yoga school kailas

純粋な少年の話

 あるとき、ある行者が、ガンガーの岸辺で神への礼拝をおこない、そしてプラーナーヤーマ(呼吸法)を修行していました。
 
 それを、ある牛飼いの少年がじっと見ていました。彼は全く文字も読めず、何の学もなく、世間のことをほとんど何も知りませんでしたが、心がとても純粋でした。

 行者が修行と礼拝を終えてそこを去ろうとすると、牛飼いの少年は彼の足をつかんで、何をしていたのか教えてくれるように頼みました。

「プージャーをしていたんだよ。」

「プージャーとは何ですか?」

「プージャーとは、マントラを唱えたり供物を捧げたりして、神を礼拝することだよ。」

「マントラって何? 礼拝って?」

「おまえは何も知らないのだね。私が説明しても、おまえには理解できないよ。私は忙しいから、もう行かせておくれ。」

「では、最後に一つだけ教えてください。」

「何かね?」

「どうして鼻をつまんでいたのですか?」

「あれはプラーナーヤーマをやっていたんだよ。鼻をつまんで息を止めることで、心が集中できるのだよ。集中することで、私たちは神を見るのだよ。」

 こう言って、行者は去っていきました。

 心の純粋なこの少年は、この行者のことを自分のグルとして受け止めました。そしてグルのまねをして、河で沐浴をした後、河原に座り、指で鼻を閉じました。しかし少年はプラーナーヤーマの正式なやり方を教わったわけではなかったので、ただひたすら鼻を閉じ、息を止めていました。
 一分後、少年は思いました。

「神はまだ来ないぞ。きっと遅れているに違いない。ではもっと続けよう。」

 少年は純粋な心で強い信念を持ち、「私は必ず神を見るだろう」と信じていました。

 さらに一分が経過し、少年は苦しくてたまらなくなりましたが、それでも強い信念で、息を止め続けました。

 これを見ていたハリ(クリシュナ神)は、この少年の強い信念、無垢なる性質、心の純粋さに心を動かされました。もし自分が現れなかったら、この少年は本当に窒息するまで続けるだろうと知ったクリシュナ神は、少年の前に、四本の腕を持つ主ヴィシュヌの姿として現れました。
 いきなり目の前に、四本の腕で円盤を持ったおかしな男が現れたのを見た少年は、息を止めるのを中断して、「あなたは誰ですか?」と尋ねました。

「私は神です。君が一生懸命鼻をつまんでいたので、ダルシャン(神が目の前に姿を現すこと)を与えようと思って来たのです。」

「あなたが本当に神様かどうか、僕にはわかりません。だから僕のグルに確かめてもらいたいと思います。」

「では、行ってそのグルを呼んできなさい。」

「でも、その間にあなたがいなくなったら困るから、あなたをロープで縛っておいてもいいですか?」

「いいでしょう。満足のいくようにしなさい。」

 こうして少年はクリシュナ神の体をロープで近くの樹に縛り付けると、急いで例の行者を呼びに行きました。
 行者を見つけた少年は、こう言いました。

「グルよ、僕と一緒に来てください。そして彼が本当に神様かどうか見てください。」

 行者は、少年が頭がおかしくなったのかと思いました。しかし少年が強くせがむので、ついに行者は少年とともに、河原に向かいました。少年は、ロープで樹に縛られているクリシュナを指さしましたが、行者は心が純粋でなかったので、そこにはただロープが見えるだけでした。
 行者は、頭がおかしな少年がうっとおしくなったので、少年を納得させるために適当なことを言いました。

「そうですよ、このお方が神です。」

 こう言うと、行者は去っていきました。

 少年はその行者をグルとして完全に信頼していたので、本当に神様が来てくださったのだと信じてうれしくなりました。

 グルの言葉に対する少年のこの完全な信念を見て、クリシュナ神はとてもうれしくなり、少年に、好きなものを何でもあげよう、と言いました。

 少年は答えて言いました。

「僕は住むところもありますし食事も十分にありますので、特に欲しいものはありません。
 でもあなた様が恩恵を与えてくれるというならば、僕が鼻をつまんだら、いつでもすぐに来てくれるようにしてください。今回みたいに遅れてはダメですよ。」

 クリシュナ神は、少年の素朴さにとても喜び、
「よろしい。そうしよう。」
と答えました。

 こうしてこの日から、この牛飼いの少年は、毎日の遊び相手を見つけました。彼は毎日、森に牛を放牧すると、鼻をつまみました。するとすぐにクリシュナ神がやってきて、少年と一日中、遊ぶのでした。

 数年後、少年は道でばったりと例の行者に出会いました。
 少年は行者の足下にひれ伏して、言いました。
「グルよ。あなた様は、神を見るためのとても良い方法を教えてくださいました。」

 行者は少年が何を言っているのかわけがわかりませんでした。少年が起きたことをはじめから詳しく説明すると、行者は、では自分にも神を見せてくれと頼みました。そこで少年が鼻をつまむと、たちまちクリシュナ神が現れました。しかし行者は、自分の聖典の知識に慢心を持ち、心が清らかでなかったので、クリシュナ神を見ることができませんでした。
 そこで少年はクリシュナ神に、グルにも姿を見せてくれるように頼みました。クリシュナ神は答えました。

「彼は純粋ではないのだよ。まず初めに心を清め、プライドを捨てなければならない。そうして初めて、彼は私を見ることができるだろう。」

 この言葉は、行者にも聞こえました。彼は自分の過ちに気づき、その場でプライドを捨てました。そして激しく涙を流して、少年の足下にひれ伏しました。そこでクリシュナ神は、彼の目にもまたその姿を現し、恩寵を与えたのでした。

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