クリシュナ物語の要約(3)「主の降誕」
(3)「主の降誕」
ローヒニーの星宿が東の空にのぼり、星々が最も吉兆な相を示した時、ついに主ヴィシュヌは、デーヴァキーの息子として、この世に出生されました。
ヴァスデーヴァは、妻デーヴァキーから生まれた自分の息子の姿を見て、驚嘆しました。それは四本の腕に法螺貝や円盤などをもち、黄色の絹の衣を身にまとい、頭にはまばゆい王冠、耳にはラピスラズリの耳飾りなどを身につけた姿だったのです。
その子はまさに主ヴィシュヌそのものだと理解したヴァスデーヴァとデーヴァキーは、大変喜びつつも、これを知ったらカンサが飛んできて、主ヴィシュヌを殺してしまうだろうと思うと、不安になりました。
主ヴィシュヌはその後、自分のマーヤーの力によって、たちまちに普通の赤子の姿になりました。
するとその時、ヴァスデーヴァは、主の力によって、生まれたばかりの赤子を抱き抱えて、幽閉されているこの牢屋から出て行こうという気持ちになりました。
そのとき、ヨーガマーヤーの力により、門番たちも、都のすべての者たちも、深い眠りに落ちていきました。固く閉ざされた牢獄の門も、次々に自然に開いていき、ヴァスデーヴァは赤子を抱えたままやすやすと外に出ることができました。
こうしてヴァスデーヴァは、ヴラジャの地にやってきました。そこでは女神ヨーガマーヤーが、ナンダの妻ヤショーダーの娘として生まれていました。ヴァスデーヴァは、自分の息子を眠っているヤショーダーのそばに置くと、ヤショーダーの娘を抱き上げて、もといた牢獄へと戻っていきました。
ヤショーダーは、ヨーガマーヤーの力によって、自分に生まれた子供が女の子であるということには気づかずにいました。そのため、ヴァスデーヴァが自分の息子とヤショーダーの娘を交換しても、それに気づかず、ヴァスデーヴァが連れてきたその男の子を、自分が生んだ実の子であると信じて疑わなかったのでした。
さて、ヴァスデーヴァがヤショーダーの娘を自分の息子と交換して牢屋に戻ってきた後、ヤショーダーに子供が生まれたというニュースが、カンサに報告されました。
カンサは、ついに自分の宿敵である主ヴィシュヌが降誕したと知り、その赤子を殺すために、急いで牢屋へと向かいました。
そこではデーヴァキーが、生まれたばかりの女の赤子を抱いていました。デーヴァキーは、その子が女の子であることを理由に、どうかこの子は殺さないでくれと、カンサに懇願しました。しかしカンサは耳を貸さず、デーヴァキーからその赤子を取り上げると、その足をつかんで、硬い石の上に、思いきり投げつけました。
しかしその赤子は、カンサに放り投げられると、そのまま空中に飛んでいき、八つの腕をもつ、神々しい女神の姿に変わりました。そしてその女神は空中から、カンサにこのように言いました。
「ああ、愚か者よ。私を殺しても何になろう。かつてのお前の敵であり、お前を殺すお方は、もうすでにお生まれになり、他の場所にいらっしゃるのだ。それゆえお前はこれ以上、無益に子供を殺してはならぬ。」
こう言うとその女神は、ただちに姿を消しました。
これを見たカンサは非常に驚きました。そして同時に、心に深い懺悔の気持ちがわき起こってきました。彼は今まで自分がなしてきた残虐な行為を悔い、ヴァスデーヴァとデーヴァキーを鎖から解放すると、彼らに自分がなしてきたひどい行為の許しを乞いました。ヴァスデーヴァとデーヴァキーも、カンサが改心したことを喜び、彼を寛大な心で許したのでした。
しかしその後、一連の出来事を知った魔族の大臣たちは、カンサ王に言いました。
「もしその女神が言ったことが事実であるならば、都や村落、その他の場所に誕生した、生まれて十日前後の子供たちを、すべて殺すべきです。
ヴィシュヌ神をはじめとした神々などに、いったい何ができるでしょうか?
どうかあなたのしもべである我々に、やつらすべてを滅ぼせと、命じてください。
彼ら神々の支えはヴィシュヌであり、ヴィシュヌがいるところに、彼らのサナート・ダルマ(永遠の法)は存在するのです。
ああ、王よ。我々は、聖典の解説者、ブラーフマナ、苦行者など、彼らをすべて殺すべきでしょう。それら聖なる者たちは、ヴィシュヌの顕現の一部であるからです。」
一度は改心したカンサでしたが、あまり智慧のない魔族の大臣たちにそそのかされた結果、もともと持っていた悪しき心が、カンサの中に再び蘇りました。そしてカンサは部下である魔族の者たちに、世の中の正しき者たちを迫害するように命じました。
こうして魔族の者たちは、世の中の徳ある者たちに、さまざまなかたちで危害を加えていったのでした。
またカンサは、恐ろしい魔女のプータナーに、世界中の幼い子供たちを殺してくるように命じたのでした。
つづく