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「グル・リンポチェ」(8)

 サムイェー僧院の中央礼拝所の二階で、グル・リンポチェは、ティソン・デツェン王、イェシェー・ツォギャル、ヴァイローチャナに、ロンチェン・ニンティクのメッセージと教えを与えました。そしてさらにグル・リンポチェは、これらの教えはティソン・デツェン王の転生であるジグメ・リンパとヴィマラミトラによって発見されるだろうという予言を添えました。
 ティソン・デツェン王は69歳で死に、ムーネ・ツェポ王子が後継しましたが、彼はたった1年と6~7ヶ月のあいだ在位したあとに死んでしまったため、彼の弟のムティ・ツェポ王子が後を継ぎました。

 それから55年と6ヶ月が経ったあと、木の猿の年(西暦864年)、グル・リンポチェは、ムティ・ツェポ王と大臣たちが止めるのも聞かずに、チベットを離れ、彼が顕在する浄土である【サンド・ペリ(銅色に輝く山)】へと向かうことになりました。王と膨大な数の信者達は、マンユルのクンタン峠まで、グル・リンポチェにお供しました。クンタン峠において、王は次のように言って嘆きました。

「ティソン・デツェン王は天へと旅立たれた。
 ウッディヤーナのグルは、彼の浄土へ行こうとしている。
 ムティは、チベットに残されてしまうのか。
 父の生はとても短く、
 グルの思いやりはあまりにも限られている。
 わたしの功績はあまりにも貧しい。
 今や、ダルマの法の機関は減退してしまった。
 チベットの民の喜びの対象は尽きてしまった。
 グルと父がいらっしゃるあいだに
 どうして私は死ななかったのか!」

 グル・リンポチェは、王と家臣たちを慰めてこう言いました。

「若いあいだにダルマの実践をし、自身の力を発揮せよ。
 老人になると、ダルマを理解することはむずかしい。
 おお、王よ、家臣たちよ。人生は束の間である。
 野暮な考えを持ってしまったときは、その対象と自己の心を見よ。
 識別をせず、自然にくつろぎなさい。
 おお、王よ、家臣たちよ。見識を解明することは極めて重要である。
 慈悲がなければ ダルマの訓練の根は腐っているということだ。
 輪廻の苦しみの特徴について、繰り返し考えなさい。
 おお、王よ、家臣たちよ。ダルマへの専念を先延ばしにしてはならない。

 敬虔な人々は、自分たちで目的に到達する。
 ダルマから離れるいかなる理由も存在しない。
 生きているうちに、ダルマの経験を努力して獲得しなさい。
 死のあとに儀式に頼るのでは遅すぎる。
 敬虔な人々のために、パドマサンバヴァはここにいる。
 祈る人々のために、彼らの扉のところに私はいる。
 今、パドマサンバヴァは、チベットに留まらず、ラークシャサの地へ向かう。
 木の上から飛び立つ鳥のように。」

 空に浮かぶ色とりどりの雲の中央から、装飾された聖なる馬が現れ、賛美歌と甘い音楽に包まれて、グル・リンポチェはイェシェー・ツォギャルと、多くの聖なる存在たちと共に、西の空へ向かって高く上っていきました。
 そしてグル・リンポチェと一行の影はだんだん小さくなり、音楽もゆっくりと消えていきました。王と集まった家臣たちの頭上には、ただ静かに澄み切った何もないチベットの空だけがありました。
 一方で、グル・リンポチェの出発を違う形でとらえていた人々もいました。ある人々にはグル・リンポチェがライオンに乗って去ったように見え、ある人々には太陽光線に乗っていったように見えました。
 グル・リンポチェとイェシェー・ツォギャルは、チベットを去ったあと、ツァワ・ロンの神聖な洞窟に降りたちました。グル・リンポチェはさらなる教えと予言をツォギャルに与えたあと、愛と思いやりをもって別れを告げ、次のような言葉を残し、光とともに空へと昇っていきました。

「おお、イェシェー・ツォギャルよ、聞きなさい。
 パドマサンバヴァは、素晴らしい至福の地へと行く。
 わたしは、不滅の神性の中にとどまる。
 一般的な死における心身の分離と共通するものは何もない。
 鍛錬の真髄であるグルヨーガを瞑想しなさい。
 あなたの王冠の上にある蓮華と月の上に、光の真ん中にある二本の足、
 あらゆる存在のグルであるパドマサンバヴァを思い描きなさい。
 観想が明確になってきたら、力を受け取り、熟考しなさい。
 祈りの心の真髄である、グルのシッディ・マントラを唱えなさい。
 最後に、あなたの三つの扉をわたしに密接に統一させなさい。
 グルの心の本性を悟ることに、強い願望を生じさせ、捧げなさい。

 ゾクチェンの本質を易々と熟考しなさい。
 これより優れた教えはない。
 パドマサンバヴァの愛は、常にそこにある。
 たとえ私がこの場所を離れても、チベットへの深い私の哀れみの光の輪は、絶たれることはない。
 祈りを捧げる子供たちのために、わたしはいつも彼らの前にいる。
 私に信を持つ人々は、決して私と離れることはないだろう。」

 グル・リンポチェは、自発的成就のヴィディヤーダラとして、目に見えない世界の明らかな浄土であるサンド・ペリ(銅色に輝く山) に、今なお存在していると信じられています。自発的成就のヴィディヤーダラは、成就の最後のステージで、完全な仏陀になるほんの手前のステージです。その悟りと活動は仏陀のそれと似ていて、その姿形はサンボーガカーヤと同等です。この成就は、菩薩の十番目のステージと同等です。

 グル・リンポチェは、多くの衆生のために、そして偉大なる変容と不滅のヴァジュラの身体の達成を獲得した、達人として彼が現したもののためへの利益がある限りは、彼の明らかな浄土に留まり続けます。
 チベットにおけるグル・リンポチェの数多くの弟子たちの中で特に偉大なる者は、王と25人の家臣であり、イェルパで虹の身体を獲得した8人の成就者であり、108人のチュウォ山の瞑想家であり、30人のタク谷のタントリカであり、55人のヤルルン谷で悟り得た者たちであり、25人のダーキニーと7人のヨーギーです。

 また、グル・リンポチェには、高い悟りを得たチベットの女性の弟子たちがいました。 
 トのティサムは、空を飛びました。 
 マゴのリンチェンツォは、太陽の光に彼女の服を掛けました。 
 オチェのカルギャルパクは、ダーキニーのヴィジョンを見ました。 
 チョクロのチャンチュプは、火と水を体の中に同時にあらわしてみせました。
 カルチェンのイェシェー・ツォギャルは、体の各々の部分に、さまざまな仏陀の存在をあらわしてみせました。
 ジンのラカルマは、空を飛び、障害なく地面の中に入っていきました。
 シュクのシェーラプ・パクマは、記憶の中に膨大な仏陀の教えの集積を持っていました。
 バのラモヤンは、瞑想的没頭の完全なる力を通して、人々のさまざまな願いを叶えました。
 シーカルのドルジェツォは、竹の杖の上に立って、ブラフマプトラ川を渡りました。

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