聖者の生涯「ナーグ・マハーシャヤ」(9)
あるときスレーシュは、仕事でしばらくクエッタ(現在のパキスタンの都市)に行くことになりました。ナーグはスレーシュに、
「カルカッタを立つ前に、師からイニシエーションを受けてほしい。そうでないと、もう手遅れになるかもしれません。」
と懇願しました。しかしスレーシュは、イニシエーションで授けられるマントラの効果に対して疑念を持っていました。スレーシュはラーマクリシュナに強い信仰を抱いていましたが、彼はただ純粋に師や主を愛する形のない信仰を好み、マントラを唱えたり修行をしたりといった形のある信仰は好きではなかったのです。この件で二人は、何度も議論を重ねました。結局スレーシュは、ラーマクリシュナの意見に従うことに決め、二人でドッキネッショルを訪ねました。
話を聞くと、ラーマクリシュナはスレーシュに言いました。
「ナーグ・マハーシャヤが言っていることは全く正しい。人はイニシエーションを受けてから、信仰の実践を開始すべきである。なぜ、彼の意見に同意しなかったのか。」
スレーシュは、
「私は、イニシエーションで授けられるマントラに対する信仰を持っておりません。」
と答えました。ラーマクリシュナは、ナーグに言いました。
「お前の言うことは正しいが、今のスレーシュはまだそれを必要としていない。だが、心配しなくともよい。彼はいずれイニシエーションを受けることになるよ。」
その後、クエッタに滞在したスレーシュは、あれほど拒んでいたイニシエーションへの大きな渇望を感じるようになりました。しかし彼がカルカッタに帰ったときには、ラーマクリシュナの病はひどく進行し、もはやイニシエーションを授けられるような状態ではなかったのでした。
スレーシュは、ナーグの「手遅れになるぞ」という言葉に耳を傾けなかったことをひどく後悔しました。
その後、ラーマクリシュナが世を去ったとき、スレーシュの悲しみは深く大きなものでした。彼は自分の運命をのろいました。
それから毎日、彼はガンジス河の岸辺で、ガンガー女神に対して、己の苦悩をため息混じりに語り続けました。そしてある日彼は、一晩中微動だにせずに座り続けるという誓いを立てて、瞑想し続けました。すると、驚くべきことが起こったのです。
それは夜明け前のことでした。ラーマクリシュナのヴィジョンがガンジス河から現われ、スレーシュに向かって近づいてきたのです。ラーマクリシュナはスレーシュの傍らに来ると、彼の耳に、神聖なマントラを唱えたのです。
驚きつつもスレーシュは師に深々とお辞儀をし、師の足元の塵をとって礼を示そうとしました。しかし次の瞬間には、ラーマクリシュナの姿はすでに消え去っていました。
つづく