yoga school kailas

アディヤートマ・ラーマーヤナ(15)「ラーマの森への追放」

第四章 ラーマの森への追放

◎ラーマ、カウサリヤーに父の命令を知らせる

 このように気付かれることなく立っていたラーマを見て、スミトラ―は急いでカウサリヤー妃に、ラーマが面前にいらっしゃることを伝えた。
 ラーマという御名を聞くと、カウサリヤーは眼を開き、眼の前にいらっしゃる魅力的な眼をしたラーマを見つめた。彼女は彼を抱擁し、膝の上に座らせたのだった。
 そして彼女は、彼の頭頂の香りを嗅ぎ、彼の青ゆりのような身体を撫でると、こう言った。

「ああ、わが子よ! 満足いくように何かお食べ。あなたはとてもお腹が空いているようね。」

 ラーマは答えてこう言った。

「食べ物を食べている時間はありません。私はただちにダンダカの森へと発たねばならないのです。
 常に真理に忠実であられるわが父君は、カイケーイー妃に、バラタへの王国の譲渡と、壮麗な森への私の追放という二つの恩寵を与えられました。
 苦行者として十四年をそこで過ごした後、私はすぐに帰って参ります。どうか、心配なさらないでください。」

 この言葉を聞くと、カウサリヤーは心が引き裂かれ、意識を失って倒れてしまった。そして意識が回復すると、彼女は起きあがり、耐え難い悲しみに苦しみ悶え、苦しみの海に浸かりながら、ラーマにこう言った。

「ああ、ラーマ! あなたが森へ行くということが真実ならば、私も共に連れて行ってください。どうしてあなたなしで、私が一瞬たりとも生きることができるましょうか?
 牡牛は、その子牛を連れて行かれると、休息することができません。まさにそのように、わが命よりも大切な御子よ、私はあなたなしで、どうやって生命を維持することができましょうか?
 王がお喜びになるならば、彼はバラタに王国を与えればよいでしょう。しかし、なにゆえに彼は私の愛しき御子であるあなたに、森へ行けなどと命じる必要があったのでしょうか?
 カイケーイーに恩寵を与えた王には、一切の所有物を彼女に与えさせるべきであります。しかし、森への追放なんて・・・・・・あなたはカイケーイーか王にどんな危害を加えたのですか?
 ああ、ラーマよ! あなたの父はあなたの尊敬すべき長でありますが、私はそれよりも遥かに尊敬されるべき母です。父があなたに森へ行くように命じたならば、あなたの母である私はそれを禁止します。私の言葉に背いて、王の命令に従って森へと発つならば、私はこの命を捨てて、死の世界へと行きます。」

◎ラーマのラクシュマナへの助言

 カウサリヤーの言葉を聞き、怒りで燃えあがっているラクシュマナは、まるで全世界を燃やすかのようにして、ラーマにこう言った。

「私は、情欲の虜であり、デレデレとしていて、完全にカイケーイーの言いなりになっている王に、足枷をはめてやりましょう。そして、バラタとその叔父、そしてその他の縁者を殺してやるのです。
 バラタたちに今こそ、私の武勇を見せつけてやります。――破滅の炎で全宇宙を破壊するわが武勇を。あなたは今、この即位の儀式をあくまでもやり通すべきであります。
 弓を手に持ち、私は、愚かにもあなたの即位式を妨害する者たちをすべてを破滅させてやりましょう。」 

 このように語ったスミトラーの息子を抱きしめて、ラーマはこう言った。

「おお、ラグ族の勇敢なる子孫よ! お前は確かに力強く勇敢である。そして私に対して善意を持ってくれている。私はこの一切を受け入れる。しかし、今はお前の武勇を示す時ではない。
 この王国と身体を含むわれわれが経験するすべてのものが、究極的な意味で真実であったならば、お前が提案してくれた輪郭に沿って努めることが、お前にとって相応しきことであろう。
 楽しみは、雲の中に現れる稲妻の光のように束の間のものである。同様に、人生はまるで、熱された鉄の破片に振り撒かれた小さな水滴のようなもの。時の悪魔に捕まれた者たちにとって、極度に一時的な喜びを切望することは、蛇の口の中に常住する蛙が食物を求めて鳴くようなものなのだ。
 人間は昼夜、肉体の楽しみの対象を確保するためにさまざまな種類の仕事に四苦八苦している。しかし真実には、身体は真我とは異なったものなのだ。
 一切の衆生にとって、極度に一時的なものとは、自分の父、母、息子、兄弟、妻などの知人や親族との付き合いである。それはちょうど、旅人の路傍の宿での付き合いのようであるに過ぎない、あるいは河に流れてゆく木片のようであるに過ぎないのだ。
 幸福は影のように無常である。若さも同様に、水の入った容器の中の波のよう。性的な喜びは夢のようであり、実体がない。人生など所詮、非常に短い時間に過ぎない。しかし全く奇妙なことに、すべての衆生はそれらの価値を究極の目的であるかのようにして追い求める。
 この輪廻の生は夢のようだ。それは病から生じる苦しみに満ちている。それは幻想のように儚いものであるのにかかわらず、愚かな者たちはそれを追い求める。
 日の入りと日の出は、命の衰退を示している。他者を見ると、一切は老いと死に屈するということをわれわれは知る。しかしそれでも、人はそれが同様に自らの運命でもあるということに気付かない。
 彼が今快楽に耽っている毎日毎晩が、先に立って行った者たちの終息を示していることも気付かずに、愚かで無分別な者は闇雲に快楽を追い求める。彼は時が経過していくその速度に気付かないのだ。
 われわれの寿命の容量は、まだ焼いていない壺に入っている水のようである。それは毎瞬毎瞬漏れ、終いには枯渇する。多くの病は敵のように常に身体を攻撃し、破壊しようとしている。
 老いと病は常に身体を攻撃し、そしてそれらをきっかけに、死も、雌虎のように人間に襲いかかる機会を覗っている。
 この世界において、人は――蛆虫、糞、灰と同義語に過ぎない自分の身体を『私』であると考えているということに気付くだろう。この身体のような見下げ果てた事柄に関して、彼は自分は世界に名高い王であると思っている。
 皮膚、骨、排泄物、精液、血などの集まりに過ぎないこの身体が、どうして真我であり得ようか? そしてそれは同様に無常でもある。そのような身体がどうして真我と同一であると見なされようか?
 おお、ラクシュマナよ! お前がこの世界を滅ぼしてやろう、と言いたいがためのその身体――その身体を自分と認識することが、一切の悪の原因となっている。
 『私は身体である』という信念は、アヴィディヤー(無明)と呼ばれるものである。そして、『私は身体ではなく、意識の光である』という信念が、ヴィディヤー(明智)と呼ばれるものなのだ。
 アヴィディヤーは輪廻の生の原因となり、その根絶はヴィディヤーによって達成される。ゆえに、解脱を熱望する一切の者は、常にヴィディヤーを培うべきである。ヴィディヤーを培う中で、根本的に妨害となる要因は、性欲や怒りといったような煩悩である。
 それらの中で、怒りは最も大きな障害となる。なぜならば、怒りに支配されると、人は、父、兄弟、好意を寄せている人、友でさえも殺してしまうからだ。
 怒りから、心に苦しみが生じる。怒りは人を輪廻の生へときつく縛りつけ続ける。怒りは人の誠実なる性向を消し去ってしまう。ゆえに、怒りはなんとしてでも放棄されなければならない。
 怒りは最も恐ろしい敵なのだ。欲望と強い愛著は、渡るのが困難な地獄のヴァイタラ二ー河の性質である。満足感は、天界の庭園ナンダナの森である。心の底からのシャーンティは真に、天界の豊かな牛、カーマデーヌなのである。」

◎心を調御し、平静となる

 「ゆえに、心の平静を実践しなさい。それによって、お前は敵を持つことを逃れることができるのだ。真我は、感覚、心、プラーナ、ブッディ、その他の範疇とは異なるものである。純粋で不変なる真我は、他の存在のいかなる助けもなしに光り輝く、遍在する自性意識の智性(スワヤンジョーティ)なのだ。
 人は身体、感覚、プラーナからの真我の独自性を悟らない限り、非常に長い間、死を含む輪廻の生の苦しみの支配を受けるであろう。ゆえに、常に真我を心身の観念から完全に分離して、ハートに宿っていると考えなさい。このように真我を知りながらも、同時に世間の慣習に従うのだ。苦しみを感じてはいけない。楽と苦しみは、活動しているカルマ(プララブダ)に従って、人に降りかかるのだ。
 俗世の生活の流れに沿って生き、さまざまな行為(カルマ)の行為者であるように見えるにもかかわらず、真我を知る者は、行為(カルマ)の善悪の結果によって縛られることは決してない。
 純粋であり、内側では心を動かさないことによって、人は行為(カルマ)の影響を受けなくなる。これらの教えを常に覚えておきなさい。
 このようにすることで、お前は輪廻の魔手にかかることは決してなくなるだろう。そしてあなたも、ああ、母上よ、私がラクシュマナに語ったこれらの真理を心に留めておいてください。
 あなたは私の帰還をお待ちください。あなたの悲しみはさほど長くは続かないでしょう。カルマの奴隷となっている衆生は、さまざまな異なる環境が彼らのカルマの果報を経験するために必要であるように、常に同じ状況の中で生きることができません。ゆえに、同じ人々と同じ場所で常に生きることは、彼らには与えられないのです。彼らは、果報を生み出すカルマの量に従って別れなければなりません。
 カルマの奴隷となっている人々は、水の流れにとらえられた舟のようです。舟は、水の流れの速さと流れる方向によってさまざまな方向へ流されます。そして、高々十四年なんて、一瞬のうちに過ぎ去るでしょう。
 ああ、母よ! 悲しみを捨て去り、私に旅立ちの許可をお与えください。あなたがそうしてくだされば、私は平穏のうちに森に住むことができましょう。」

◎ラーマがカウサリヤーとラクシュマナとシーターに自らの決心を納得させる

 そのように言うと、ラーマは礼拝し、母上の御足に長い間ひれ伏した。母カウサリヤーは彼を起き上がらせると、彼を膝の上に座らせ、祝福を与えた。
 ラーマを何度も何度も抱きしめた後、彼女は次のような祝福の言葉と共に、彼に旅立ちの許可を与えた。

「ガンダルヴァと共に、すべての神々が――ブラフマー、ヴィシュヌ、マヘーシュワラの神々が、あなたがどこにいようと、あなたがどこを行こうと、あなたがどこにとどまろうと、あなたがどこで眠ろうと、あなたを守護してくださりますように!」 

 そこでラクシュマナはラーマにひれ伏し、感情で喉を詰まらせながら、こう言った。

「おお、ラーマ様! あなたは今、私の心の内にあった疑問を晴らしてくださいました。ところでどうか私に、あなたについて行き、あなたにお仕えさせていただくことを許可してください。どうか、そのように私に御命令ください。
 ああ、ラーマ様! その祝福を私にお与えください。あなたがそうしてくださらなければ、私は命を絶ちます。」 

 ラーマはラクシュマナの懇願を受け入れると、彼にこう言った。

「ならば、旅立つ準備をしなさい。遅れてはならぬぞ。」

 宇宙の主そのものであられるラーマは、次に妻のシーターを慰めるために彼女の元へと向かった。夫が来たのを知ると、シーターは彼を微笑みと甘い言葉で出迎えた。彼女は金の器に溜められた水でラーマの御足を洗うと、彼を見てこう言った。

「ああ、主よ、どうしてあなたはボディーガードを連れずに来られたのですか? 今まで何処にいらしたのですか? あなたの上にいつもかざされている白い儀式用の傘はどうしたのですか? なにゆえにあなたが行かれるところに、音楽が奏されていないのでしょうか? なぜあなたは、冠や他の王家の記章を身につけられずにここに来られたのですか? そしてまた、どうして誰も従属の王子を引き連れていないのでしょうか?」 

 このようにシーターに尋ねられ、ラーマは微笑みながらこうお答えになられた。

「ああ、美しき者よ! 王が私にダンダカの森という王国を与えられたのだ。ゆえに私は、それを統治するためにただちにそこへ向かう。私は今日にでも森へと旅立つだろう。ゆえにお前は、わが父君と母上と共にここにとどまり、特に母上に仕えてくれないか。これは冗談ではなく、真剣に話しているのだ。」

 シュリー・ラーマの言葉を聞くや否や、驚きと恐怖に打ちのめされ、シーターは彼に、なぜ高潔なる父君が森へ行けだなどと彼に命じたのかを尋ねた。
 ラーマはそこで、彼女にこう仰った。

「カイケーイー妃に大いに感謝して、王は二つの恩寵を彼女に与えらた。それに従って、彼はバラタに王国を、私には森をお与えくださったのだ。
 カイケーイー妃は、私が十四年間森に追放されることをお望みになられた。王は私に本当にお優しいが、真理の完全な遵奉者であるゆえ、私を森に追放されたのだ。ゆえに私は出発を急いでいる。おお、気高き女性よ! 私の計画の邪魔をしないでくれ。」

 ラーマのこの言葉を聞くと、シーターは大きな歓喜に満たされて、彼にこう言った。

「まず私が森に参ります。あなたはただ私の後についてくるだけでよいのです。ああ、ラグ族の子孫よ! あなたが私をおいて行かれるのはふさわしからぬことであります。」

 ラーマは、妻の態度を非常に喜ばれたが、それにもかかわらず、彼女にこのように仰った。

「どうしてお前を、虎やその他の野生動物で溢れている森へとつれて行くことなどができようか?
 森には、人間を食う恐ろしい悪魔がうようよいるのだ。森の至る所には、ライオン、虎、野生の猪などの野生動物がはびこっている。
 ああ、美しき者よ! そこでは、刺激的で酸っぱい根や果物を食べて生活しなければならない。きれいに盛られた料理や味のよい食事など、そこにはないのだ。
 果物でさえも、いつも欲しいときに食べられるわけではないだろう。森の道もまた、隠れていて見えない。そこには石や棘がたくさんある。
 ダンダカの森は、洞窟や、ブンブンと音をたてて人を刺す虫のような、多くの恐ろしいものに満ちている。
 そしてそこを裸足で歩かなければならないのだ。そこでは、寒さの震えと暑さが交互に訪れ、それに加えて酷い風が吹く。それに、悪魔の姿に脅えてお前は死んでしまうかもしれないぞ。
 ゆえに、ああ、美しき者よ、お前は私が帰って来るまで、この宮殿にいなさい。」 

 ラーマのそのような言葉を聞くと、シーターは悲しみに打ちひしがれ、憤慨で顔を真っ赤にして、こう答えた。

「私はあなたに貞節を誓い、あなたお一人に依存しているけがれなき正妻であります。どうして私が、あなたと離れて暮らすなどということを考えられるでしょうか? あなたはすべてのダルマをご存じであり、本質的にお優しい御方であります。その森の中で、私はあなたと共にいるというのに、誰が大胆にも私を傷つけるでしょうか? 
 あなたが召し上がった果物と根の残り物は、私にとってはアムリタそのもののような味がするでしょう。私はその食べ物で十分に満足して生活するのです。あなたに従えば、草やイバラの灌木や石でいっぱいの森の土地は、私にとって、花のベッドが敷き詰められた場所のようになるでしょう。私にはそれについての疑念は一切ありません。
 私は決してあなたに迷惑はかけません。その一方で、私は常にあなたのお役にたちましょう。私が小さき頃、偉大なる占星術師が私を見て、私は夫と共に森で暮らすだろうと予言されました。そのお方の言葉が真実になるよう、お祈りいたします! 私は必ずや、あなたと共に参りましょう。
 私はもう一つのことをあなたにお伝えいたします。それを聞いて、どうか、私を森へ連れて行くことを心に決めてください。
 私は多くの学者が吟唱するさまざまなヴァージョンのラーマサーガ(ラーマーヤナ)を聞きました。その中で、ラーマがシーターを連れずに森へ行くことがありましたでしょうか? そのようなものは明らかに存在しておりません。ゆえに、私はあなたと共に行かなければならないのです。あらゆる手段を尽くして、私はただただ、あなたのお役に立てればよいだけのです。
 あなたが私を連れて行かないとお決めになられるならば、私はあなたのまさに御面前で、命を捨てましょう。」

 シーターのこれらの決然とした言葉を聞いて、ラーマは彼女にこう仰った。

「ああ、わが妻よ! ならば、速やかに私と森に旅立つ準備をしなさい。首輪やその他の宝石類は、われらのグルの奥方アルンダティー様に譲り渡そうではないか。そして、すべての富を捧げものとして聖者様方に施した後、森へ旅立とう。」
 そう言うと、彼はラクシュマナに、多くの信仰深いブラーフマナを集めるように頼み、彼らに供物として、数百頭の牛と高価な衣服と装飾品を施したのだった。彼らは皆、ヴェーダに精通し、高潔な行為を為し、家族を持った家の主であった。
 シーターは、ラーマが大量の富を、捧げものとして母の従者たちに施している間に、彼女のすべての大切な装飾品をアルンダティーに捧げた。
 このようにして、ラーマは幾多の捧げものを、宮殿の住居者たちに、彼の召使いたちに、街や村の民たちに、そして多くの聖人たちに施されたのであった。
 そしてラクシュマナは、母スミトラ―にカウサリヤーのお世話を委ね、手に弓を携えると、出発の準備をしてラーマの御前に立った。
 それからラーマ、シーター、ラクシュマナは、王の宮殿に行った。
 百の愛の神よりも美しく、一切の方向を照らす光輝を持ち、三界を聖別される足跡をお持ちの青い肌をしたラーマは、シーターとラクシュマナと共に、即位式のメインストリートに集まった街や村々の民たちの大群衆を楽しそうに見ながら、父の邸宅にのんびりと歩いて行かれたのであった。

share

  • Twitterにシェアする
  • Facebookにシェアする
  • Lineにシェアする