クリシュナ物語の要約(5)「悪魔トリナーヴァルタの救済」
(5)悪魔トリナーヴァルタの救済
主が生まれて三か月ほど経った頃、沐浴の儀式が行なわれました。
美味な料理その他でヤショーダーが客人たちをもてなしていた時、主は、乳を求めて泣き出しました。しかしヤショーダーは客人へのもてなしで忙しかったため、主の泣き声が全く聞こえませんでした。そこで主は、自分の上にあった、食物などを置く荷車を、赤子の柔らかい足で思いきり蹴りあげました。するとその荷車は勢いよく宙に舞い、地上に落下して壊れ、その上に置かれていた壺も、すべて粉々になりました。
人々はこれを見て非常に驚き、「どうして荷車がひっくり返ったのか?」と不思議がりました。
その場にいた子供たちは、「荷車はこの赤ちゃんが泣いて足で蹴ってひっくり返ったんだよ」と証言しましたが、赤子にそんなことができるわけがないと、大人たちは信じませんでした。彼らは、赤子の姿になっている主の無限の力を知らなかったのです。
また、この出来事には、隠された深い意味もありました。その昔、ウトカチャという名の悪魔の息子が、聖仙ローマシャに呪いをかけられ、肉体を保てない存在にされてしまいました。そしてローマシャはウトカチャに、、主の御足によって触れられたときに、お前は救済されるだろうと予言しました。
そのウトカチャの魂が、このナンダの家の荷車の中に入っていたのです。そして赤子の姿をした主の御足によって蹴られたことで、ウトカチャは救済されたのでした。
さて、ある日のこと、ヤショーダーが御子を膝の上に乗せてかわいがっていた時、突然、その赤子の身体が、山のように重くなりました。
あまりの重さに耐えられなくなり、ヤショーダーは御子を地面の上におきました。
するとその時、カンサの家来である悪魔トリナーヴァルタが、竜巻の姿に変身してやってきました。トリナーヴァルタは、激しい竜巻で砂塵を巻き起こし、人々の眼を全く見えなくして、御子をさらっていきました。
やがて竜巻がおさまったとき、人々は、ヤショーダーの御子が連れ去られたのを知って、悲しみ、涙を流して泣きました。
トリナーヴァルタは、御子をさらって空高くまで飛んでいきましたが、その御子の体がとてつもなく重くなったのに気付き、耐えられなくなって、御子を放り投げようとしました。しかし御子に喉をつかまれていたため、そうすることもできなかったのです。
すさまじい力で主に喉をつかまれ続けた結果、やがてトリナーヴァルタは全く動けなくなり、苦しみのあまり、目は外に飛び出し、声にならないうめき声をあげて、ヴラジャの村はずれに落下していったのでした。
人々は、恐ろしい姿をした悪魔が空から落ちてきて、岩に激突してバラバラになるのを見ました。そしてその悪魔の首にヤショーダーの御子がぶら下がっているのを見て、人々はおどろき、急いでそこから御子を取り上げると、ヤショーダーに渡したのでした。
つづく