アディヤートマ・ラーマーヤナ(30)「シュールパナカーの切断」
第五章 シュールパナカーの切断
◎シュールパナカーの到来
ジャナシュタナに囲まれた深い森に、変幻自在の計り知れない強さを持つ女悪魔がうろつき回っていた。
ある日この女悪魔はゴーダヴァリーの岸で、蓮華、ヴァジュラ、鉤の印がある宇宙の主ラーマの足跡に気づいた。これらの足跡の非常なる美しさを見て、彼女はその足跡の持ち主への熱烈な愛欲にとらわれてしまった。そしてそれらの足跡を追いかけていくと、彼女はラーマの住処に辿り着いたのだった。
そこで、シーターと共に、ラクシュミーのコンソートである愛の神のようなラーマを見つけ、この女悪魔は彼への愛欲を増大させて、彼にこう尋ねた。
「あなたは誰の息子ですか? あなたのお名前は? あなたはどうして木の皮の衣を着て、髪をジャータにしながらアシュラムに暮らしているのですか? ここに暮らすことで何をしようとしているのですか?
私は変幻自在の女悪魔シュールパナカー。悪魔の大王ラーヴァナの妹です。兄のカラと共にこの森で暮らしています。われわれの王ラーヴァナが私にこの森を当てがってくれたのです。私はここで、出くわした苦行者すべてを食い尽くしながら暮らしているのよ。
私はあなたのことを知りたいわ。ああ、雄弁な御方よ! あなたのことをすべて私に教えてちょうだい。」
ラーマは彼女にこう答えられた。
「私はアヨーディヤーの王の息子、ラーマとして知られております。この美しい女性はジャナカの娘である私の妻のシーターです。そしてこれは、私の美しい弟ラクシュマナであります。ああ、全宇宙の美しき妃よ! さて、あなたは私に何を求めておられるのですか? 遠慮なく仰ってください。」
ラーマの言葉を聞くと、恋に落ちた女悪魔は返答してこう言った。
「ああ、ラーマよ! 私と一緒に来ておくれ。一緒に森を彷徨って、楽しい時を過ごそうではありませんか。熱情にとらわれた私は、もうあなたと離れていられないのです、ああ、蓮華の眼をした御方よ!」
ラーマは意味深に横目でシーターをチラッと見ると、微笑みながらその女にこう答えられた。
「ここに美しい女がいます。私の妻です。彼女は決して私と離れてはおられないでしょう。ゆえにあなたは、あなたにとって耐え難き僚妻になるしかありません。それ以外には、見るに麗しい弟のラクシュマナがいます。彼はあなたの夫に相応しいでしょう。あなたはこの森で彼と共に彷徨いながら、人生を楽しむのです。」
ラーマのこの言葉を聞くと、シュールパナカーはラクシュマナの方を向いてこう言った。
「ああ、美しい男! どうか私の旦那になっておくれ。
あなたの兄の命令に従って、われわれは一緒になりましょう。さあ、早く、早く。」
強烈な性欲に心動かされ、その荒々しい悪魔はラクシュマナにこのように言ったのだった。
ラクシュマナは彼女にこう言った。
「ああ、善良な女性よ! 私はあの非常に智性的な御方、ラーマ様のただの召使であります。あなたは召使の嫁になりたいのですか? それ以上に哀れなことがありましょうか? ゆえに、ご自分のために、あなたはラーマ様の方に行かれたほうがよいと思います。彼は一切の王であり主であられるのです。」
これを聞くと、その邪悪な女は再びラーマにアプローチした。
◎シュールパナカーの切断とカラの殺戮
彼女は激怒してこう言った。
「おお、ラーマ、気まぐれな奴め。なぜお前はこのようにして私をからかうのだ? それならばお前の前で、この悪戯の大元であるシーターを貪り食ってやろう!」
そう言うと、彼女は恐ろしい姿に変化して、シーターに向かって突進してきた。そこで、ラーマの命により、力強きラクシュマナは彼女の耳と鼻を剣で切断した。血を身体中に流しながら、その女悪魔は恐ろしいうなり声を放った。悲鳴を上げて、汚い言葉を発しながら、彼女は恐ろしい声の悪魔カラのところへ行き、彼の前に倒れたのだった。彼はそこで、彼女にこう尋ねた。
「これはどうしたのか? お前にこのような残虐なことをする奴は、死神の口の中にいるも同然である。カーラのように強力であろうと、私は奴を殺してやろう!」
女悪魔はこう答えた。
「シーターとラクシュマナと共にいるラーマは、人々のためにこのダンダカの森から恐怖を取り除こうとして、ゴーダヴァリーの岸辺に住んでいる。奴の弟ラクシュマナは、奴に命令されて、私にこんなことをしたのだ。御身が大いなる一族の者であり英雄であるならば、行ってあの二人の敵を殺戮するのだ。私は奴らの血を飲み、御身はあの厚かましい者たちの体を食うのさ。もし御身がそうしてくれないのなら、私は命を捨てて、ヤマの世界へ行ってしまおう。」
シュールパナカーの言葉はカラに激しい怒りを湧き起こさせた。彼はすぐに総勢四千の恐ろしい悪魔たちの軍隊を引き連れて、悪魔のリーダーのトリシラスとドゥーシャナと共に、さまざまな武器を携えて、ラーマの殺戮に向かったのであった。この軍隊から発される荒々しい騒音を聞いて、ラーマはラクシュマナにこう仰った。
「ものすごい音が聞こえる。悪魔共が動いているに違いあるまい。奴らと私の間で凄まじい戦が起こるであろう。おお、力強きラクシュマナよ! シーターを連れて、お前は近くの洞窟に隠れていてくれないか。お前はそこで待機するのだ。私は恐ろしい姿のあの悪魔共を壊滅させてやろう。私のこの命令に対して何も言ってはならぬ。お前は私の言葉に従うと誓ったのだ。」
この提案に同意し、ラクシュマナはシーターを連れて洞窟へと行った。そしてラーマは、堂々と勇ましく衣と髪を縛り上げると、恐ろしい弓を手に握り、無尽蔵の矢筒を背中に結わえて、そこに立ったのだった。
悪魔たちはその場所に素早く到達し、ラーマにさまざまな武器や岩や木を浴びせかけ始めた。
ラーマはそれらすべての飛び道具をズタズタに切り刻んだ。そしてお返しに千本の矢で、彼は半ヤマという短時間で、三人の指揮官カラ、トリシラス、ドゥーシャナを含むすべての悪魔を殺戮した。
そしてラクシュマナは洞窟からシーターをラーマの御許へと連れて戻ってきた。殺害された悪魔の数を見ると、二人は驚いた。
シーターは満開の蓮華のように輝くお顔でラーマを抱擁し、ラーマの身体についた傷を手で擦って癒したのだった。
◎シュールパナカーのラーヴァナへの抗議
それらの優れた悪魔が全員死んだのを見て、ラーヴァナの妹シュールパナカーは、ランカーへと急いだ。彼女は泣き叫びながらラーヴァナの王室の会合に入っていき、その床に倒れこんだ。そのように脅え、嘆き悲しんでいる妹を見て、ラーヴァナはこう言った。
「愛しき妹よ、起きろ、起きるのだ。お前をそのように傷つけたのは誰だ? インドラか、ヤマか、ヴァルナか、あるいはクベーラか?――奴らの名をわしに教えろ。わしが一瞬のうちに奴らを灰と化してやろう。」
そして女悪魔シュールパナカーは彼にこう答えた。
「御身は酒と女に溺れた考えなしの愚か者であり、弱虫同然であります。それは御身の行ないが明らかにしたことであります。情報を効率的に集めるシステムがないと言いますならば、御身は如何にして御自分のことを王などと名乗れ得ましょうか?
カラ、ドゥーシャナ、トリシラスは皆、戦で殺され、四千人の軍隊は悪魔の天敵ラーマによって滅ぼされてしまったのです。今やジャナシュタナ全土は、苦行者たちによって安全な住処となってしまいました。御身はこれらのことを何も知りませんでしたね。ゆえに私はあなたを愚か者と言って非難したのです。」
これを聞いて、ラーヴァナはこう尋ねた。
「そのラーマとは誰だ? 何ゆえにそやつはその悪魔をすべて殺戮したのか? それについてわしにすべて話しなさい。わしはその敵共を完全に滅ぼしてやろう。」
シュールパナカーはこう答えた。
「近頃、私はたまたまゴーダヴァリーの岸にあるジャナシュタナに行きました。その地域には、かつて苦行者が住んでいたパンチャヴァティという地があります。その場所で私は偶然、美しく、蓮華の眼をして、弓矢を携え、木の皮の衣を着て、髪をジャータにしているラーマと出会ったのです。
そして彼と同じような装いで、奴の傍に奴の弟のラクシュマナもおりました。ラーマと共に、御身がデーヴァの中にもガンダルヴァの中にも人間の中にも見出したことがないような、他に類を見ないほど美しい奴の妻もいました。ああ、王よ! 彼女は本当に女神シュリーそのもののようでした。彼女の存在感が森を照らしていたのです。
ああ、罪なき御方よ! 私はその女を御身の妻にしようと、こちらへ捕まえてこようとしましたが、奴の命令によりラクシュマナが私の鼻と耳を切り落としたのです。凄まじい苦しみと嘆きに泣きながら、私はカラに助けを求めました。彼は悪魔の軍勢と共にラーマを懲らしめにやって来ましたが、その獰猛で勇敢なる悪魔の兵隊たちのすべてが、力強き男ラーマによって滅ぼされました。それは私にとって、奴がその気になれば、刹那の半分にして全世界を灰と化してしまうように見えたのです。
さて、あなたがその女を妻としてしまえば、あなたの人生は真に実りあるものとなるでありましょう。
ああ、偉大なる王よ! 御身は今、世界の美の中で最も名高い蓮華の眼をしたシーターを御身の妻として確保するよう手段を講ずるべきであります。しかし、ああ、わが主よ、わが王よ! 御身はラーマと直接顔を合わせては、そのようにできないでありましょう。ゆえに、御身は魔術的な策略を使って奴を騙し、彼女に近づくべきでしょう。」
この妹の抗議を聞くと、ラーヴァナは優しい言葉と贈り物で彼女を慰めた。それから彼は居住部屋に行って、思考に没頭し、その夜は眠ることができなかったのだった。
彼はこう考えた。
「どうしてあのカラが軍隊と共に、ただの人間のラーマに滅ぼされたというのだ? わが兄弟のカラは自らの力と武勇を誇りにしていたにも関わらず、このようにしてラーマに滅ぼされ得ようとは、わしにとっても驚きである。
おそらく奴はただの人間ではあるまい。奴は今ラグ族に人間の姿をとり、遠い昔にブラフマー神によって懇願されて、わしを一族諸共その力によって滅ぼすために降誕した至高者であろう。もしわしが至高者によって殺されたならば、今度はヴァイクンタの至高なる世界を支配してやろう。もし仮に殺されなければ、この魔界を存分に楽しんでやろうではないか。よし、ではラーマに歯向かいに行くとするか。」
このように考え、悪魔の主は、ラーマは至高者ハリに違いないと推論し、その推論を最終的に自分の中でこのように結論づけたのであった。
「敵対する態度を取ることで、わしは彼に到達しよう。なぜならば、主は普通のバクティ(信仰)の形をとっても、速やかに正体を現わしてはくださらないであろうから。」