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「解説・ミラレーパの生涯」第一回(4)

 はい。そしてもう一つ、ここにはちょっと書いてないけども、もう一つ、ミラレーパが与えられた試練があって、これはちょっと前も言ったけど、マルパやあるいはマルパの高弟であるゴクパとかに命じられて、まあつまりミラレーパの魔術の力を使って暴力とか殺生とかを命じられるんだね。
 どういうことかっていうと、当時はね、さっきも言ったように、まだチベットっていうのはあまりちゃんとした法治国家じゃないんで、その地域のいろんな紛争とかたくさんあったわけですね。で、マルパも――マルパっていうのは、その地域の大聖者であったけども、同時にお金持ちのビジネスマンでもあったんで、いろんな商売敵とか、あるいは宗教的な敵とかたくさんいたんだね(笑)。で、そいつらをおまえは魔術を使って懲らしめてこいとかね。あるいはゴクパっていう人がいて、マルパの高弟ですけどね、ゴクパに――まあミラレーパは魔術によってものすごい雹を起こすことができたんでね、ゴクパが、ある村をちょっと懲らしめなきゃいけないんで、おまえの魔術で雹を起こしてくれと。で、ミラレーパはその雹の嵐を起こすんだね。で、それによって、まあ多くの動物も死んだし、村の収穫とかもめちゃくちゃになったとかね。で、それでミラレーパは大変苦しむんだね。――っていうのは、もともとお母さんに言われちゃって、その魔術によって大悪業を犯して、で、それが自分の道を求めるきっかけになったわけだよね。わたしは悪業を犯してしまったと、これを浄化したいと思って師だと思った人のもとに来たら、また同じことをやれって言われてるようなもんです(笑)。つまりその魔術を使って、ね、殺生とか暴力をまた命じられるんだね。しょうがないから、また悪業を犯さなきゃいけなくなって、それでまあまた苦しむんだね。
 で、この話は前にほかの勉強会で言いましたけども、まあ軽くまたね、復習するけども、ここに実は密教の一つの秘技が隠されているんだね。つまり――もう一回言いますよ――ミラレーパは大いなる悪業を積んでしまった。それは暴力、殺生っていう悪業を積んでしまったわけだけど、これは前も言ったように、しかしですよ、これはなんの因果がなくそれが起きたわけじゃないよね。つまりミラレーパはもともと、殺生を犯さなきゃいけなかったっていうことは、つまりその殺生のカルマという地獄のカルマをもともと持って生まれてきてたんだね。
 もう一回復習になるけども、カルマっていうのは必ず、二面性っていうかな、があるんだね。二面性っていうのは、例えばここにね、いじめられている人がいたとしたら、この人はもちろんいじめられるカルマがあるんだけど、逆にいじめるカルマもあります。いじめる・いじめられるっていう連鎖の中に生きてるんだね。だからその人は今生はいじめられたけども、来世はいじめるかもしれない。このいじめる・いじめられるっていう世界で生きているんです。同じように殺生も、殺す・殺されるっていう世界で生きてる。まああるいは例えば、そうだな、嘘っていうカルマがあるとしたら、よく嘘をつかれる人は当然、嘘をつくカルマもあるわけだね(笑)。だからこのカルマの輪っていうのは必ず両面があって、それから抜けない限りは、それを繰り返すことになるわけですね。
 で、ミラレーパもこのような、まあつまり自分の意思とは関係なく大いなる殺生をしなきゃいけなかったっていうことは、もともと過去世から、殺す・殺されるっていうカルマがあったんです。あるいは暴力を振るう・振るわれるっていうカルマがあったんです。で、それをマルパは浄化するというよりも、浄化と同時に利用したんだね。利用した。どういうことかっていうと――ここでミラレーパはマルパからいじめられることによって、特に肉体的、精神的いじめを受けることによって、肉体的、そして精神的な苦痛を味わったよね。で、同時に魔術によって、マルパとかゴクパの命令によって肉体的、精神的苦痛を人々に与えたんだね。これは――もう一回復習しますよ。これはもともとミラレーパにそのカルマがあったからです。もともとミラレーパに暴力・殺生のカルマがあったから、ここでも同じくそれを行なったんだけど、しかし前までとの違いは、そのすべてが師の命令だっていうことです。つまり、もともとこいつには殺す・殺される、あるいは暴力を振るう・暴力を振るわれるっていうカルマがあると。どうせやんなきゃいけないんです、この弟子はね。どうせやんなきゃいけないっていうか、やんなくても済む方法もあるよ。それは別のやり方でじっくりとカルマを浄化する方法はあるんだけど、しかし密教っていうか、マルパはそうじゃない方法をとった。どうせやんなきゃいけないならば、師への帰依っていうその方向性によってこのカルマを昇華してしまおうと思ったんだね。つまりどうせやらなきゃならないミラレーパのカルマを利用して、師への服従っていうかな、帰依っていうものを達成させたんだね。これが密教の一つのやり方です。あくまでも一つのやり方ですけどね。それがすべてじゃないんだけど。つまりその弟子のカルマを見抜いて、逆にそれを帰依とかあるいは修行に結び付けるような方法で昇華させてしまうんだね。
 これはね、いつも言うように、神の化身である師匠がそれを意識的にやる場合もあるけども、そうじゃなくて自動的に神とその弟子の間でそのような流れが起きることもあります。例えば、何回も言ってるけども、あの『クリシュナ物語』に出てくるカンサ王なんかまさにそのパターンですね。カンサ王っていうのは、クリシュナの大敵として魔王として登場するんだけど、もともとこのカンサ王っていうのは大いなる悪魔の生まれ変わりなんです。悪魔の生まれ変わりだから、当然もともと、なんていうかな、悪いことをするカルマがあったわけだけど、クリシュナはそのカンサ王を自分の救済計画の登場人物として登場させ、そしてその一役を担わせることによって彼のカルマを昇華したんだね。つまり彼じゃなきゃできなかった、魔王の役はね(笑)。だからちょっと変な話だけど、ちょっとおまえカルマ悪いから来いと。おまえ、魔王やらせてやるからと。ね(笑)。普通だったら、またどっかの世界で悪いことをして、どんどんカルマが悪くなって地獄に落ちるだけだけども、わたしと一緒にやってきて、悪役やれと。おまえしかできないからと。この任務を達成することによって、逆におまえのね、その悪魔としてのカルマは解消され、偉大な達成を得るだろう、というようなことですね。クリシュナはもちろんこういうことは口では言ってないけども、そのような救済計画に無理矢理カンサをまあ引きずり込んでいるわけだね。
 で、それをもうちょっと現実的にっていうか、現実世界面でマルパはやってたわけだね。ミラレーパのカルマを見抜いて、それを――もう一回言うけども、帰依という方向性によって、ね、相手に苦しみを与えるカルマ、そして苦しみを与えられるカルマ、この両方を昇華させたんだね。これは浄化ではなくて昇華です。密教っていうのはこういう感じで、浄化ではなくて昇華の道をたどります。昇華させることによって、変な話だけども、悪が悪でなくなるっていうか。もともと善悪って実体がないから。しかしわれわれは、その悪は完全に悪としてこびりついているわけだけど、それを特別な方法によって昇華させてしまうんだね。これが一つのやり方ですね。
 しかしこれができるには、何度も言うけども、最初に言った、もう絶対的な師との関係性っていうかな、それが必要なんだね。で、もちろんこれはそのまあミラレーパにとっては大変だったけども、まあその大いなる結びつきと、ミラレーパの帰依心と心の強さによって、なんとかその道をね、歩むことができたわけだね。
 しかしちょっとミラレーパの心が萎えていたときに、マルパが自分の師匠であるナーローの話をするわけですね。で、ナーローっていうのは、前にもちょっと勉強したけども、もうナーローの場合は、さっきも言ったようにもうほとんど完成した魂なんで、あんまりミラレーパみたいな苦しみがないんだね(笑)。もうなんの躊躇もなく、まあ師に従っているわけだね。例えば、ね、何回も言ってるけども、命令でさえないからね。命令でさえないっていうのは、一緒にね、高い塔に上って、命令じゃなくて、ティーローがね、ポツリと、「いやあ、わたしに弟子がいたら、こっから飛び降りるだろうな」って言ってね(笑)。つまり「飛び降りろ」じゃないんですよ。「飛び降りるだろうなあ」なんです。で、そこでナーローは、「あ! これはグルの意思である」と、「わたしに与えられた言葉だ」と思った瞬間、なんにも言わずに飛び降りるんです。ね。普通だったらね――あのさ、そうだな、ちょっと帰依心が強い人だったら、結果的には飛び込めるかもしれない。どういうことかっていうと、「え、ちょっと師匠、今、もしかして僕に言いました? 飛び降りろって言うんですね。それ、やっぱやんないと駄目ですかね? いや、できるんですけど、ちょっと待ってください。ちょっと、ちょっと、心の準備が」とか言って、「やっぱこれしかないですよね?」とか言って、「帰依します!」とか言ってこう飛び込むのはできるかもしれないけど(笑)。

(一同笑)

 そんなんじゃないんだね(笑)。聞き返すとか……聞き返すの裏側にはさ、間違いであってくれとかね(笑)。違う道もあってくれとかあるわけでしょ。なんにもそんなことは考えないんです。もう一つしかないんです。師の意思の実践、それしかないんだね。そこになんの言い訳もないと。「はい、分りました」――だけなんだね。これがだからナーローの偉大性ですよね。
 まあ、だからこれはわれわれも、なんていうか、純粋な帰依は目指さなきゃいけないわけだけど。しかし普通はそれがパッとできる人はあんまりいない(笑)。ね。なかなかそれは、なんていうかな、まあ難しいね、普通はね。しかしミラレーパはここでそのナーローの素晴らしい、全く無私っていうかね、自分がない、師へ完全に投げ出したナーローの話を聞いて、まあまだミラレーパはそのレベルではなかったけども、燃えるようなあこがれっていうかな、思いが出たわけだね。
 で、そこでちょっと、この段階でちょっと心が萎え始めてたんだけど、ね、考えてみたら自分がマルパに与えられている試練っていうのは、ナーローが与えられた――まあナーローは二十四の試練を与えられてるんだけど、その二十四の試練のどれよりも小さいと。ね。
 われわれはもっと小さいよね。ミラレーパよりも小さいよね(笑)。例えば師に直接与えられたものだけじゃなくて、自然に生じたね、神から与えられた試練が皆さんにはいろいろあるだろうけども、そのどれ一つとったって、ナーローはもちろんのこと、ミラレーパよりも小さいと。ね。それなのになんでわたしは立ち向かえないんだと。そういうふうにしっかりと自分に言い聞かせたらいいと思いますね。
 で、ミラレーパがこのときに、ちょっと心をね、鼓舞されて、またマルパの指示にすべて従おうと決意し、またそのね、マルパの指示である強制労働、肉体労働ね、を続けたっていうことですね。

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