シュリーラーマチャリタマーナサ(5)「祈りの言葉」
◎祈りの言葉
聡明な人は、高邁な神の徳行を平易な言葉で説き明かす詩篇、聞けば仇敵でさえ敵愾心をなくして味方に付くような名品を特に愛好する。そのような詩の名作は、純粋無垢な魂から生み出される。それにひきかえ、わたしの心力は弱く、知識は乏しい。詩人たちよ! だからこそわたしは、
「願わくば、神のご威徳を説明するに足る心力を与え給え」
と、重ねてあなた方にお願いする。
「詩人と聖僧の先達よ! あなた方はラーマ神王行伝という名の神聖な湖を遊泳する優雅端正な白鳥王です。いま、小雛のわたしの願いを憐れと思し召して、なにとぞご慈愛をお授けください。」
原始ラーマーヤナの創造者、ヴァールミーキー尊者の蓮華にも例うべき御足を礼拝する。原始ラーマーヤナは、過酷を意味するカルが暴れ回っても優美、罪悪を意味する名前の悪魔ドゥーシャナがわがもの顔に横行しても、限りなく神聖である。
わたしはまた、ラーマ神王のご威徳を讃え続けて夢にも倦むことを知らない、生死の苦海から衆生を救う大船にも例うべき、かの聖なるリグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダの四種のヴェーダ経典を礼拝賛嘆する。初めに万物生成の海を創造し、海から聖者、月、不死の良薬アムリタ、望みのものをすべて叶える聖牝牛カーマデーヌなどを生む一方で、悪人、酒、毒薬をも生み出した、創造神ブラフマー様の蓮華のような御足の塵を、うやうやしく拝載する。諸天、善神、学僧、星宿などすべての膝元にひれ伏して合掌し、
「なにとぞ、心に喜びを持たれてわたしの心願を達成させてください」
と、お願い申し上げる。
わたしはさらに、サラスヴァティー様と聖河ガンガーを礼拝する。ともに神聖きわまりない福徳の施与者である。ガンガーは水を飲み沐浴する者の罪障を減除し、サラスヴァティー様は神のご威徳を賛美し、神話を聴聞する善男善女の迷いの闇を、智慧の光明で払ってくださる。
わたしはここに、良き師、良き父母、シーター様と夫ラーマ様の従者でしかも最良の協力者、弱者の味方、大いなる布施者、いっさいの虚飾を離れてトゥルシーダースに真の幸せを授けられる、大神シヴァ様と奥方パールヴァティ様に敬虔な祈りを捧げる。末世の罪障を憂えて、シヴァ様が一切衆生を救うための太初の呪文を創始せられた。シヴァ様の呪文は文字として整ってはいない。おまけに意味もなければ、口に出して唱える者もいない。それでいながら、大神シヴァ様の偉大な神力によって、呪文の功徳は顕著である。
そのシヴァ様がわたしの志を嘉せられて、ラーマ神王のこの物語を、法楽と福運の美果を生らせる宝樹に仕立て上げてくださるものと信ずる。わたしはいま、シヴァ、パールヴァティ両神のご加護を念じ、限りない恩愛の情に浴しながら喜び勇んで筆を執る。
満天の綺羅星を伴う十五夜月を迎えて、夜空が美しく彩られるように、わたしの詩もシヴァ神の祝福を得て荘厳されたものとなるだろう。甚深の敬愛と細心の注意を払って、この物語を理解し、語り、聞くものは、末世の罪障から解放されて無上の果報を得る。ラーマ様の御足に対する熱烈な愛情もひとりでに身につく。
シヴァ、パールヴァティ両神が、わたしを夢のなかででも、かりそめにでも賞でられるなら、わたしがいま自賛したこの叙事詩の功徳は、ひとつ残らず事実であることが実証されるに違いない。
わたしは比類なく神聖なラーマ神王の都アヨーディヤーと、末世の罪障を洗い清めるサルジュ川の功徳を賛嘆する。あわせて、主ラーマ様が常に深い愛情を施される、都のすべての善男善女に敬意を捧げる。都人たちはラーマ様のお妃シーター様を誹謗する洗濯夫とその仲間の罪を許したばかりか、彼らの苦しみを除き、痛みを和らげて、心安く自国に住まわせる。
名声があまねく天下に知られているラーマ様のご生母カウサリヤー様を東の方角に見立てて、わたしは東方の空を礼拝賛嘆する。カウサリヤーと名づけられる東の空からは、悪人を蓮華の群生に見立てれば、容赦なく蓮華を枯れ凋ませる氷霜に相当するラーマチャンドラというラーマ様の名の、世界に福運の光をとどける夕月が昇る。
ラーマ様がこの世に来臨されたことで、創造神ブラフマー様の名声はいやがうえにも高まる。わたしはまた、ラーマ様の親として不滅の誉れを残された、父君ダシャラタ大王とそのすべてのお妃を、神聖、優美、吉祥の理想像と見なして、心、体、行為をあげて礼拝賛嘆する。あわせて、
「わたしを、あなた方の王子様にお仕えする従者と認められて、なにとぞご慈愛をお授けください」
と、懇願する。
至高者の化身ラーマ様の御降誕以来、常にその御足に真情のこもる敬愛を捧げつつ、ある日別離の憂き目をみるや愛する肉体を枯れ草同然に惜し気もなく捨てられた、アワド国主ダシャラタ大王を重ね重ね礼拝賛嘆する。
平素は富と享楽の追求のなかに安眠を貪るかのように見えながら、ラーマ様の勇姿を一目見るなり、御足への愛を一気に噴出された、シーター様の父君ジャナカ王とその一族を礼拝賛嘆する。
ラーマ様の三人の兄弟のうち、持戒の力が抜群で苦行に耐える厳しさは言語に絶し、心は常にラーマ様の蓮華にも例うべき御足に吸い寄せられて、花蕊にたかる蜜蜂のように片時も離れないラーマ様の次弟バラタ様にわたしは真っ先に敬意を捧げる。
次いで、沈着冷静、信者に深いやすらぎを与える、ラーマ様の末弟ラクシュマナ様の蓮華のような御足に礼拝する。ラーマ様の御足を美しい旗に見立てるならば、ラクシュマナ様のご功名は旗を高々と掲げてひるがえす竹竿に相当する。千の頭で大地を支える龍王が地上の恐怖を鎮めるために人間界に下生した、諸徳の宝蔵、慈愛心の海、スミトラー妃の愛児ラクシュマナ様が、変わらない愛情をわたしに注がれるよう祈願する。
大勇猛心を内に秘めながら、いつの場合も謙虚に、バラタ様のうしろにつき従う、ラクシュマナ様の双児の兄シャトルグナ様の蓮華のような御足に敬拝を捧げる。
心の神殿にラーマ神王をとこしえに祀る敬虔な信者、罪悪の森を焼き尽くす野火、雲よりも大きな知識の持ち主、ラーマ様の浄らかな御口で、常に功労を讃えられる大勇士、神猿ハヌマーンにわたしは限りない敬意を捧げる。
卑賤な野獣や悪魔の身に生まれながら、命がけでラーマ様に忠誠を尽くした猿の王スグリーヴァ、熊の王ジャーンバヴァット、魔王ヴィビーシャナ、猿の王子アンガダなど、すべての野生の仲間たちの美しい足を讃える。ラーマ様の御足の信奉者で、神に純粋無垢の奉仕を捧げる者であれば、わたしは鳥獣、人間、魔霊、善霊を問わず、その蓮華のような足に等しく礼拝を捧げる。
スカデーヴァ、シャナク、ナーラダなどの大仙人をはじめとして、深い信仰心とすぐれた知識を持つすべての聖賢に、わたしは額を地面にすりつけて敬意を捧げる。
ジャナカ王の王女、慈悲の家、世の母、神王ラーマ様の恩愛を一身に集める最愛のお妃、やさしい慈愛をもって常に適正な知識をお授けくださる、シーター様の蓮華のような両の御足に、わたしは大願成就の祈願を捧げる。
わたしはまた、清蓮華のような目を持ち、弓矢を携え悪を懲らしめ正義を助けられる世の父、宇宙の最高神、ラグ族の王ラーマ様の、蓮華よりも浄く尊い御足を、心、体、行為をもって崇め讃え礼拝する。
ラーマ様とシーター様のお立場は、言葉とその意味、水とその波紋の関係に似る。「シーター様、ラーマ様」と、唇をとおして発音すれば、音は別々であっても実質はまったく同音である。特に貧しき者、弱き者に慈悲を施される点でご夫妻は常に一心同体である。わたしはここに、シーター様、ラーマ様の御足を、心をこめて礼拝する。
-
前の記事
おまえは私にすべてを明け渡したではないか -
次の記事
クリシュナ物語の要約(9)「ヴリンダーヴァナへ」