至高者の祝福(5)「至高者の教え」
第五話 至高者の教え
パリークシット王は聖シュカに、さらに様々な多くの質問をしたため、聖シュカは再びそれらに答えて言いました。
「この世のもろもろの現象は、主のマーヤーによって、魂が見ている夢のようなものです。 マーヤーは多様な姿をとるがゆえに、真我は様々な姿をとるように見えます。そしてその結果、人は物質的な感覚の対象に渇愛を抱き始め、「私」とか「私のもの」といった思いを増大させていくのです。
しかしひとたび彼がその妄想を捨て、時間と空間とマーヤーを超越する真我の栄光に喜びを見出すなら、その人は誤謬を捨て、三グナを超越するでしょう。
三界における最高の教師であるブラフマー神は、自らが生まれた蓮華の上に座ると、宇宙創造の仕事を推し進めようと、瞑想を行ない始めました。しかしそのときブラフマー神は、宇宙創造に役立つものを何も持っていなかったのです。
ブラフマー神が考え込んでいると、「タパ(苦行)」ということばが二度、聞こえてきました。ああ、王よ。これこそが、すべての富を放棄した者の財産と呼ばれているものです。
この言葉を聴いたブラフマー神は、あたりを見渡しましたが、誰もどこにもいませんでした。そこで彼は再び蓮華の上に座りなおすと、これを自分に与えられた助言と考え、苦行を実践する決意をしたのです。
こうしてブラフマー神は、心と呼吸と感覚と体を完全に制御して、36万年間の間、静かな心で苦行を行ない続けたのでした。
ブラフマー神の苦行に満足された至高者は、最高の世界を彼に見せられました。そこには苦しみや迷い、恐怖などが全くない、最高の神の国なのです。
そこは純粋なサットヴァでのみ構成される世界で、すべてを破壊するカーラ(時)でさえここでは力を行使できず、マーヤーも影響を及ぼせないのです。ならばマーヤーが生み出した執着や欲望などが、どうしてその世界に入り込めるでしょうか。その世界に住む至高者の従者たちは、神々からも、悪魔からさえも、崇拝されているのです。
それら至高者の従者たちは、透き通った肌、そして蓮華のような眼を持ち、黄色の衣を着て、非常な魅力を放っています。そして四本の腕を持ち、身体からすばらしい輝きを放っています。
ブラフマー神はそこに、すべての供養の受け手、全宇宙に遍満する主、すべての信者の守護者である至高者のお姿を眼にしました。
至高者は、甘露のごときまなざし、優雅な微笑を浮かべて、慈悲を示しておられました。その眼は赤く、四本の腕を持ち、黄色の衣を着られています。
主のお姿を見たブラフマー神は、歓喜に満たされました。身体の毛はすべて逆立ち、あふれる愛の思いに、涙がとめどなく流れたのでした。そして主の蓮華の御足に、深く礼をささげたのでした。
至高者は、ブラフマー神の手を握ると、優しく輝く笑顔で、次のように話されたのです。
『全ヴェーダの知識を持つあなたは、この宇宙を創造するために、まことに長きに渡り厳しい修行を続けられた。私はそれに大いに満足したのだ。あなたも知るように、偽善的なヨーギーでは、決して私を満足させられないのだ。
さあ、すべての祝福の授与者である私に、望む恩寵を求めなさい。あなたは必ずやそれを得るであろう。人が自分の魂のためになす努力は、おお、ブラフマーよ。私の姿を見ることで、必ず報われるのである。
私が発した「タパ」という言葉を聞いただけで、あなたはかくもすばらしい苦行を、ただ一人で成し遂げた。それゆえにあなたは、わが最高の神の世界を眼にできたのである。
あの時、あなたに苦行をせよと命じたのは、創造をどう推し進めればよいか、あなたが理解できないでいたからである。ああ、罪なき者よ。まさに苦行こそが、私の心であり、この宇宙を創造し、維持し、また私の中に再吸収するものなのだ。なしがたき苦行の中にこそ、私の力は存在するのである。』
ブラフマー神は言いました。
『ああ、主よ。私の唯一の望みは、形なきあなたの実在の、絶対的および相対的な相を見るという恩寵を、あなたから与えていただきたいのです。
ああ、ゆるぎなき決意のマーヤーの主よ。多様な力を持つあなたは、そのマーヤーを用いて、ただお一人にて、宇宙という多様な姿にご自身をあらわされ、それを維持、そして破壊されるのです。そして必要に応じて多様なお姿をとりながら、リーラー(神のお遊び)を続けていかれるのです。あなたはこのことをいかにしてなされるのか、それを見ることのできる眼を、わたしに与えてほしいのです。
ああ、主よ。どうか私が疲れを知ることなく、あなたの仕事を続けられますように!
創造の仕事を続けようとも、あなたの慈悲によって、私がそれに執着を抱きませんように! 慢心に陥ることのありませんように!』
聖なる至高者は言われました。
『あなたは今から私が伝える、最も秘奥・完全・絶対なる叡智を、そして私についての悟りを、さらにバクティの真実とそれに関することのすべてを、心して受け取るがよい。
この宇宙が創造される以前には、私は絶対的な状態として存在していた。私以外にはいかなる微細なものも粗雑なものも存在せず、またそれらの原因であるプラクリティも存在しなかったのだ。
創造の後にも、私は世界そのものとして存在し続け、さらには宇宙が破壊された後にも、変わりなく実在し続けるのである。
真我の真実を知ろうと願う者は、すべてを「これではない、これではない」と否定していくジュニャーナ・ヨーガの方法、または「すべてはそれである」と肯定するバクティ・ヨーガの方法、そのどちらかの方法によって、常にすべてに偏在するかの実在だけを追求し、悟るべきなのである。
あなたは私の教えに心を完全に集中して、自分を確立せねばならない。そうするならあなたは、いかに多くの仕事を成し遂げようとも、決して執着や慢心などに惑わされることはないであろう。』
不生不滅の主である至高者は、ブラフマー神にこう話されると、姿を消されたのでした。
ブラフマー神は、いまや眼に見える姿を消された至高者に合掌して礼拝した後、かつて存在したままに、再びこの宇宙を創造していったのです。
宇宙創造のあともブラフマー神は、全生物に幸福を与えんがため、様々な修行を実行したのでした。
その間、神仙ナーラダは従順な僕としてブラフマー神に仕え、その善行と謙虚さ、自己抑制によって、ブラフマー神を喜ばせたのでした。
ブラフマー神が喜ぶのを見て、神仙ナーラダは、今あなたがたずねたのと同じことを、恭しくブラフマー神にたずねたのです。
神仙ナーラダの質問に喜ばれたブラフマー神は、至高者ご自身から教えられた真理を、彼に伝えたのでした。
そして神仙ナーラダは、ブラフマー神から伝えられたその教えを、サラスワティー河の岸辺で至上のブラフマンを瞑想していた、聖仙ヴィヤーサに伝え、私は彼からその教えを授かったのです。
さあ、そして今私は、あなたの質問に答え、その教えをあなたに伝えていくことにしましょう。」