! 輪廻とその状態の中で経験される束縛は、マナスのものだ。マナスに分類される魂は、後に生じる束縛の奴隷となる。
 この現象は、赤い絵の具の近くに置かれた透明な水晶のかけらはその色に染まったように見えるという例えから理解できる。水晶は赤く見えるにもかかわらず、それは本当に染まっているのではない。
 同様に、ブッディやインドリヤなどの近くにいるせいで、輪廻の経験が真我に押しつけられる。それそのものをマナスであると認識している真我――人が純粋意識としての真我であるその母体(マトリックス)を推測する手助けをする反映された感覚を持つ真我は、真我と結びついたマナスそのものから生まれる感覚の対象を楽しむ。このように、真我は、グナや感覚の対象にどうすることもできずに縛られ、輪廻に巻き込まれる。
 まずは、真我と結びついた心は、感覚の対象を生じさせ、それらに苦楽の性質を重ね合わせる。これからジーヴァに、純粋なもの(白)、不純なもの(黒)、そしてこれら二つが混じったもの(赤)という仕事を行わせる嫌悪と愛著が生じる。さまざまな種類のカルマに支配されて、ジーヴァは全宇宙のサイクルの輪廻に巻き込まれる。
 すべてのものが宇宙の終わりに原初の状態に溶解されるとき、ジーヴァは一切のその習得された性向とその潜在的なカルマと共に、心や感覚を同一視するために無始なるアヴィディヤーの中に溶解され、その状態でとどまる。
 宇宙のサイクルが終わり、再び創造の時がやって来ると、ジーヴァは過去に修習された心と性向にとらわれて、さらにまた顕現する。このように、彼はどうすることもできず、輪廻に沈んでは、投げ出される。
 ある善行の結果として顕現されたジーヴァは、私の信者や聖者との交わりを得、平穏の中に確立される。そして彼は徐々に集中を私に向けていく。それから彼は私の行為や素晴らしい美徳の朗読を聞くという稀有なる幸運を獲得するのだ。これらの神聖なる規律に真剣に専心するならば、彼はあまり苦労することなく、徐々に真我の真の本性の理解を得るだろう。
 優秀なグルによって説かれることで、ヴェーダの言葉の真意は彼に理解され始める。彼は、彼の自我は非二元的で、永遠で、身体、感覚、心、プラーナ、そして『私』という感覚(アハンカーラ)とは異なる至高にして至福なる真我と同一であるという直観的経験を得るだろう。この叡智を得ることで、彼はただちに解脱する。
 私が述べたことは真理であると理解しなさい。私が明らかにしたこれらの教えを常に真剣に熟考する一切の者たちには、輪廻の苦しみは決して影響を与えないであろう。あなたもこれらの私の教えを、純粋な心で、集中して熟考するのだ。そうすれば、あなたは不幸によって苦しめられることはなく、カルマの束縛から解放されるであろう。
 おお、美しき女性よ! 過去生において、あなたは神聖なる行を実践した。ゆえに、あなたを輪廻から解放するために、この私の姿があなたに明らかにされたのだ。あなたが絶えず私のこの姿を思い、私の教えを熟考すれば、たとえあなたが輪廻の生によってもたらされた活動に従事しようが、カルマはあなたを縛ることはない。」

 ターラーはこれら一切のラーマの教えを、大変興味を持って、注意して聞いていた。彼女は身体との同一感から生じる悲しみを克服し、ラーマの御前に礼拝した。真我に確立されることを喜び、彼女はジーヴァーンムクタ――生前解脱者となった。至高なる真我であるラーマとの接触により、短期間でターラーは、一切のけがれから、アヴィディヤーの始まりのない束縛から解放された。
 これら一切のラーマの教えを聞くことで、スグリーヴァも完全に無智の影響を乗り超えて、平穏の中に確立されたのだった。

◎スグリーヴァの戴冠

 そしてラーマは、偉大なる猿であるスグリーヴァにこう仰った。

「さあ、御身は私の命により、御身の兄の火葬と葬儀の準備をしなさい。シャーストラに定められている通りに、彼の息子に葬儀を執り行わせるのだ。」

 それに同意し、スグリーヴァは多くの力の強い猿たちにヴァーリンの遺体を持ち上げさせ、特別に装飾された乗り物に乗せた。ケトル・ドラムと大太鼓の音と王族を象徴する他の形式の伴奏がなされ、そしてその後に、ブラーフマナ、大臣、猿の知事、民衆が続いた。
 ターラーとアンガダはヴァーリンの肉体を火葬場に運び、聖典の指示に従って、すべての儀式が執り行われたのだった。それから、スグリーヴァは沐浴をし、大臣たちと共にラーマの面前に赴いた。
 スグリーヴァはラーマの御足に礼拝すると、深い満足感を抱きながらこう言った。

「おお、偉大なる王統の御方よ! この猿たちの豊かな世界を統治したまえ。私はラクシュマナ殿のように御身の従者となり、長き間、御身にお仕えいたしましょう。」

 このように語ったスグリーヴァに対して、ラーマは微笑みながらこう仰った。

「御身は真に私そのものである。そこに疑いはない。私の命により、御身はこの都、この国の支配者として即位しなさい。
 おお、愛しき友よ! 十四年間、私はどんな街にも入ることができないのだ。ゆえに、弟のラクシュマナを、御身と共に都へ遣わそう。
 アンガダを太子として任命しなさい。私は弟のラクシュマナと共に、近くの山の頂上で雨季を過ごそう。御身は都に行って、しばらくそこで暮らしなさい。その後、御身はシーターの探索を開始すればよい。」

 スグリーヴァはラーマの前で礼拝し、こう言った。

「おお、偉大なる御方よ! 御身が私に命ぜられることすべてにお従いいたしましょう。」

 ラーマに許可を得ると、スグリーヴァはラクシュマナと共に都へ行き、ラーマに指示されたことの一切を行なった。
 スグリーヴァに礼儀正しく尊敬の念をもって歓迎されたラクシュマナは、すぐに彼の仕事を終わらせると、ラーマのもとに赴いて、彼の御足に礼拝したのだった。
 次にラーマとラクシュマナは、プラヴァルシャナと呼ばれる山の高い頂へと向かった。
 そこでラーマは、太陽、雨、風からの避難所となり、果物や根を容易く調達できる水晶の光輝を放つ洞窟を見つけ、その洞窟の中で暮らすことに決めた。
 彼は、豊富なおいしい果物と根があり、芳しい花が咲き、真珠のようにきらめく水の湖があり、色とりどりの鳥や動物がたくさん住まうその山に住居を定められたのだった。

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