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「ヴィヴェーカーナンダ」(17)

 しばらくの間、ラーマクリシュナの若い出家の弟子たちは、バラナゴル僧院で共に住み、修行に明け暮れていましたが、そのうち、一人また一人と、放浪の修行の旅に出るようになりました。ナレーンドラも、様々な聖地を訪れてはまた僧院に帰ってくる、ということを繰り返していました。

 旅の中で、インドの各地で苦しんでいる様々な人々を見るにつけ、ナレーンドラは、彼らに教えを説き、彼らを救済することの必要性を強く感じました。そして常に「自分は何かをせねばならない」という強い思いに駆られていましたが、それが何であるのかわかりませんでした。

 世間で苦しむ人々を救わなければいけないという強い思い。しかし何をしたらいいかわからないもどかしさ。そのもどかしさの中で、ナレーンドラは各地の様々な聖者を訪ねることで、救いを求めようとしました。

 その中で、ナレーンドラが強く心をひかれた聖者がいました。それはガージープルに住むパオハーリー・ババという名の聖者でした。

 パオハーリー・ババはヴァラナシで生まれ、青年時代に様々なインド哲学を学んだ後、世を捨てて出家し、放浪の禁欲修行者となりました。後にガージープルに落ち着き、ガンジス河畔の人目につかないところに住みました。彼は毎日ほとんど瞑想に没頭し、それ以外に何もしないで生きていたので、人々から「霞を吸って生きている聖者」と呼ばれ、その謙虚さに、多くの人は感動と尊敬の念を感じていました。

 彼にまつわるエピソードは多くありました。たとえばあるとき、彼はコブラに咬まれました。激しい痛みに耐えながら、彼は言いました。
「おお、私の最愛の方からの使者よ!」

 またあるとき、犬が彼の食料のパンをくわえて逃げました。彼は犬の後を追いかけながら言いました。
「どうぞ待ってください。私の主よ。あなた様のためにパンにバターを塗らせてください。」

 しばしば、彼は乞食や修行僧に自分のわずかな食料を与えては、自分は飢えを耐えているのでした。

 また、あるときからパオハーリー・ババはラーマクリシュナのことを聞き、ラーマクリシュナを神の化身として信じ、大変に尊敬し、自分の部屋にラーマクリシュナの写真を飾っていました。

 ナレーンドラがこのパオハーリー・ババと出会ったころ、ナレーンドラは激しい腰痛に悩まされ、また精神的にも疲れていました。
 パオハーリー・ババと出会って彼を大変尊敬したナレーンドラは、パオハーリー・ババをヨーガの師としてあおぎ、教えを請い、その心身の苦境から脱しようとしました。
 しかしなぜかパオハーリー・ババは、ナレーンドラを弟子として受け入れることを拒否し続けました。

 ある夜、ナレーンドラが寝床に横たわりながらパオハーリー・ババのことを考えていると、ラーマクリシュナが現われ、戸口の近くに黙って立ち、一心にナレーンドラの目を見つめました。このヴィジョンは、21日間にわたって、毎晩繰り返し現われ続けました。
 ナレーンドラは、ラーマクリシュナへの信が自分には不足していたことに気づき、自らをきつく責めました。今やっとナレーンドラは、確信を得たのです。彼はラーマクリシュナがいかに一途な祈りを捧げ続けたか、民衆による侮辱を許容したか、そしていかに自分の苦悩を取り除いてくれたかを、涙ながらに思い出しました。
 彼は友人への手紙の中で、こう書きました。
「ラーマクリシュナに匹敵する人はおりません。師のすべての人に対するすばらしい親切さ、束縛されている人々に対する強い同情などの完全さは、この世のどこにも、いまだかつて見たことがありません。」

 
 このようにして聖地を訪ねたり、僧院へ戻ったりを繰り返すうちに、ナレーンドラは、いまや自分の人生が、普通の世捨て人の修行者と同じであってはならないと自覚し始めました。ナレーンドラは、ヴェーダーンタなどの偉大なる叡智をもって、インド、そして世界の人々を救わなければいけないという使命感を感じていたのです。しかし当時若干25歳のナレーンドラにとって、その仕事はあまりに大きくも感じられました。これについてナレーンドラは兄弟弟子と何度も話し合いましたが、あまり賛同してくれる声はありませんでした。ナレーンドラは、たとえ他の人々の助けがなくても、自分は一人でもそれをなすべきだと決心しました。

 ついに1890年のある日、ナレーンドラは、強い決意をもって、再び放浪の旅に出ることにしました。出発にあたってナレーンドラは、兄弟弟子に対してこう言いました。
「私が触れるだけで人々を救えるような悟りを得るまでは、私は帰らないでしょう。」

 また、ラーマクリシュナの妻であるサーラダー・デーヴィーのもとへ行き、最高の智慧を得るまでは帰らないという誓いを立てました。サーラダー・デーヴィーはラーマクリシュナに代わって、ナレーンドラに祝福を与えました。

 「今生の母に別れを告げなくてもいいのですか?」
とサーラダー・デーヴィーに尋ねられたナレーンドラは、彼女にこう答えました。

「お母様。あなただけが私のたった一人の母です。」

つづく

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