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仏弟子の物語(1)「スブーティ」

 
スブーティ

 遥かなる昔、世界のグルである世尊パドゥムッタラがまだこの世に出現されていないとき、ハンサヴァティという都のあるブラーフマナに、ナンダという名前の男の子が生まれた。彼は年頃になると三ヴェーダを学んだが、その後、自分の取り巻きとなった四万四千人の少年たちと共に山のふもとで仙人(リシ)として出家し、四つの禅定と四つの無色定と五神通を得て、弟子たちにもまた修行法を説いた。そして弟子たちもまた瞑想を達成した。
 
 そのころ、この世に世尊パドゥムッタラが出現された。ハンサヴァティの都の近くに住みながら、ある日、早朝に世界を眺めていると、ナンダの弟子の修行者たちがアラハットになる機根をそなえているのと、ナンダが『諍い無き境地に住する者』と『よく布施を受ける者』の二つの要件をそなえた修行者の境地を望んでいるのを見た。
 
 そしてナンダの弟子たちが種々の果実を集めに出かけていったとき、世尊パドゥムッタラは、ナンダの前に現れ、空中から大地に降り立った。

 ナンダは突然現れたその人物が、神通とともに、完璧な仏陀の相好をそなえているのを見て、『このお方は覚者に違いない』と悟り、五体投地して礼拝し、座席を設けて座っていただいた。

 そのとき、四万四千人のナンダの弟子たちが帰ってきた。ナンダは彼らに、このお方は自分とは比べ物にならないほどに偉大な全智者であることを告げると、弟子たちが集めてきた果実を、供物として世尊の鉢の中に入れた。そのとき天の神々もまた、天の食物をその鉢の中に捧げ入れた。

 その後、世尊パドゥムッタラは、心の中で、自分の弟子の出家修行者たちがここにやってくるようにと思念した。その思念を読み取った世尊の弟子たちは、そこへやって来て、世尊を礼拝して、そこに立った。

 これを見て、ナンダは自分の弟子たちにこう言った。

「君たち、覚者様がお座りになっている座席はみすぼらしい。覚者様の弟子の出家修行者方にも席がない。よって君たちは世尊とその弟子たちのために、山のふもとから色と香りをそなえた花々を持ってきて、恭敬を捧げなさい。」

 すると、不可思議なる神通を持つナンダの弟子たちは、すぐに花々を持ってきて、世尊パドゥムッタラとその弟子たちのために花の座席を作った。そしてナンダはパドゥムッタラ如来に合掌して、こう言った。

「尊師よ、私の長期にわたる利益と安楽のために、この花の座席にお座りください。」

 世尊はその座に座り、また世尊の仕草を見て、弟子たちもまたそれぞれの座に座った。そしてナンダは、パドゥムッタラ如来に花の日傘をさしてそばに立った。

 世尊パドゥムッタラは、「修行者たちのこの恭敬は、大いなる果報あるものであれ」と言うと、滅尽の瞑想に入った。それを見て、世尊の弟子たちもまた瞑想に入った。
 こうして連続七日間、世尊パドゥムッタラは滅尽の瞑想に入り続けた。その間ナンダはどこへも行かずに、喜びと幸せに包まれつつ、世尊の上に花の日傘をさし続けた。ナンダの弟子たちは、托鉢の時間になると森の木の根や果実を集めてきて食べたが、その他の時間はずっと、世尊に合掌を向けて立ち続けた。

 七日後、瞑想から出てきた世尊パドゥムッタラは、自分の弟子の中で『諍い無き境地に住する者』と『よく布施を受ける者』の二つの要件をそなえた弟子を呼び、彼に、『この仙人たちに祝福を与えなさい』と言った。

 そこでその弟子は、ナンダとその弟子たちに祝福の言葉を述べ、その後、世尊パドゥムッタラ自身が彼らに法を説いた。これによって彼らはアラハットの境地に達した。

 しかしナンダは、この世尊の弟子を見て、「私も彼のように、『諍い無き境地に住する者』と『よく布施を受ける者』の二つの要件をそなえた者になりたいものだ」という思いに襲われ、心が散乱した。そしてナンダは世尊パドゥムッタラに、その願望を伝えた。それに対して世尊はこう答えた。

「遥かなる未来に、ゴータマという覚者が出現なさるだろう。そのお方のもとで、汝の願いは成就するであろう。」

 そして世尊パドゥムッタラは、その後さらに説法をしたのちに、弟子たちと共に空へと飛び去ったのだった。

 ナンダはその後もたびたび世尊パドゥムッタラのもとに行って、法を聞いた。そして死後、ブラフマローカに生まれ、そしてそこで死んだのちは、五〇〇生の間、森林に住む出家修行者となった。

 この世にカッサパ正覚者が現れたときもナンダは森林に住む出家修行者となり、二万年の間修行した後、死んで三十三天に生まれた。そしてそこから死んだのち、人間界において数百回にわたって王として生まれた後、世尊釈迦牟尼が登場した時代に、サーヴァッティのアナータピンディカ長者の弟のスマナ長者の家に、スブーティという名の者として生まれた。

 アナータピンディカは世尊釈迦牟尼に帰依をして、多くの布施と奉仕をなした。そしてスブーティも世尊釈迦牟尼に信を持ち、出家した。そして森において出家修行者のダルマを修行しつつ、慈愛の瞑想を基礎として観察を増大させて、ついにアラハットの境地に達した。

 スブーティは法を説くときに、誰にでも偏りなく法を説き、『諍い無き境地に住する者』の中の第一人者として知られるようになった。

 また、托鉢に行くときはいつも、家ごとに慈愛の瞑想に入り、瞑想から出た後に「この布施者たちに大きな果報がありますように」と念じてから布施の食物を受け取った。そこで『よく布施を受ける者』の中の第一人者として知られるようになった。
 
 あるときスブーティは、人々に利益を与えるために地方を歩き回りつつ、ラージャガハに到達した。ビンビサーラ王はスブーティ尊者が来たのを知って、自ら近づいて礼拝すると、スブーティのために雨期のための住居を作るので、ここに住んでくれるようにと頼んだ。

 しかしその後、ビンビサーラ王は、その約束を忘れてしまった。そこでスブーティは、そのまま露地で時を過ごした。
 スブーティが露地に住んでいるので、神々は雨期になってもラージャガハに雨を降らせなかった。雨が降らないので、人々は悩まされた。ビンビサーラ王は、いったいなぜ神々は雨を降らせないのかと思いを巡らし、やっとスブーティのことを思い出した。そしてスブーティのために草ぶきの庵を作り、「尊者さま、この草ぶきの庵にお住みください」とスブーティに言った。

 スブーティは庵に入り、草の敷物の上に蓮華座を組んで座った。
 そこでようやく神々は雨を降らせ始めたが、それでもまだ雨は少ししか降らなかった。そこでスブーティは、雨が降らないことへの恐怖を人々から取り除くために、神々にこのように言った。

「私の小屋はよく葺かれ、風も入らず、快適である。神よ、思いのままに雨を降らせ。
 私の心はよく安定し、解脱している。私は精励・努力して住している。神よ、雨を降らせ。」

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