ラーマーヤナ外伝(1)「赤子のラーマ、母に正体を見せる」
ラーマーヤナ外伝(1)「赤子のラーマ、母に正体を見せる」
マハーバーラタと並ぶインド二大叙事詩の一つである「ラーマーヤナ」に関しては、以前、「要約ラーマーヤナ」というかたちでご紹介しましたが、今回から、「トゥルシーダース・ラーマーヤナ」に載っている様々なエピソードを、「ラーマーヤナ外伝」という形でご紹介していきたいと思います。
ここでご紹介する内容は、「トゥルシーダス・ラーマーヤナ」にある内容を、私がさらにわかりやすく言葉を補ったりしてリライトしていますので、ご了承ください。
あどけない仕草で人々の心を和ませる赤子のラーマを、母カウサリヤーは、普通の母親と同じように、抱いたり、あやしたり、ゆりかごに寝かせたりしながら、大切に育てていました。
ラーマへの母性愛でいっぱいのカウサリヤーは、夜が来るのも昼が来るのも忘れ、ただただラーマへの愛情に心を奪われ、かわいらしい赤ん坊の一挙手一投足に陶然と見入るばかりなのでした。
ある日のこと、カウサリヤーは、ラーマの体を拭き清めたあと、服を着せ、飾りをつけてやってから、いつものようにゆりかごに寝かしつけました。
その後、沐浴や礼拝などの日々の勤行を済ませ、祭壇に供物を捧げたカウサリヤーが、一度台所に行き、再び祭壇の前に戻ってみると、そこにいるはずのない赤子ラーマが、たった今そなえたばかりのお供物を、手づかみでむさぼり食っていました。
「おお! あの子は今、ゆりかごで寝ているのを見てきたばかりなのに。いったい誰がここへ連れてきたのでしょう?」
カウサリヤーがゆりかごのある部屋に行ってみると、そこではラーマがゆりかごの中でスヤスヤと眠っていました。また祭壇の前に来てみると、ラーマが手づかみで供物を貪っています。カウサリヤーは何が何だかわからなくなり、恐怖と不安で全身に激しい戦慄を覚えました。
母が狼狽しているのを見たラーマは、何ともいえない、やさしい魅惑的なほほえみを浮かべると、広大無辺な自分の真実の姿を、母の前に展開して見せたのでした。
ラーマの全身の毛穴の一つ一つに、何千万もの宇宙が包含されているのを、母カウサリヤーは見ました。無数の太陽、月、数え切れない山、河、海、大地、森、時間、諸々のカルマ、功徳、叡智、見解、創造を見、またかつて見たことも聞いたこともない素晴らしいものや奇妙なものも見ました。無数の神々を見、神の方便による幻影が、一切衆生を思うがままに踊らせる様も見ました。衆生を幻影の呪縛から解放する、素晴らしいバクティの威力も見ました。はかりしれない神の力の展開を見て、カウサリヤーはただ呆然と突っ立ったまま、合掌するばかりなのでした。
カウサリヤーの全身は歓喜で大きくふくらみ、口からは何も発することができませんでした。目を閉じたまま、ラーマの御足に額をつけると、身動き一つできなくなりました。
ラーマは神の力の展開をやめ、もとの赤ん坊の姿に戻りました。そして、うろたえているカウサリヤーに、こう言いました。
「母上様! 今ごらんになったことは、決して誰にもおっしゃらないでください。」
母カウサリヤーは、合掌したまま、次のように何度も懇願しました。
「おお、至高者よ! あなたの神の力によるこのような驚嘆すべき光景は、どうか二度と私の前でお示しにならないでください。私にとっては、あなた様はかわいい赤ん坊なのです。」
カウサリヤーのこの言葉を聞くとラーマは、何事もなかったかのように普通の赤ん坊に戻り、かわいらしい赤ん坊の仕草をあれこれと繰り返して見せて、カウサリヤーを喜ばせたのでした。
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