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2.ラーマの生誕

 悪魔ラーヴァナの奴隷となったインドラ神をはじめとした神々は、何千年もの間、至高者ヴィシュヌに向かって祈りを捧げました。ついに至高者は、神々の熱心な祈りをおくみとりになり、蓮華のような眼を開いて、こうお答えになりました。

「神々よ。皆さんはこれまでずいぶん苦労なさった。私が悪魔の責め苦から解き放ってあげよう。どの神もだれ一人として悪魔ラーヴァナを倒すことができないのは、ラーヴァナがあらゆる秘術を知っているからなのだ。
 ラーヴァナの国を滅ぼすには、私がまず人間の姿となって生まれなければならない。ラーヴァナは人間や猿などを馬鹿にしているから、ラーヴァナが馬鹿にしているそれらのものに、われわれは姿を変えよう。
 ラーヴァナとその家来たちを倒すには、まず大軍を起こさなければならない。あなた方神々は猿に生まれ変わって、その大軍になりなさい。私はラーマという人間に生まれ変わって、ラーヴァナにまっさきに立ち向かおう。
 ところで、このことを知っておかねばならない。われわれがひとたび人間や猿に生まれ変わったら、自分たちの正体や、天の世界でこのような相談をしたことなどは、すっかり忘れてっしまっているということだ。われわれはまるで偶然のように、地上で出会うことになるだろう。
 我々は必ず地上で再会できるだろう。そのとき、猿となる皆さんは、勇ましい戦士となっていることだろう。私は智慧ある人間となって、みなさんを率いて、ランカーを攻め、必ず勝利を得るだろう。
 さあ、今から地上に降りなさい。南インドのジャングルに住む、猿の子たちとして生まれなさい。それでは、ごきげんよう!」

 このとき、人間界の北インドのコーサラ国の都、アヨージャのダシャラタ王の宮殿において、春のチャイトラ月の九日の日、プナルヴァス星夜のもと、太陽が山羊座、月と木星が蟹座、火星が蠍座、土星が天秤座、金星が魚座に入ったとき、ダシャラタ王の后の一人カウサリヤー妃から、筋骨優れ、輝く瞳と真紅の唇を持つラーマが生まれました。このラーマこそ、至高者ヴィシュヌ神の化身なのでした。
 続いてカイケーイー妃はバラタという子を産み、スミトラー妃はラクシュマナとシャトルグナという双子を産みました。

 この四人の男の子たちは天の星のように美しく、また生まれたときからラクシュマナはラーマに影のようになつき、シャトルグナはバラタになついていました。

 四人の王子はそろってめきめき大きくなりました。さまざまな武術によって体はとても強くなり、またさまざまな学問や音楽なども修めました。

 そんなある日のこと、ヴィシュヴァーミトラという聖者が、ダシャラタ王の宮殿を訪れました。
「私はヴィシュヴァーミトラという者です。大王とその一族は、つつがなくあられますでしょうか。」

 聖者のあいさつに、ダシャラタ王は立ち上がって答えました。
「賢者よ。よくおいでになりました。私は俗界の国王です。この世を支配するわれわれ国王は、永遠の神を求めてお仕えするあなた方のような方々を敬っております。あなた様が来てくださったことは、大変な幸せです。
 ところで今回、いかなる目的をもってあなたは参られたのですか? ためらうことなくお告げください。私はあなたに仕えるものです。お望みのものがあるなら、何でもおっしゃってください。」

 ヴィシュヴァーミトラは、喜ばしげに王に答えました。
「王よ、わが参上の目的を言うことを許されよ。
 この日頃、私はある祭典を執り行っております。しかしその最中に、マーリーチャとスバーフという二人の恐るべき変幻自在の悪魔があらわれ、祭壇に血と肉を降り注ぎ、祭典を汚し、無効のものとしてしまいました。
 今、王は、望みのものは何でもくださるとおっしゃいましたね。王の長男ラーマを、しばらく私に託されよ。私の庇護のもとに、彼は神力によって悪魔を倒し、三界に名をとどろかせる者となるでしょう。王よ、恐れるべきではありません。悪魔などはラーマの敵ではありません。私はラーマの力を借りて、祭典を正しく実行したいのです。」

 聖者のこの願いを聞いたダシャラタ王は、悲しみのあまり気を失ってしまいました。再び気を取り戻すと、王は苦悩しながらこう言いました。
「大聖よ、ラーマはまだ十六歳にすぎません。どうか連れていかないでください。ラーマはまだ、悪魔たちと戦う力をそなえておりません。あまりにも若く、経験も浅く、戦術にも熟達しておりません。一筋縄ではいかない悪魔たちと戦ったら、王子はきっと傷つけられてしまうでしょう。
 貴い賢者よ。どうか王子を連れていくことだけは勘弁してください。」

 ヴィシュヴァーミトラは、怒って言いました。
「王は、望みのものは何でもくださるとおっしゃったはず。王が約束を守らないというなら、私は世界中に向かって、ダシャラタ王は約束を踏みにじったと発表しますぞ。」

 ラーマは、父が困っているのを見ると、すっくと立ち上がって言いました。
「貴い賢者よ。私とラクシュマナとで、あなたの住んでおられる森に、喜んでまいりましょう。弟と一緒に、きっと悪魔に勝ってみせましょう。
 父上は約束をなさいました。一度約束をなさったからには、もう覆すことはできません。父上、どうか私たちを、この聖者と一緒にやってください。剣術や弓術の腕前を試してみたく思います。」

 ラクシュマナも立ち上がって、ラーマと一緒にダシャラタ王に熱心にお願いしました。
 ダシャラタ王は言いました。
「それほどまでに言うのなら、行くがよい。お前たちは勇気があって立派な人間だからこそ、このようなことができるのだ。」
 

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