要約・ラーマクリシュナの生涯(33)「弟子たちへの様々な指導」(1)
33 弟子たちへの様々な指導
ラーマクリシュナがヴィジョンによって見た信者たちのほとんどは、1884年の終わりまでにドッキネッショルにやって来た。プルナだけが例外として、1885年の初めに到着している。プルナが来たとき、ラーマクリシュナはこう言った。
「私がヴィジョンで見た、ここに来ることになっている信者は、プルナの到着をもって終了した。このクラスの信者はもう来ないだろう。」
こうした信者のほとんどは、1883年半ばから1884年半ばにかけてやって来た。この時期のナレンドラは生活苦と戦っており、ラカールはしばらくヴリンダーヴァンに滞在していた。
やって来た縁ある信者たちに対して、ラーマクリシュナは、他のグルたちのように儀式的なイニシエーションなどを行なうことはなかったが、一部の弟子には、その弟子に合ったマントラを授けることもあった。
ラーマクリシュナは、弟子一人一人の特徴に応じて、様々な指導の仕方をした。
例えば、若い弟子のひとりであるヨギンは、温厚すぎるほどの性格だった。たとえ正当な理由があっても、ヨギンが怒ったり荒々しい言葉を吐いたりしたのを誰も見たことはなかった。両親に騙され、意に反する結婚を受け入れたのも、彼のやさしさでもあり弱さでもあった。
ラーマクリシュナは、ヨギンの過度のやさしさ、弱さ、情の深さ等を修正するために、日々、様々な教育を施した。
ヨギンがある日、市場で鉄鍋を買った。彼は店の店主の良心を信じ、品物をよく確かめることなく購入した。しかし家に帰ってからよく見ると、鍋に亀裂が入っているのがわかった。
この話を聞いたラーマクリシュナは、ヨギンを叱ってこう言った。
「神の信者だから愚かであれということかね? 店屋が修行のために商いをしているとでも思って、その言葉を信じるのかね? どうして買う前によく調べなかったのか? こんな愚かなことは二度としてはならない。買い物に行くときには、まず何軒か店を回って品物の相場を調べなさい。それからよく品定めをするのだ。おまけがつくときには、それもちゃんともらっておいで。」
またある日、ラーマクリシュナの着物などがしまってある箱の中に、ゴキブリが見つかった。ラーマクリシュナはヨギンに命じた。
「ゴキブリをつまみ出して、殺しなさい。」
ヨギンはゴキブリをつかまえたが、殺すことはできなかった。殺さずに外に逃がしてやった。
ラーマクリシュナが尋ねた。
「殺したかね?」
ヨギンはまごついて答えた。
「いいえ、師よ。逃がしてやりました。」
するとラーマクリシュナは、ヨギンを叱りつけた。
「殺せと言ったのに、逃がしてしまったのか! どんなときでも私が言うとおりにしなくてはならないよ。そうしないと、もっと重要な問題で自分の気まぐれにしたがって、後々悔やむことになる。」
もともとヒンドゥー教でも仏教でも無益な殺生は禁じており、またラーマクリシュナ自身、花の痛みを自分の身に感じて、花を摘むこともできないほどだった。よってこのときヨギンに対してゴキブリの殺生を命じたのも、ただヨギンに対する教育のためであった。
またある日、カルカッタからドッキネッショルに向かう船の上で、ヨギンがラーマクリシュナの信者だと知ったある乗客が、理由もなくラーマクリシュナを批判しだした。
「ラーマクリシュナは聖者ぶっているだけだ。うまいものを食べ、やわらかい布団で眠り、宗教にかこつけて、学生たちを夢中にさせている。」
この中傷にヨギンはひどく傷つき、最初は叱りつけてやろうかと思ったが、考えているうちにやさしい性格のほうが勝った。
「人々はシュリー・ラーマクリシュナを知らないので、おかしなことを言って批判する。私にどうすることができようか?」
そう思ってヨギンは口をつぐんだまま、師へのいわれのない悪口に反論しなかった。
ドッキネッショルに着いたヨギンは、先ほどの出来事をラーマクリシュナに報告した。謙虚な師は称賛にも非難にも無関心なので、笑い飛ばして問題にされないだろうと思ったのである。しかしラーマクリシュナは、話を聞くと厳粛な面持ちとなり、こう言ってヨギンを叱った。
「その男は何の理由もなく私の悪口を言ったのに、お前は黙って座っていただけなのか! 聖典の教えを知っているか? グルの悪口を言うやつの首を切るか、さもなければただちにその場を立ち去れ、と言っているのだ。作りごとの中傷の言葉に反論もしなかたのか?」
これとほとんど同じ出来事が、同じ若者の弟子であるニランジャンにも起きた。ニランジャンはヨギンとは逆に、気性が激しかった。彼がドッキネッショルに船で向かう途中、乗客たちがラーマクリシュナの悪口を言っているのが耳に入った。そこでニランジャンは強い言葉で彼らに反論したが、乗客たちは無視した。ニランジャンはひどく腹を立て、とびあがって船をゆすりながら、転覆させると言って脅した。乗客たちは恐ろしくなって許しを請うた。
この出来事を聞いたラーマクリシュナは、ヨギンのときとは逆のことを言ってニランジャンを叱った。
「怒りは死に至る罪だ。決して怒りに身を任せてはいけない。善人の怒りは水面の跡のようなもので、すぐに消えてしまうものだ。賤しい人はあれこれ言うものだ。もしも戦おうとするならば、一生をケンカに費やすことになる。そういう人は虫けらにも劣る存在だと思いなさい。そんな言葉には無関心でいなさい。怒りの影響から自分が犯そうとしている大罪を見るのだ! 船頭たちのことを考えてもみよ。お前は何もしていない彼らまでも、おぼれさせるところだったのだよ!」