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解説「ナーローの生涯」第8回(4)

◎エゴの破壊

 で、もう一回言いますけども、これは「普通の」といったらいいかな、普通の精神の進化のプロセスにおいては、緩やかにやってきます。緩やかにだけど必ずそのプロセスは必要なんだね。でもこの、マハームドラーといってもいいし、あるいはヴァジュラヤーナといってもいいんだけど、このヴァジュラヤーナ仏教、あるいはマハームドラー仏教といわれる道においては、これを滅茶苦茶矢継ぎ早にスピーディにやりまくるんだね。つまり壊しまくるんです。
 だから密教っていうと、特にこのカギュー派の密教とかっていうのは人気があるから――特にセックスを使った修行とかも一部ではあるから、そういうのに憧れたりしてね。あと酒も飲んだりするね。「このカギュー派の道っていうのは酒も飲めるし、場合によってはセックスもできるし、なんか楽しそうだな」と。ね(笑)。「密教っていろんな神秘的でエキセントリックなところがあって、おれに合ってるかもな」とか言いながら、ほんわかしたイメージを抱いてると思うんだけど、でもそんな甘い道じゃないんだね(笑)。壊されまくる道であると。ね。
 つまりどういう発想なのかっていうと、前も何回かこういうたとえで言ったけども、修行っていうのはどういうものかっていうと、軽自動車をF1レースカーに作り替えるような道だと思ってください。で、それをね、普通はちょっとずつやります。普通はちょっとずつやるっていうのは、「はい、じゃあまずどっからいきましょうかね?」――だって軽自動車を――わたし車の名前とか知らないけども、軽自動車があるとして、それをF1で勝てるような車に作り替えてなきゃいけないと。全然違うでしょ? F1カーって知ってるよね? 細長ーいちょっと前に羽がついてるような車ね。で、軽自動車――ちょっと丸っこいね、小さい車だと。作り替えなきゃいけないと。で、それを少しずつやるんです。少しずつっていうのは、「どっからいきましょうねえ。ちょっとどっからいっていいか分かんないぐらいだけども(笑)、でもまあとりあえず、羽つけましょうか」と、ね(笑)。ちょっとあまり本質的じゃないところから入るんだね。でもそれは弟子としては、なんかね喜びなんです。「あ! 羽ついた!」と(笑)。「あ、やった! なんかF1ぽくなった!」と(笑)。

(一部笑)

 「だって羽ついたじゃん」と。
 でもね、ちょっと考えてください。皆さんもう分かると思うけど、この羽、後でまた取ります(笑)。邪魔だから、今つけても。でも一応弟子っていうか、顧客を喜ばせるために、ちょっと羽つけちゃうんだね、最初ね。ちょっとそれっぽくするんですね。でもだんだんちょっとずつ本質的な作業に入っていく。「ちょっとやっぱり骨組みから変えなきゃいけないから、ちょっとずつドアとか外しましょうか」と。ね。で、ごまかしごまかしちょっとずつやるんだけど、やっぱりね、節目節目で、根本的な改造しなきゃいけないときが来るわけですね。それが大いなる痛みなんです。そもそも骨格変えなきゃいけないから、今までちょっとずつやってきましたが、一気にちょっと今回はこの胴体を一旦切り離しますよと。だって長くしなきゃいけないからね(笑)。できないから(笑)。「一旦切り離しますよ」と。ここでその弟子は大いなる苦しみを感じる。「え? この間まではなんかいい感じで進んでたのに、いきなりこんな自己破壊のようなことがくるんですか?」と。ね。で、こういう感じで進むわけだね。で、長い間かけて――まあ変な言い方すれば騙し騙し、エゴを騙し騙ししながら、なんとかF1レースカーができると。ね。
 でもこの道は一生で行けるか分からない。何生もかかるかもしれない。でもこのさっき言ったマハームドラ―とかヴァジュラヤーナの道っていうのは、師匠が登場して、「とにかくぶっ壊すぞ!」と(笑)。ね。こんなものあってもしょうがないと。一旦ぶっ壊さないと駄目ですよと。何でかっていうと、もうもとから全然違うから。ね。だから師匠がハンマーとか持ってきて、あるいはドライバーとか持ってきて、破壊に入るわけですね。まあドライバーで壊すのはまだ優しい方で、そんなことしてるのも生ぬるいと。もう一旦全部廃棄処分であると。ね。それはプレスみたいのでバーッとやるかもしれない。で、いったん溶鉱炉にかけて全部溶かしちゃうかもしれない(笑)。もう鉄の段階から作り直して(笑)、その方が早いと。ね。そういう感じでいったんぶっ壊して作り直すと。これがこのマハームドラー系の特徴なんですね。つまり最も早いんだが、でも最も厳しいっていうかな。エゴを持ってる人にとっては非常に苦悩を強いられる道なんだね。
 だからこの道――もちろん密教っていうのは、もともと師と弟子の強い繋がりが重要視されるわけだけど、特にこのナーロー系の道っていうのはその部分が強いんだね。つまりものすごい師と弟子の信頼関係がないと、もう全くできないね、それはね。
 だからこれも皆さんがその道に入るのか、あるいは入れるかどうかは別にして、今言ったようにこのナーローが辿った道っていうのは、その最も極端な話なわけだけども、その極端じゃなかったとしても、皆さんが柔らかい道を行ったとしても、あるいはハードな道を行ったしても、ハードにしろ柔らかいにしろ、このエゴの破壊っていうのは来なきゃいけないから。それはそれでしっかりと自分に言い聞かせておいたらいいね。

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