(2)ビーシュマの誓い
(2)ビーシュマの誓い
シャーンタヌ王が、ガンガー女神との間にできた八番目の息子デーヴァプラタを城に連れ帰って皇太子の座につけてから四年ほどたったある日のこと、王がヤムナー河の土手を散策していると、いきなり、あたりの空気が神々しい甘い香りに満たされました。王がその香りの源を探っていくと、そこには女神のように美しい、サティヤヴァティーという女性がいました。ある賢者が、身体から神々しい芳香が発するようにというサティヤヴァティーの願いをかなえてやったために、彼女はいつも身体からそのような香りを発するようになっていたのでした。
シャーンタヌ王は、ガンガー女神に去られてからというもの、自分の肉欲を抑制し、苦行者のように生きていましたが、この美しくかぐわしいサティヤヴァティーを見た瞬間、再び激しい肉欲が復活してしまいました。そして王は、サティヤヴァティーに求婚しました。
サティヤヴァティーは、
「私は漁夫の頭の娘です。私を妻にしたいなら、どうぞ父に承諾を取ってください。」
と答えました。そこで王は、サティヤヴァティーの父親に会いに行き、サティヤヴァティーを后として迎えたいという願いを伝えました。
サティヤヴァティーの父親は抜け目のない男で、王にこう答えました。
「王様、たしかにこの娘をあなた様に嫁がせるのは、大変な光栄でございます。
ただし、ひとつだけお約束をしてほしいのでございます。この娘から生まれる子供を、あなた様の次の王にさせると約束してほしいのです。」
情欲に駆られてほとんど気がおかしくなりかけてはいたものの、シャーンタヌ王は、この約束を受けることはできませんでした。なぜなら、それは本来王位を継承する権利のあるデーヴァプラタ王子をのけ者にすることになってしまうからです。そこで王は、城に帰り、一人で思い悩んでいました。
やさしく聡明な息子であるデーヴァプラタは、最近、父が思い悩んでいる姿を見て、何があったのかと王に尋ねましたが、シャーンタヌ王は、本当のことを言うのは恥ずかしいので、適当なことを言ってはぐらかしていました。しかし聡明なデーヴァプラタは独自に調査をし、父が思い悩んでいる本当の原因を知ったのでした。
デーヴァプラタは自らサティヤヴァティーの父親のところに行き、こう言いました。
「私は、王位第一継承者としての自分の権利を放棄することを誓おう。そしてサティヤヴァティーが生む子供を次の王にさせることを約束する。だからサティヤヴァティーとシャーンタヌ王の結婚を認めてほしい。」
サティヤヴァティーの父親は、これを聞いてこう答えました。
「ああ、あなた様は、これまでいかなる王族もなさったことのないことをなさいました。あなた様こそ、真の英雄でございます。
私は、あなた様が約束をお守りになるであろうことに関しては、いかなる疑いも持っていません。しかし、あなた様にご子息ができたとき、彼らもまた王権を放棄するようになるとは思えないのでございます。あなた様のご子息が力ずくで王の座を奪い取るようになるのではないかと、こうした懸念が、私の心をさいなむのでございます。」
サティヤヴァティーの父親のこのようなややこしい懸念を聞かされたとき、父親の望みをかなえてやりたい一心のデーヴァプラタ王子は、腕をまっすぐ天に上げ、ついに次のような最高の誓いをしました。
「私は決して結婚せず、一生純潔を守ることをここに誓う!」
デーヴァプラタ王子がこの誓いを宣言したとき、神々は、彼の頭上にたくさんの花を降らせました。
そして、「ビーシュマよ! ビーシュマよ!」という声が、空中に響き渡りました。
「ビーシュマ」というのは、ものすごい誓いを立ててそれを成し遂げる人を意味します。このときからデーヴァプラタ王子は、人々から「ビーシュマ」というあだ名で呼ばれるようになりました。
こうしてシャーンタヌ王はサティヤヴァティーと結婚し、チットラーンガダとヴィチットラヴィーリヤという二人の息子をもうけたのでした。
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