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(3)アンバー姫の復讐


(3)アンバー姫の復讐

 シャーンタヌ王が王位を退いたあと、約束どおり、シャーンタヌ王とサティヤヴァティーの間に生まれた長男であるチットラーンガダが、ハスティナープラの新たな王になりました。

 しかしこのチットラーンガダ王は、ガンダルヴァ(音楽をつかさどる、鳥のような姿の神)との戦いで殺されてしまいました。

 そこで次男のヴィチットラヴィーリヤが正当な王位継承者となりましたが、彼はまだ未成年であったため、成年に達するまで、彼に代わってビーシュマ(デーヴァプラタ)が王国を治めました。

 ヴィチットラヴィーリヤが青春期を迎えたとき、ビーシュマは、彼のために花嫁を探そうと思いました。
 そしてカーシー国(現在のヴァラナシ)の三人の王女たち(アンバー、アンビカー、アンバーリカー)が、婿選びの催しをするという話を聞きつけて、ビーシュマはカーシー国へと向かいました。

 カーシー国の三人の王女たちは皆、その美貌と教養の高さで有名だったので、近隣諸国の多くの王子たちがその催しにやってきていました。

 しかし王子たちは、ビーシュマの姿を見つけると、大変落胆しました。ビーシュマは自分ではなく異母弟のヴィチットラヴィーリヤの嫁を探しに来たのですが、王子たちはビーシュマ自身が嫁を探しに来たと勘違いしたのです。そしてビーシュマの戦士としての強さは大変知れ渡っていたので、王女をかけて強さ比べになった場合、誰もビーシュマにはかなわないだろうと、王子たちは落胆したのでした。

 悔しさのあまり王子たちは、ビーシュマに対する侮辱の言葉を口にしました。
「このビーシュマという老人は、自分がもう年をとりすぎていることも、一生独身を通すと誓ったことも、忘れちまったんじゃないか? ちぇっ、やなこった!」

 これを聞いたビーシュマは激怒し、王子たちに決闘を申し込みました。そして圧倒的な強さですべての王子に打ち勝ったビーシュマは、三人の王女たちを自分の馬車に乗せて、ハスティナープラへと走り始めました。

 しかし馬車がわずかに進んだところで、一人の男が馬車の前に立ちはだかりました。それはサウバラ国の王であるシャルヴァでした。
 実はシャルヴァ王は、カーシー国の王女の一人であるアンバー姫と、以前からお互いに愛し合っていたのです。そこでアンバー姫をかけて、ビーシュマとシャルバ王の一騎打ちが始まりましたが、またもや圧倒的強さでビーシュマがシャルバ王を打ち負かし、ビーシュマは王女たちを連れて、ハスティナープラへと帰っていきました。

 ハスティナープラに到着したビーシュマは、三人の王女とヴィチットラヴィーリヤ王子の結婚式を執り行なうことにしました。
 しかしアンバー姫は、ビーシュマに異議申し立てをしました。自分はもともとシャルヴァ王と愛し合っており、それを知っていながら力づくでこのように連れ去ってくるとは、クシャトリヤ(武士)の道に反するのではないか、という言い分でした。

 アンバー姫の言い分を聞いてもっともだと思ったビーシュマは、付き添いをつけて、アンバー姫をシャルヴァ王の元へと送り届けてあげました。そして、残ったアンビカーとアンバーリカーの二人の王女と、ヴィチットラヴィーリヤ王子の結婚式を執り行なったのでした。

 一方、愛するシャルヴァ王の元へやってきたアンバー姫は、シャルヴァ王に事の次第を説明して言いました。
「私は最初からあなた様を私の夫と心に決めておりました。ビーシュマも理解し、私をあなたの元へと送り届けました。どうか私を娶ってください。」

 しかしシャルヴァは、こう答えました。
「私は多くの人々が見ている前でビーシュマと戦い、負け、ビーシュマはあなたを連れ去っていきました。私は完全に面目を失ったのです。ですから今さらあなたを自分の妻として迎えるなどということはできません。ビーシュマの元へ帰り、彼の言うとおりになさってください。」

 そこでアンバー姫はハスティナープラに戻り、ビーシュマに事の次第を説明しました。ビーシュマはヴィチットラヴィーリヤ王子に、アンバー姫も嫁にもらうように勧めてみましたが、ヴィチットラヴィーリヤ王子は、他の男のことを思っている女とは結婚はできぬと言って、アンバー姫を拒絶しました。

 そこでアンバー姫は、今度はビーシュマに、責任を取って自分をもらってくれるように言いましたが、生涯独身の誓いを立てているビーシュマは、もちろん断りました。

 諸国の他の王子たちも、事の成り行きを知っているため、アンバー姫を嫁にもらおうという者はおりませんでした。こうして、美しさの誉れ高いアンバー姫は、誰も貰い手のいないまま、六年間もつらい日々をすごしました。

 そしてアンバー姫は苦悩のうちに、自分の青春の日々と人生を台無しにしてくれたのはすべてあのビーシュマのせいだと逆恨みし、ビーシュマに対する激しい憎悪で燃え上がりました。そしてビーシュマと戦って殺し、仇を討ってくれる戦士を捜し求めましたが、無駄でした。ビーシュマの圧倒的な強さは、諸国に知れ渡っていたからです。

 ついにアンバー姫は、自ら厳しい荒行に入り、スブラーマニヤ神の加護を求めました。するとスブラーマニヤ神がアンバー姫の前に現われ、決して枯れない蓮の花輪をアンバー姫に与えて、こう言いました。
「その花輪を首にかける者が、ビーシュマの敵対者となってくれるであろう。」

 そこでアンバー姫は再びさまざまな戦士たちを訪ねましたが、誰もその花輪を受け取ってくれる者はいませんでした。最後に彼女はドルパダ王の元へ行きましたが、彼もそれを拒否したので、アンバー姫はその花輪をドルパダ王の城の門にかけて、立ち去りました。

 次にアンバー姫は、当時、ビーシュマにも匹敵するほどの最高の勇者といわれていたパラシュラーマの元を訪ね、事情を話しました。パラシュラーマは、アンバー姫を哀れに思い、ビーシュマに戦いを挑みました。
 ビーシュマとパラシュラーマの戦いはほぼ互角で、なかなか勝負がつきませんでしたが、最後にはやはりビーシュマが勝利したのでした。

 悲しみと怒りで憔悴しきっていたものの、わずかにビーシュマへの復讐の思いだけで生きながらえていたアンバー姫は、一切の人間的試みが失敗した今となっては、シヴァ神の恩寵に頼るほかはないと考え、ヒマラヤに入って激しい修行に打ち込みました。するとやがてシヴァ神が現われ、アンバー姫が次に生まれ変わったとき、ビーシュマを殺すであろう、と告げました。

 アンバー姫は喜びましたが、来世が待ちきれなくなり、自ら火の中に飛び込んで自殺したのでした。

 こうして死んだアンバー姫は、ドルパダ王の娘として生まれました。ドルパダ王の城の門には、アンバー姫がかけた、あの蓮の花輪がまだかけられていました。恐怖のために、誰も手をつけられずにいたのです。
 生後数年たって、アンバー姫の生まれ変わりであるドルパダ王の娘は、この蓮の花輪を見つけると、自らそれを取って、自分の首にかけました。ドルパダ王は娘の無鉄砲さに驚くとともに、ビーシュマの怒りを恐れ、娘を森に追放してしまいました。
 彼女は森で苦行を積み、やがて男子に変身し、シカンディンという名の武士として知られるようになったのでした。

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