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「クル軍VSアルジュナ」

(32)クル軍VSアルジュナ

☆主要登場人物

◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ヴィラータ王・・・マツヤ国の王。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎クリパ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。ドローナの義兄。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎アシュワッターマン・・・ドローナの息子。
◎ウッタラ王子・・・ヴィラータ王の息子。

※クル一族・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たちとその家族。
※パーンドゥ一族・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たちとその家族。パーンドゥの五兄弟は全員、マントラの力によって授かった神の子

 アルジュナとウッタラ王子を乗せた戦車は、クル軍へと猛スピードで突進していきました。クル軍の兵士の多くは、アルジュナが現われたと知って、恐怖におののいています。

 「しっかり陣立てをしなければ・・・。アルジュナが来たのだから、油断しているとただではすまないぞ!」
と、ドローナが心配そうに言いました。

 しかしドゥルヨーダナは、ドローナがアルジュナを過大評価していると思い、快く思いませんでした。彼は言いました。
「アルジュナなど、恐れる必要がどこにあろうか。まだ約束の13年目が終わっていないのに、アルジュナがわれわれの前に現われたのだ。よってあいつらはこれからまた12年間、森をさまよわなければならない。それだけのことだ。
 ドローナは学問のしすぎで、臆病風に吹かれたのではないかな。臆病なドローナは後方において、われわれで戦おう。」

 カルナもまた言いました。
「あれがアルジュナだとしても、おそるるに足らん。私がアルジュナを押しとどめておいてやるから、みなはマツヤ王の牛や財産を好きなだけ奪うがよい。」
 こう言うと、カルナは高らかにラッパを吹き鳴らしました。

 カルナのこの言葉を聴いたクリパが言いました。
「まったく馬鹿げたことを言うやつだ。みなで協力してアルジュナと戦って、やっと何とかなるかどうかというところなのに、おぬし一人でアルジュナと戦うなど、大風呂敷を広げるな。」

 これを聞いて、カルナは怒りました。
「クリパ師は常にアルジュナを称賛し、彼の武勇を誇張するのがお好きなようだが、それが恐怖から来るものか、またはパーンドゥ兄弟に対する過度の好意から来るものか、私にはわかり申さぬ。
 怖いと思うものは戦う必要がなく、見ているだけで結構。食べた塩の恩義に報いようとする人たちだけが、戦えばよろしい。敵を愛し敵を賛美するようなヴェーダの学者様方には、何の用もござらぬ。」
 こう言うと、カルナは鼻でせせら笑いました。

 ドローナの息子で、クリパ師の甥にあたるアシュワッターマンは、尊敬すべきクリパ師匠に対するカルナの馬鹿にしたような態度を許すことができず、厳しい口調でこう言いました。
「戦いはこれからなのだよ。カルナよ、君の言葉は無駄な虚勢さ。
 私たちは確かにクシャトリヤ(武士)ではなく、ヴェーダや聖典を読誦する階級の人間だが、いかさま賭博で領土を騙し取ることがクシャトリヤの名誉だなどとは、どの聖典にも書いてないぞ。それどころか、正式に戦って奪い取った場合でも、あまり声高に勝ち誇ってはならぬと戒めてある。
 いったい君は何を自慢しようというのかね? いかさま賭博で他人の領土を掠め取ったクシャトリヤを褒め称えないからといって、不満げな顔をするな。
 ドゥルヨーダナとカルナよ。お二人の英雄は、いつどこの戦いで、パーンドゥ兄弟を打ち負かしましたかね? あなた方はドラウパディーを集会の席に引きずってきて恥をかかせたが、あのことを自慢するおつもりかね? あなた方はクル族を破滅させるだろう。アルジュナと戦うことは、さいころを振るのとはまったく違うのですよ。本当におろかな人たちだ。シャクニがさいころでよくやるように、ごまかしで戦に勝てると思っているのかね?」
 
 クル軍の兵士同士は、このように互いに口げんかを始めました。それを見ていたビーシュマは、悲しくなって、みなにこう言いました。

「賢明な人は、自分の教師の悪口は決して言わぬものだ。
 いつもは分別のあるドゥルヨーダナだが、怒りに心が乱れて、わが軍に立ち向かってくるあの兵士が、ほかでもないアルジュナであるという認識が足りない。怒りで知性が曇ってしまったのだ。
 アシュワッターマンよ、どうかカルナの無礼を許しておくれ。血気にはやったあまり、みんなの志気を高めようとしてつい口をすべらしてしまったのだと、善意に解釈しておくれ。
 みなのものよ、味方同士で争っている場合ではござらぬぞ。ドローナ、クリパ、そしてアシュワッターマンよ、カルナとドゥルヨーダナの言ったことは、どうか水に流してくれ。指導者ドローナ、そしてその息子のアシュワッターマン、この二人より優れた軍事専門家は、世界を探してもどこにも見当たらない。ヴェーダの学識とクシャトリヤの勇気の二つを兼ね備えていらっしゃるのですからな。ドローナに肩を並べられるのはアルジュナくらいだろう。われわれ全員が一致協力して戦わなければ、アルジュナに勝つことはできぬ。目の前に課せられた仕事に、われわれの全精力を傾けようではないか。仲間同士で争っていては、アルジュナとの戦いは不可能だ。」

 ビーシュマ長老の立派な言葉で、とげとげしい空気は和らぎました。

 ビーシュマはドゥルヨーダナに向かって言葉を続けました。
「ドゥルヨーダナよ、約束の13年目は、もう終わったのだよ。おぬしはどこか計算違いをして、まだ終わらないと思っているようだが、天文学者に聞けばすぐにわかることだ。
 戦う前によく考えてみなさい。もしパーンドゥ兄弟と和解する気があるなら、いい機会ですぞ。さあ、どちらを選ぶか。正しく名誉ある平和か、それとも相互破滅の戦争か。よく考えて決めることです。」

 この問いかけに、ドゥルヨーダナは即答しました。
「おじい様、私は平和など望みませんし、パーンドゥ兄弟には村ひとつ与える気にはなりません。よって、戦うことにします。」

 そこで、ドローナは言いました。
「それではこれから作戦を指示する。全軍の四分の一は、ドゥルヨーダナを護衛して、ハスティナープラへ帰る。
 別の四分の一部隊は、ヴィラータ王の牛を捕獲してから帰ること。クシャトリヤのしきたりでは、牛を捕獲せずに引き上げたら、負けたことになるからな。
 そして残った軍勢と、ビーシュマ長老、クリパ師、カルナ、アシュワッターマン、そしてわしの五人で、アルジュナと戦おう。」
 
 軍師ドローナの指示で、クル軍は戦列を整えました。

 その様子を見て、アルジュナは言いました。
「ドゥルヨーダナの姿が見えない。おそらくドゥルヨーダナは牛を捕獲してハスティナープラに向かったのだろう。牛を取り戻さなければならないぞ。」

 こう言うとアルジュナは、アルジュナと戦おうとするクル軍の前から移動して、ドゥルヨーダナたちのあとを追いました。このときアルジュナは、かつて自分に武術や兵法を教えてくれたドローナ師やクリパ師、そして一族の尊敬すべき長老であるビーシュマに向かって恭しく挨拶をしました。すなわち、愛弓ガーンディーヴァから彼らの足元に数本の矢を放ったのです。この勇ましい方法で敬礼したあと、方向を変え、アルジュナはドゥルヨーダナを追いかけていきました。

 やがてアルジュナは牛を奪って逃走しようとする軍に追いつき、彼らを蹴散らし、牛をすべて取り戻しました。
 
 これを見ていたビーシュマたちは、牛を奪い返すために急行し、アルジュナを取り囲んで矢を放ちました。アルジュナはあわてずに、一人ずつ倒していく戦法に出ました。まず最初にカルナを襲って、彼を戦線から追い出しました。次にドローナに戦いを挑みました。ドローナがつかれきって防戦一方になったのを見て、息子のアシュワッターマンが隙を見てドローナを戦場から退却させ、自分が代わりにアルジュナに挑んでいきました。アシュワッターマンが負けそうになったので、クリパもそれに加勢しましたが、ついにアルジュナは二人とも撃退してしまいました。
 最後にビーシュマ長老とアルジュナが華々しく戦いました。その戦いの模様は、神々も天界から降りてきて観戦していたほどの名勝負だったといいます。しかしついにはビーシュマも敗れ去りました。
 それを見たクル軍の他の兵士たちは戦意を喪失し、恐怖のあまり散り散りに逃げ出してしまいました。

 次にアルジュナはドゥルヨーダナを追いかけていき、強烈な攻撃を加えました。ドゥルヨーダナは逃げ出しましたが、アルジュナが「卑怯者!」と叫んだので、ドゥルヨーダナは向き直って、アルジュナと戦闘を始めました。ビーシュマ、ドローナ、クリパ、アシュワッターマン、そしてカルナも再びやってきて、ドゥルヨーダナを援護したので、アルジュナは劣勢に見えましたが、ここでついにアルジュナはシヴァ神からもらったあの神聖なる武器「パーシュパタ」を使いました。すると一瞬にして、クル軍の兵士たちは全員、気を失って倒れてしまったのでした。

 そこでアルジュナは、クル軍の兵士たちの衣服をすばやく剥ぎ取りました。当時のしきたりでは、敵の衣服を剥ぎ取ることは、戦闘における絶対的勝利とされていたからです。

 こうしてアルジュナ一人に屈辱的完全敗北を喫してしまったクル軍の兵士たちはみな、ハスティナープラへと帰っていきました。

 アルジュナはウッタラ王子に言いました。
「王子よ。牛は取り戻し、敵はみな逃走しました。われわれも町へ帰りましょう。国の人々はあなたをあがめ、感謝し、称賛し、色とりどりの花であなたを飾ることでしょう。」

 帰る途中で、アルジュナは武器をもとのように樹の上に隠すと、自分は再びブリハンナラの衣装を着ました。そして都へ伝令を送り、ウッタラ王子の輝かしい勝利を宣言したのでした。

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