yoga school kailas

◎チェカワ


◎チェカワ

 はい、大分前置きが長くなりましたが、今回一応中心的に勉強する『心の訓練に関する七つの要点』。これを作ったのがチェカワっていう人なんだけど、この人はもともとチベットのすばらしい修行者であり、かつ弟子たちもいっぱいいた教師みたいな人だったんだけど、このチェカワという人が、この段階でももちろんある程度修行して教えを学んで立派だったんだけど、あるとき、ある友人の家にたまたま行ったら、その家に、どういう縁か、この『心を訓練する八つの詩』が置いてあったんです。で、チェカワは何気なくそれを見て、すごい衝撃を受けた。「よく分からないが、ここにはとてつもない真理がある」という直感を受けたんだね。で、その友人に聞いたわけです。「これはいったい何だ?」と。「ここにはすごい秘密が隠されているようだ」と。で、その友人が言うには、「これは実は、心の訓練というすばらしい教えだ」と。これはランリ・タンパという人が作ったんだけど、これをいったい誰に学べばいいのかと聞いて、シャラワの方を紹介されるんだね。で、チェカワはシャラワのところに行くわけです。

 で、シャラワのところに行くと、シャラワが弟子たちにいろんな教えを説いていた。チェカワも混ざってその教えを聞いていたんだけど、全くこれが出てこないんだね(笑)。ただ単純な、普通に解脱するための教えが説かれただけだった。そこでチェカワは不審に思って、教えが終わった後にシャラワのところに行ってね、「実は、お聞きしたいことがある」と。シャラワは、「わたしは、教えはすべてさっき話したはずだ」と。「いったいこれ以上何が聞きたいのですか」と。それに対してチェカワは、「実はわたしは、この『心を訓練する八つの詩』というのを見た」と。「ここにはとてつもないものが隠されているように思うのですが、どうなんでしょうか」と。「でもあなたは今日、お説きにならなかったけども、どうなんでしょうか」と。

 そうしたらこのシャラワが言うには、

「もしあなたが、本当に仏陀になりたいんだったら、この教えは不可欠だ」

と。

「え? そんなにすごいんだったら、なぜ説かないのですか?」

と聞いたら、

「それは、普通は理解できないから」

と言って(笑)、

「でもお前が本気でやりたいんだったら、教える」

と。

 で、チェカワは「ぜひ教えてください」と言って弟子入りして、で、十四年間、この教えを徹底的に実践したといわれてる。

◎広められた秘儀

 十四年実践したっていうのは、ある意味すごく、何ていうか――難しい。難しいっていうのは、例えば分かりやすいんだったらいいんですよ。例えば、瞑想テキストがあってね、この瞑想をイメージしてくださいと。これを毎日百回とか十四年間やったっていうんだったら分かりやすいけど。心の訓練っていうのは、実際に日々心を鍛えなおしていくものだから。それをひたすら十四年間やったっていうことだね。で、十四年経って、もうわたしはやっとこれが終了したと、学び終えたと言っている。つまりそれだけの自信がついたんだろうね。つまり、一切この心の訓練の教えに反するようなものが心に出てこなくなる状態になったと、チェカワは言っています。

 そのチェカワが作ったのが、この『心の訓練に関する七つの要点』なんだね。

 で、今の話でも分かると思うけど、もともとこれは秘密裏に伝えられていた。秘密裏に伝えられていたんだけど、このチェカワっていう人が、あるときチベットのハンセン病患者――昔はライ病といったけども、ハンセン病の人たちのところに行ったことがあった。チベットとかインドの昔の仏教の話には、よくこのハンセン病が出てくるので、すごく多かったんだろうね。治療法とかもなかったし、ハンセン病にかかって死ぬ人が多分多かったんでしょう。

 ちなみに、先ほどドムトゥンパって出てきたと思うけど、アティーシャの弟子ね。このドムトゥンパっていう人も、ハンセン病患者がかわいそうで、一生懸命彼らの面倒をみてね――普通うつるといわれていたので、みんな怖がって近寄らないんだけど、自らその治療や奉仕をして、最後は自分もハンセン病にかかっちゃって、手足が腐って亡くなったといわれてる。

 そういう人もいたんだけど、このチェカワも、ハンセン病患者への奉仕をしたときに、もう本当に彼らがかわいそうで仕方なくて、で、何かできないかと思った。何かしてあげられないかと思ったんだけど、そこで、この「心の訓練」を思い出したんです。この心の訓練の教えっていうのは、あまりにも難しくて秘儀的とされているけども、わたしが彼らに与えられるのはこれくらいしかない、と思って、「ものは試し」じゃないけど、さっきの話じゃないけどね、トンレン――みんなの苦しみを引き受け、自分の喜びを差し出すっていう瞑想を、ハンセン病患者たちにやらせてみた。そうしたら、よくなる人が続出したっていうんです。

 そこでチェカワはびっくりした。「これは選ばれた者だけの教えだと思っていたが、みんなに通じるじゃないか!」と(笑)。半信半疑でみんなにやらせてみたら、誰でも――もちろん中には拒否する人もいるだろうけど、やっただけの効果はすばらしいと。よって、このチェカワの時代から、これを多くの人に広めるようになったんだね。

 で、さっきも言ったように、現代でもチベット仏教圏では、病気治療にこの慈悲の瞑想が使われているらしい。実際に病気がよくなる場合もあるし、そこまで行かなくても、精神的には非常に安らぐ。

 これはわたしもいろんな場面で経験しています。自分がすごい不安や苦悩に襲われたときに、それはケースバイケースなんだけど――ちょっと一つ、具体例でいうと、わたしが昔一人でヒマラヤに行ったときに、真っ暗になっちゃって、非常に危険なときがあったんだね。もう本当に真っ暗で、周りは誰もいなくて(笑)。しかも非常に細い道を歩いてて、ライトもなかった。ちょうどライトが電池が切れちゃって。道が細いし、何か後ろにも前にも行けないようなところで――実際は猛獣とかは出ないかもしれないけど、あまり知識もなかったから、猛獣が出てくるかもしれないと。足を踏み外すかもしれないと。夜寒くて死ぬかもしれないと。非常に不安の中、歩いてた。道もいろんな横道とかあるから、いつの間にか山の中に入ってしまうかもしれない。しかもヒマラヤだからね(笑)。助かる見込みはあるだろうかと(笑)。すごい不安に襲われて歩いてた。真っ暗な中ね。

 でもそのときに、トンレンの教えを思い出して、やったんです。つまり――世界中で、今この瞬間、自分と同じように遭難しかかっている人がいるだろうと。あるいは遭難じゃなくても、何らかの恐怖や不安に襲われている人がいっぱいいるだろうと。その危険性、つまり遭難するカルマ、危険な目にあうカルマは、今わたしが全部もらいますと。わたしがそうなっても構いませんと。で、わたしの中にある、助かるカルマとか、安心のカルマとか、それは、もしわたしの中にそういうのがあるんだったら、今日わたしが助かるっていうようなカルマがあるんだったら、わたし、それ要りませんと。今助からないかもしれないみんなに行ってください――こういうのを、呼吸に合わせてやったんだね。

 そうしたら――ちょっとわたしの具体的な体験としていうと、ちょっとイメージ的に言うしかないんだけど、ガチッと自分がプロテクトされたんです。守られたんです。これはフィーリング的に言うしかないんだけど、そういうことをやってたら、ガチッと、「あ、大丈夫だ!」と思ったんです(笑)。超安心感というか。「あ、おれ、守られた!」っていう(笑)。

 それまでは、「ああ、おれ遭難したらどうしよう。猛獣が来て食われちゃうかな」とか、「足踏み外して落ちたらどうしよう」とか、すごいドキドキで、そんなんで気が休まらなかったんだけど、今言った慈悲の瞑想をした瞬間、もう論理的にはなんともいえないんだけど、「あ、大丈夫だ!」ってなったんです。

 だからそういう精神的な――もちろんそのときは実際に大丈夫だったんだけど――現実的に病気が治るという効果だけじゃなくて、現実的に病気が治らなかったとしても、完全なる精神的な安らぎというかな、それを与えてくれる。

 で、これはすごいっていうんで、それまで秘密の教えだったものをチェカワが広めだして、バーッと広がるようになったんだね。

 はい。前置きでもう一時間経ってしまいましたが(笑)、こうしてそのチェカワがまとめたのが、この七つの要点ですね。

 さらに今日はちょっと本題に行く前にですね、このチェカワが心の訓練を学ぶきっかけとなった『心を訓練する八つの詩』、これからちょっと勉強してみましょうね。

share

  • Twitterにシェアする
  • Facebookにシェアする
  • Lineにシェアする