「ドゥルヨーダナの屈辱」
(27)ドゥルヨーダナの屈辱
☆主要登場人物
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。弓、武術の達人。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ドラウパディー・・・パーンドゥ五兄弟の共通の妻。
◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。善人だが優柔不断で、息子に振り回される。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎シャクニ・・・ドゥルヨーダナの叔父。
※クル一族・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たちとその家族。
※パーンドゥ一族・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たちとその家族。パーンドゥの五兄弟は全員、マントラの力によって授かった神の子。
パーンドゥ一族が森に追放されている間、多くの聖者たちが、彼らを訪ねてきました。そのうちの一人がハスティナープラに行き、ドリタラーシュトラ王に会い、いかにパーンドゥ一族が森で不自由な生活を送っているかを告げました。王はそれを聞き、表面的には同情の意を示しましたが、彼らが復讐のために戻ってきて、息子のドゥルヨーダナたちを殺してしまうのではないかというのが、一番の気がかりでした。
ドリタラーシュトラ王がこのような心配で頭を悩ませているのに、当のドゥルヨーダナやシャクニ、カルナなどは、幸せそのもので、パーンドゥ一族を追い出すのに成功したことを喜んでいました。
カルナとシャクニが、ドゥルヨーダナに言いました。
「われわれはパーンドゥ一族を見事追い出すことに成功し、彼らは今、すべてを失って、森をさまよっております。あなた様ももう二度と、彼らに嫉妬の炎を燃やす必要はございますまい。」
これに対してドゥルヨーダナは答えました。
「そのとおりだ。しかし、パーンドゥ兄弟の悲惨な状態をこの目で眺めて、こちらの幸せを見せ付けることで、彼らの悲しみを頂点まで追い上げることこそ、われらの最高の喜びだとは思わないか?
しかし父上はそれを許すまい。父上は、パーンドゥ一族が苦行によって特殊な力を身につけたと思って恐れておる。だからわれわれが危険な目にあわないようにと、森に行くことを禁止されているのだ。
しかし私は、彼らの不幸がどうしても見たい。その楽しみが味わえないなら、これから先の生ぬるい幸福な人生など、退屈すぎて辛抱できない。どうか君たちが、何とかして父から、森に行く許可をとってくれないか?」
そこでシャクニとカルナは、あの手この手で王を説き伏せ、ドリタラーシュトラ王は、ドゥルヨーダナたちが森に行くことに同意させられてしまいました。そこでドゥルヨーダナは一団を伴って、パーンドゥ一族の住む森へと向かったのでした。
その途中、ドゥルヨーダナは、パーンドゥ一族の住む庵の近くに、美しい池を見つけました。その場所をすっかり気に入ったドゥルヨーダナは、その池のほとりにテントを張るようにと命じました。
しかしその場所はすでに、ガンダルヴァ(天の神の一種で、音楽をつかさどる)の王チトラセーナとその部下たちが野営をしていました。ガンダルヴァたちはドゥルヨーダナの一行がテントを張るのを妨げたため、怒ったドゥルヨーダナは、彼らに戦闘をしかけました。はじめのうちはドゥルヨーダナの軍の方が優勢でしたが、チトラセーナが神の武器を使用しだすと、形勢は一気に逆転しました。ドゥルヨーダナは手足を縛られてチトラセーナに捕まり、チトラセーナは高らかにほら貝を吹いて、勝利を宣言しました。
この知らせを聞いて、ビーマは大いに喜び、ユディシュティラに言いました。
「ガンダルヴァたちが、われわれの代わりにやつらを打ちのめしてくれました。当然の報いですよ。ガンダルヴァたちに感謝したい気持ちです。」
しかしユディシュティラはビーマを叱って、言いました。
「弟よ。喜ぶのは筋が違うだろう。ドゥルヨーダナたちは、われわれの親類だ。このままほうっておくわけにはいかない。何とかして救ってやらなければ。」
ビーマには、ユディシュティラの考えのほうが筋違いに見えたので、こう言って抗議しました。
「かつて私たち一家を焼き殺そうとした大罪人を、なぜ救わなければならないのですか? 私の食物に毒を入れたり、手足を縛って川に沈めて殺そうとしたやつに、なぜ同情しなけりゃならんのですか? ドラウパディーの髪をつかんで引きずり回し、散々侮辱を加えた卑劣なやつらに、何の同情が必要でしょうか?」
まさにそのとき、ドゥルヨーダナの発する苦悶の叫び声が、遠くのほうからかすかに聞こえてきました。ユディシュティラは胸を痛め、ビーマの反対を押し切って、弟たちに、ドゥルヨーダナたちの救援を命じました。ビーマとアルジュナはやむなくそれに従い、その場所へ向かうと、チトラセーナとガンダルヴァ軍に戦いを挑みました。
しかしチトラセーナの方は、パーンドゥ一族と戦う気はないので、あっさりとドゥルヨーダナと他の捕虜たちを釈放すると、こう言いました。
「パーンドゥのかたがたよ。われわれはあなた方と戦を交えるつもりはございません。ドゥルヨーダナたちの高慢をこらしめるために、ちょっと戦っただけですから・・・。」
こうして、命は助かったものの、面目は丸つぶれとなったドゥルヨーダナとその仲間たちは、ほうほうの体でハスティナープラに戻っていきました。
ドゥルヨーダナは、あまりの屈辱に打ちしおれ、いっそガンダルヴァたちに殺されたほうがましだったと思いました。そして思いつめたドゥルヨーダナは、とうとう、食を断って死ぬことを宣言しました。彼は弟のドゥッシャーサナに言いました。
「お前が父の後をついで王位につき、領土をおさめてくれ。敵どもに笑われながら生き続けるなんて、私は真っ平ごめんだ。」
しかしドゥッシャーサナは、自分は王の器ではないと言って、考え直してくれるように、ドゥルヨーダナに泣いてすがりました。
カルナはドゥルヨーダナを励まして言いました。
「クル族の英雄らしくないことを言うものではございませぬ。悲しみに負けてどうなさる。敵を喜ばせるだけですぞ。パーンドゥ一族を見なさい。いかに屈辱的な目にあおうとも、自殺などはしておりませぬ。」
シャクニも言いました。
「カルナの言うとおりじゃ。せっかくパーンドゥたちを追い出して領土を手に入れたのに、ここで死んでどうなるというのじゃ。もし本当に今までのことを後悔しているのなら、パーンドゥ一族と仲直りして、領土を返してやったらどうじゃな?」
この言葉を聴いたとたん、ドゥルヨーダナの邪悪な性質、パーンドゥ一族への恨みの心が、勢いを盛り返しました。パーンドゥ一族に領土を返し、再び彼らの繁栄を目にすることのほうが、ドゥルヨーダナにとっては、敗戦や武士としての不面目よりも百倍も耐え難いことだったのです。彼は叫びました。
「私は必ずパーンドゥ一族を征服するぞ!」
これを聞いて、カルナは喜んで言いました。
「それでこそ王者にふさわしいお言葉!
パーンドゥ一族が約束した13年の放浪の期間が過ぎたら、私はアルジュナと戦い、必ず彼を殺すことを、あなたに誓いましょう。」
こう言うとカルナは、誓いのしるしとして、自分の剣をしっかりと握り締めました。
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