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「クリシュナの空腹」

(28)クリシュナの空腹

☆主要登場人物

◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ドラウパディー・・・パーンドゥ五兄弟の共通の妻。
◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。善人だが優柔不断で、息子に振り回される。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は宇宙に遍在する至高者の化身。

※クル一族・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たちとその家族。
※パーンドゥ一族・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たちとその家族。パーンドゥの五兄弟は全員、マントラの力によって授かった神の子。

 あるときドゥルヨーダナは、豪華な祭を催しました。本当はドゥルヨーダナは、「皇帝」の称号が得られるラージャスーヤの祭を催したかったのですが、それはドリタラーシュトラとユディシュティラが存命中はドゥルヨーダナに催す資格はないと賢者たちに反対され、それより少し劣るヴァイシュナヴァという祭を催したのでした。

 市民たちは、このドゥルヨーダナの催したヴァイシュナヴァの祭は、かつてユディシュティラが催したラージャスーヤの祭のすばらしさに比べたら16分の一にも及ばないと、口々に言い合いました。しかし逆にドゥルヨーダナの側近たちは、あらん限りの言葉で、ドゥルヨーダナが催した祭を褒め称えました。

 カルナは言いました。
「パーンドゥ兄弟を全滅させるまで、ラージャスーヤ祭は少しの間延期しただけです。
 特に武勇の誉れ高いアルジュナは、私が必ず殺して差し上げましょう。それが私の使命です。」

 そう言うと、カルナはさらに、次のような誓いの言葉を述べました。
「今日以降、アルジュナを殺すまでは、私は決して肉を食べず、酒も飲まない。
 それから、これ以外の一切の頼みごとをお断りする。」

 この誓いを聞いて、クル兄弟たちは、大いに喜んで歓声をあげました。

 

 またあるとき、ドルヴァーサという聖者が、一万人の弟子を引き連れて、ドゥルヨーダナのところにやってきました。この聖者は、ものすごい神通力を持っているのですが、少々怒りっぽいことで知られていました。そこでドゥルヨーダナは、聖者を怒らせて呪いでもかけられたら大変と、細心の注意を払って彼に接し、贅を尽くして聖者と弟子たちをもてなしました。

 満足した様子のドルヴァーサを見て、ドゥルヨーダナはほっと胸をなでおろしました。そしてまたもや邪悪な計画が、ドゥルヨーダナの頭に思い浮かびました。ドゥルヨーダナは言いました。

「私どものささやかな接待を受けていただき、光栄でございます。
 実は私どもの同胞が森に住んでいるのですが、彼らのところへもお訪ねくださいましたら、彼らはどんなにか喜ぶことでございましょう。」

 ドゥルヨーダナは、こうすることによって、この短気でわずらわしい聖者を追い払うとともに、パーンドゥ一家に災いをもたらすことができると考えたのでした。というのは、この時期、森は食物が少ない時期であり、食うや食わずの生活をしているパーンドゥ一家が、この聖者と弟子たちを満足させる施しなどできるはずがありません。そうすればこのドルヴァーサはきっと腹を立て、パーンドゥ一家に恐ろしい呪いをかけるに違いないと考えたのです。

 しばらく後、ドゥルヨーダナの勧めにしたがって、ドルヴァーサと弟子たちの一行は、森に住むパーンドゥ一家のもとを訪ねました。そのときパーンドゥ一家は、昼食の後の休息をとっているところでした。パーンドゥ一家は聖者たちを心から歓迎しました。挨拶が済むと、ドルヴァーサが言いました。

「われわれは沐浴に行ってくるが、戻ってくる前に、食事の用意をしておいてほしい。われわれはとても空腹なのです。」

 こう言うと、ドルヴァーサと弟子たちは、河へ沐浴に向かいました。

 ユディシュティラは、厳しい禁欲修行の結果として、太陽神から、アクシャヤパトラという不思議な壷を授けられていました。この壷は、毎日、パーンドゥ一家全員の空腹を満たす食料を自由に取り出せ、最後にドラウパディーが食べ終わるまでは決して空にならないという不思議な壷でした。
 そこでパーンドゥ一家はいつも、まず壷からとった食物を客人にもてなし、次に家族で分け、最後にドラウパディーが食べるという習慣になっていました。
 しかし、ドルヴァーサ一行が来たときには、あいにくもうすでにドラウパディーが食べ終わった後だったので、その日の分の食料は尽きてしまい、もう何も残っていなかったのでした。

 ドラウパディーは、ほとほと困り果ててしまいました。そこで彼女は、クリシュナに必死に祈りました。どうかクリシュナが来てくれて、この絶望的な窮地から救ってくれますようにと・・・

 すると突然、本当にクリシュナがそこに姿をあらわしました。そしてクリシュナは言いました。
「ああ、おなかがすいた! ドラウパディーよ、早く何か食べ物を持ってきてくれないか? 話はその後だ。」

 ドラウパディーは、クリシュナが本当に現われてくれて歓喜しましたが、その後のクリシュナの言葉を聞いて、混乱して言いました。
「まあ、クリシュナ様! そんな意地の悪いことをおっしゃって、私を試すおつもりですか?
 太陽神からいただいたこの壷は、今日はもう尽きてしまって、役に立たないのです。それなのに、ドルヴァーサ聖者様がおいでになって・・・私はどうすればよいのでしょう。聖者とお弟子さんたちが、もうすぐ沐浴から帰ってきます。もう間に合いません。それなのに、あなた様までがこんなときにお腹がすいたなどとおっしゃるなんて!」

 クリシュナは言いました。
「私は本当にひどく空腹なのだ。とにかくその壷を持ってきて、私に見せてごらん。」

 ドラウパディーは壷を持ってきました。クリシュナが中を見ると、一粒の米と、一切れの野菜が、壷の縁に付着していました。ドラウパディーは、壷を洗わずにいた自分のだらしなさに、恥ずかしさで全身が赤くなる思いでした。しかしクリシュナは、その残り物の一粒の米と一切れの野菜を、いとも満足げに召し上がったのでした。

 クリシュナはたったそれだけで十分に空腹が満たされ、満足したようでした。そしてビーマを呼ぶと、河にいる聖者たちに、食事の用意ができたと言って呼んできなさいと告げました。

 どこにもそんな用意はできていないので、ビーマは面食らってしまいました。しかし彼はクリシュナを信じきっていたので、何も聞かずに、ドルヴァーサたちを呼びに行きました。

 一方、河で沐浴中のドルヴァーサと弟子たちの身には、不思議なことが起きていました。さっきまであれほど空腹だったのに、急に、食べたいものを好きなだけ食べた後のような、心地よい満腹感が生じていたのです。弟子たちは、ドルヴァーサに言いました。
「どういうわけか、すっかり満腹になってしまいました。もう、これ以上食べられません。」

 これはどういうことなのでしょうか? 
 それは、こういうことなのです。
 全宇宙は、すべてクリシュナの中に内在されています。
 ですから、クリシュナが一粒の米と一切れの野菜で満足したことによって、聖者たちを含む宇宙の全生物の空腹感が満たされたのです。

 賢い聖者ドルヴァーサは、事の次第を理解し、迎えに来たビーマに言いました。
「わしたちの食事はもうすみました。わしが謝っていたと、ユディシュティラたちに伝えてくだされ。」

 こう言うと、ドルヴァーサと弟子たちの一行は、また他の地へ向けて出発したのでした。

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