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要約・ラーマクリシュナの生涯(32)「ラーマクリシュナとナレンドラの神聖な関係」④

◎ナレンドラに不二一元論を悟らせる

 ナレンドラが最高の段階にいる修行者であると見抜いたラーマクリシュナは、最初から彼に不二一元論の真理を叩きこもうとした。ドッキネッショルに通い始めたころから、ラーマクリシュナはナレンドラに『アシュターヴァクラ・サンヒター』などの不二一元論の書物を読ませたり、自らも教えを説いたりした。しかしナレンドラは、無形のブラフマンを対象とする二元論的な礼拝を実践していたので、不二一元論は無神論的であるとして理解できず、非難した。彼はこう言った。

「このアドワイタ(不二一元論)哲学と無神論の違いは何ですか? 創造されたジーヴァ(個我)が自分を創造主だと考えるべきなのですか? これ以上の罪がありますか? 私は神で、あなたも神だ。生きて死ぬものはすべて神である――これ以上の不条理がありますか? こうした本を書いたムニやリシは、狂っていたのに違いありません。そうでなければ、どうしてあんなことが書けましょうか?」

 このような歯に衣着せぬナレンドラの言葉にラーマクリシュナは微笑みつつ、こう言った。

「今はこうした真理を受け入れられないかもしれない。しかしだからといって、そうした真理を教えた偉大な賢者を責めるのかね? どうして神の性質を制限しようとするのだね? 神に呼びかけなさい。神は真理そのものだ。どんな形でお姿を現されても、『彼』の真の性質であると信じなさい。」

 しかし当時のナレンドラは、自分の理性が納得しないものは何事も偽りだとみなして、あらゆる虚偽に立ち向かう性質があったので、ラーマクリシュナの言葉も理解できず、様々な主張によって不二一元論を攻撃した。

 このころ、ハズラという男がドッキネッショルのカーリー寺院の境内に住んでいた。霊的な努力もしていたが、金銭を稼ぎたいという欲望がほとんどいつも心を占めていた。世俗的な成功が、彼の修行の第一の目的だった。しかしそれを誰にも悟られないようにしつつ、高邁な哲学や神に対する無私の礼拝について語ることで、常に他者からの称賛を求めていた。バクティの道においてさえ、損得を勘定する性質だった。
 ラーマクリシュナは当初からハズラの性質を見抜いており、世俗の欲望をすべて捨てて、下心を持たずに神に呼びかけるように指示していた。しかしハズラは、間違った信念、自尊心、私利私欲に心を覆われて、ことあるごとに、自分はただの修行者ではない、偉大な人物であるということを、皆に宣伝していた。
 ラーマクリシュナは、ときにはハズラを厳しくしかりつけることもあったが、寺院から追い出すようなことはなかった。それはおそらく、ハズラの中にも少しは誠実な心もあり、ラーマクリシュナはそれも見ていたからであると思われる。
 しかし同時にラーマクリシュナは、近しい信者たちには、ハズラとあまり親しくしないように忠告していた。

「ハズラは実に勘定高い。彼の言うことに耳を貸すのではないよ。」

 ハズラは不純ではあったが知的であり、また懐疑的な性質を持っていた。ナレンドラのようなイギリス式の教育を受けた人が奉ずる西洋の不可知論哲学の学説に関する討論なども多少は理解できた。そのためナレンドラはハズラを気に入り、一、二時間も話し合うこともあった。いつも傲慢なハズラも、ナレンドラの前では常に謙虚な態度だった。信者たちは冗談交じりにこう言った。

「ハズラはナレンドラの『フェレンド』だ。」

※ラーマクリシュナはわずかな英単語しか知らなかったが、英語の「フレンド」を「フェレンド」と発音していた。

 ナレンドラは歌もとてもうまかった。ナレンドラが来ると、ラーマクリシュナはナレンドラの歌を聞きたがり、そして歌を聞くとサマーディに入ってしまうのだった。ラーマクリシュナの要請に応じて、ナレンドラはしばしば何時間も歌い続けた。
 ラーマクリシュナはナレンドラに、歌う曲目のリクエストもした。そしておそらくは不二一元論をナレンドラに理解させるという狙いも込めて、「存在するのはあなただけ」という歌をいつもリクエストして歌わせていた。

「存在するのはあなただけ」

 私は心をあなたにつないだ。
 存在するのはあなただけ。
 私が見つけたのはあなただけ。
 あなたが存在するすべて。
 おお、主よ、心の愛おしいお方! あなたは誰にとっても故郷。
 あなたがいらっしゃらない心など、どこにありましょうか?
 あなたがすべての心にお入りになっている。存在するのはあなただけ。
 賢者も愚者も、ヒンドゥもムスリムも
 あなたの思し召しが作られたこと。
 存在するのはあなただけ。
 遍満されるお方。天にもカーバにも。
 あなたの御前に誰もが敬礼する。
 あなたが存在するすべて。
 地から天の頂まで、天から地の底まで、
 どこを見てもあなたがおられる。存在するのはあなただけ。
 思いをはせて、私は理解した。疑いなく私は見たのです。
 あなたに並び称せられるものが何一つないことを。
 ジャファールには、あなたが存在するすべてであることが示されたのです。

 ある日ラーマクリシュナは、不二一元論の教えについて、ナレンドラに教えを説いた。ナレンドラは師の教えを注意深く聞いていたが、理解できなかった。師が話を終えると、ナレンドラはハズラのところに行き、こう言った。

「水差しが神で、茶碗が神で、見るものすべてが神だ、などということがあり得るでしょうか?」

 ハズラもナレンドラに同意して、この説をあざけると、二人でどっと笑いだした。ナレンドラの笑い声を聞くと、ラーマクリシュナは法悦状態のまま、子供のように着物を小脇に抱えて、部屋から出てきた。そして「何の話だね?」と言いつつ微笑んでナレンドラに触れると、ラーマクリシュナはサマーディに入った。

 この師の神聖なひとふれが、ナレンドラに劇的な体験をもたらした。ナレンドラ自身が後にこう語った。

「その日、師の不思議なひと触れによって、私の心に完全な革命が起こったのだった。私は、本当に全宇宙に神以外何も存在しないことを見て、すっかり仰天してしまったのだ。この心境がいつまで続くのだろうと思いながら、黙っていた。この感覚は一日中なくならなかった。家に帰った後も、全く同様のままだった。見るものすべてが神だった。食事の席に着くと、皿、食べ物、給仕してくれる母、そして自分自身のすべてが神なのを見たのだ。一口、二口食べた私は黙ってじっと座っていた。母がやさしく尋ねた。
『どうしてそんなに静かにしているの? どうして食べないの?』
 それを聞いて日常の意識に戻った私は、また食べ始めたのだった。しかしこのとき以来、食べていても、座っていても、寝ていても、学校に行っていても、何をしていても同じ経験をし続けたのだった。とても言い表せないある種の酩酊状態だった。たとえ通りを渡っている自分に馬車が向かってきたとしても、いつも通りひかれないように道をあけようという気にもなれなかったほどだ。私は独り言ちた。『私は馬車だ。馬車は私と一つだ。』このあいだ、手足の感覚はなかった。ものを食べても、何も感じられなかった。誰か他の人が食べているかのようだった。ときどき食事中に横になり、数分後にはまた立ち上がって食べ続けた。こうしてこの時期、普段よりもずっと多い量の食事をしたが、体調は崩さなかった。驚いた母は、私がひどい病にかかっていると思った。『この子は長生きしないでしょう』と言っていた。」

「この最初の酩酊状態が弱まると、今度は世界が夢のように見えだしたのだった。ヘドゥアやコーンウォーリス・スクエア(現在のアザディンド・バーグ)を散歩しながら、鉄の柵に自分の頭を打ちつけて、夢の柵なのか、本物の柵なのか確かめたりもした。頭や足の感覚がなくなっていたので、麻痺してしまうのではないかと思ったのだった。この圧倒的な酩酊状態は、しばらくは去らなかった。とうとう普通の状態に戻ったとき、自分が体験していたのが不二一元の啓示だったことを確信した。そして聖典に見られるこうした体験がすべて真実であることを悟ったのだ。このときから、不二一元の真理を疑ったことはなかった。」

 この時期、ナレンドラの兄弟弟子たちがナレンドラから直接聞いた、興味深い出来事もあった。

 あるとき、兄弟弟子のシャラト(後のサーラダーナンダ)やシャシ(後のラーマクリシュナーナンダ)らを家に招いた。夕方になって彼らはコーンウォーリス・スクエアに散歩に行った。道々、ナレンドラは兄弟弟子たちに、師の恩寵によって経験した様々な神秘的な体験について話した。そしてしばらく内側に沈潜した後、美しい声で歌を歌いだした。

 ゴーラー(チャイタニヤ)が愛の甘露をお与えくださる。
 次々に瓶から注ぎだされても、
 決してかれることはない!
 甘美なニタイ(ニティヤーナンダ)が皆に呼びかける。
 愛するゴーラーが招いている。
 シャンティプルは水差しで、
 ナディアは愛の流れに押し流されてしまった。

 歌が終わると、ナレンドラは言った。

「師は本当に愛を分け与えておられる。愛、バクティ、叡智、解放、そして人が願うものすべてを。ゴーラーは望んだものを我々にお授けくださる。なんと驚くべき力!」

「ある夜、私は部屋の戸に閂をかけてベッドで寝ていた。すると突然師が、私というよりも、この身体に住んでいる魂を引き寄せ、ドッキネッショルに連れていかれたのだった。師にはどんなこともおできになる。ドッキネッショルのゴーラーにはどんなこともおできになるのだ!」

 ナレンドラの白熱した霊的感動が兄弟弟子たちにまで感染し、皆、神聖な酩酊状態でよろめくほどだった。彼らは、長い間現実だと信じていた世界が夢の中に消えてしまったかのように感じた。
 また彼らは、自分たちの師であるラーマクリシュナが、恩寵によって人間の姿を取られた至高者であるということを悟った。

 夜遅くなり、兄弟弟子たちは帰ることになった。ナレンドラは彼らを途中まで送っていくと言った。しかし夢中で様々なことを話しながら歩いているうちに、シャラトたちの家があるチャンパタラまで来てしまった。シャラトはナレンドラにお茶を出そうと、ナレンドラを家に上げた。するとナレンドラは突然、不動になって叫んだ。

「この家は前に見たことがある! 驚きだ! 廊下も、部屋も、何もかも覚えている!」

 お茶を飲んだ後、シャラトたちはナレンドラを家まで送らせてしまったことを詫び、今度はシャラトたちがナレンドラを途中まで送っていこうとした。しかし道々の法友同士の語らいは尽きることなく、気付くとシャラトたちはまたナレンドラの家まで来てしまっていたのだった。

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