聖者の生涯『アドブターナンダ』(6)
バラナゴル僧院において、アドブターナンダはしばしば食事もとらずに深い瞑想修行に没頭していました。心配した兄弟弟子たちが、アドブターナンダを通常意識に引き戻して無理やり食事をとらせるために、多くの策略をめぐらせました。
また、アドブターナンダは夜、全く眠りませんでした。最初、アドブターナンダは眠る振りをするのですが、兄弟弟子たちが眠りについたころ、一人で起き上がって、静かに数珠を繰ってマントラを唱え始めるのでした。ある世、これに気づいたサラダーナンダは、笑って言いました。
「ああ、君は私たち皆を追い越そうとしているのだね! 私たちが寝ている間に、君は数珠を繰っている!」
あるとき、多くの兄弟弟子たちが、バラナゴル僧院を離れ、タパシャー(苦行)の旅に出ようとしていました。スワーミー・トゥリヤーナンダもまた、インドの各地の修行者たちに会いたいという思いに駆り立てられ、僧院を出ることを考えていました。するとそのとき、トゥリヤーナンダの心の内側から、一つの声が聞こえてきました。
「彼ほどのサードゥをどこで見つけられるだろう?」
トゥリヤーナンダがハッとしてあたりを見渡すと、アドブターナンダが、横たわりながら深い瞑想に入っているのが見えました。そこでトゥリヤーナンダは思いました。
「まったくだ。どこで彼のようなサードゥを見つけられるだろうか。」
そのようにトゥリヤーナンダが考えたまさにその瞬間、アドブターナンダが言いました。
「君はどこに行くのか。ここでタパシャーに励むほうがよい。」
こうしてトゥリヤーナンダは僧院にとどまりました。
またあるとき、トゥリヤーナンダはある紳士と「神」について話しながら、次のようなことを言いました。
「主は、無慈悲とか不公平とかいう欠点はお持ちではない。」
その紳士が帰った後、アドブターナンダはトゥリヤーナンダに言いました。
「君はなんという事を言ったのか! 君が主の母親のように、『彼』の弁護にまわらなければならないとでもいうのか。」
トゥリヤーナンダは、釈明して言いました。
「『彼』は気まぐれな専制君主、ロシアのツァー(皇帝)のようなものだろうか。『彼』は優しくて慈悲深いのだ。」
アドブターナンダは再び言いました。
「君の主を非難から救うのは結構だ! ただ、君は専制的なツァーですら『彼』に導かれているという事は認めないのか。」
これを聞いて、トゥリヤーナンダは、
「彼はこの問題に、なんというすばらしい光を投げかけたものか!」
と思いました。このときのアドブターナンダの言葉は、トゥリヤーナンダの心に深く刻み込まれたのでした。
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