パトゥル・リンポチェの生涯と教え(19)
◎パトゥルと三人のダルギェーの僧たち
パトゥルは大変超宗派的で、ある宗派を称賛して、また別の宗派を軽んずるということは決してしなかった。彼は、チベットに長い間はびこってきた執念深い宗派主義者の尊大さを煽るようなことは拒んだ。
あるとき、パトゥルが放浪していると、カムのテホル地区にあるゲルク派の僧院、ダルギェー僧院の近くの道を通りかかった。当時、そのダルギェー僧院の僧たちは、宗派主義的なことで有名であった。彼らはよく、そこを通りかかる旅人に、どの宗派――ニンマ派か、カギュー派か、サキャ派か、ゲルク派か――を言うように強く要求してきて、皆を困らせていた。彼らは、自分たちの宗派以外に属している者を見つけると、荒々しく侮辱して、ときには袋叩きにするのであった。
パトゥルがその僧院の近くを歩いていると、気性が荒そうな三人の巨体の僧たちが近づいてきて、荒々しくこう尋ねてきた。
「お前は、どの宗派のもんだ?」
彼らが喧嘩をふっかけようとしているということを知ると、パトゥルは巧みに、かつ非の打ち所がないほど適格に、こう答えた。
「ブッダ派です!」
その回答に満足できず、なんとしてでも宗派を探り出そうと、彼らは続けてこう言った。
「じゃあ、帰依の詞章はどう唱えるのだ?」
パトゥルは答えた。
「ブッダ、ダルマ、サンガに帰依し奉ります!」
パトゥルの回答は、宗派主義の彼らを満足させなかった。彼らは、パトゥルが属している宗派や系統をあばけるような帰依の詞章を期待していたからである。
「お前の守護神は何だ?」
彼らは、イライラを募らせながらこう聞いてきた。
「三宝です!」
パトゥルは根気強くこう答えた。
パトゥルの宗派を暴こうと躍起になって、彼らはこう怒鳴った。
「お前の”秘密の名前”を公開しろ!」
当時チベットでは、この”秘密の名前”という言葉は、男性器を差す言葉でもあった。
パトゥルは衣をまくり上げて、遊牧民訛りで気さくに、こう答えた。
「ブルブル!(おちんちん!)」
遂に、彼らは黙ってしまった。
ようやくパトゥルは、道を進むことができるようになった――何の被害も受けることなく。そして大声で、「オーム・マニ・パドメー・フーム、オーム・マニ・パドメー・フーム!」と唱えながら歩いて行ったのだった。
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