モトゥルナート・ビスワスの生涯(5)
ラースマニは存命中、モトゥルをドッキネッショル寺院の管理人にした。そして彼女の死後、彼は彼女の広大な私有地の唯一の遺言執行人になった。当然、彼は大量の責任を負い、この事態を深刻に受け止めた。
ある日、泥棒がクリシュナの像から装飾品を盗んだ。モトゥルはそのことを知ると、寺院へ行って神にこう言った。
「なんと不名誉なことでしょう、おお、主よ! あなた様は御自身の装飾品を守ることがおできにならない!」
シュリー・ラーマクリシュナは、彼を厳しく戒めておっしゃった。
「なんて考えだ! 御自身のお手伝いと付き人としてラクシュミー(幸運の女神)をお持ちである彼が、これまで輝きに事欠いたことがあるか? あの宝石はおまえには高価かもしれないが、神にとっては粘土の塊も同然である。恥を知りなさい! おまえはそのように卑しく話すべきではなかった。おまえは神の栄光を称えるために、神にどんな上等なものを与えることができるのだ?」
モトゥルは普段はかなりけちであったが、シュリー・ラーマクリシュナのことになると、彼の気前の良さには際限がなく、またドッキネッショルを訪れる放浪修行者に衣服や食事を与えることをためらうこともなかった。ときには師の命令で、例えばブランケットや水を入れる容器などの贈り物も気前よく僧に与えた。
ある日、モトゥルと師はヤートラ(神聖な物語を基にした民族劇)を見ていた。モトゥルは、師がそれぞれの役者に褒美を与えられるように、師の前に十枚ずつ積み重ねて用意していた百ルピーを置いた。ところでシュリー・ラーマクリシュナは金銭の感覚をお持ちでなかった。彼は歌や語りで師を喜ばせた一番最初の役者に、それらの全額をお与えになったのだ。ほんの少しの苛立ちも抱かず、モトゥルは師の気高い心的状態を称賛し、もう一度お金を置いた。再びシュリー・ラーマクリシュナは別の役者に全額をお与えになった。その後、師は三人目の役者にも報酬を与えたいとお望みになったが、役者にあげるお金がもうないことにお気付きになると、モトゥルは自分の衣服を脱ぎ去り、代わりにそれらを与えた。
シュリー・ラーマクリシュナは昔、一方の手にお金を、もう一方の手に土くれを手にして、「ルピーは土くれ、土くれはルピー」とおっしゃりながら、両方をガンガーへ投げ入れられた。モトゥルはこのことについて知っていたが、師へ高価なものを捧げるのが大好きだった。ときにはシュリー・ラーマクリシュナを自身のカルカッタの邸宅へ連れて行ったので、神聖な親交を楽しむことができ、思う存分師へ奉仕をした。愛する者に最高のものを捧げるのが人の生来の気質であるので、モトゥルはある日、金製と銀製の新しい食器を一式、師に使っていただくために購入した。しかしシュリー・ラーマクリシュナにとっては、葉っぱのお皿も金のプレートも全く同じだった。彼はモトゥルの自宅へおいでになり、その高価な食器を、なんの感嘆の念も畏敬の念もお持ちにならずお使いになった。それからモトゥルは師に優雅な衣服を着せ、こうおっしゃった。
「ババ、この私有地も含めて、あなた様はすべての所有主であられます。わたしはあなた様の世話役にすぎません。ごらんください、あなた様は金のプレートで食事を召し上がり、銀の器で飲み物をお飲みになり、それらを無頓着に置きっぱなしになさります。あなた様が再び使うことがおできになるように、食器を洗い、安全な場所に置くことがわたしの義務でございます。」
ある日モトゥルは、非常に高価なショールを師へ贈った。シュリー・ラーマクリシュナは機嫌よく受け取られ、それを身に付け、大喜びで少年のように人々にみせびらかして、寺院の庭を散歩なさった。彼は値段について言及することを忘れなかった。当時、そのショールは千ルピーしたのだ。しかし少し経ってから、彼の心的状態は変化した。識別力をお持ちの彼の心は、熟考し始めた。
「このショールはなんなのだ? 羊の毛にすぎないではないか。他のすべてのものと同じように物質である。人を寒さから守ってくれることに違いはないが、それならブランケットやキルトでも同じことではないか。また、ほかの物質的な物と同じように、神を悟るのには役立たない。むしろそれは所有主を思いあがらせる。彼は自分自身を裕福であると思い、慢心を持つ。それゆえ、それは人を神から遠ざける。」
この考えはシュリー・ラーマクリシュナには耐えられなかった。直ちに彼はショールをほこりまみれの地面に投げ捨て、踏みつけ、唾を吐きかけられた。そのうちに誰かがショールを手に取り、持ち去った。ショールの悲しい結末を聞いて、モトゥルは微笑んでこう言った。
「ババは正しいことをなさいました。」
シュリー・ラーマクリシュナは昔、聖母に祈った。
「母よ、わたしを無味乾燥な僧にしないでください。あなたの創造と喜びと至福を楽しませてください。」
霊的な生活において、欲望を抱くことはあまり良しとはされないが、シュリー・ラーマクリシュナはそれらでお遊びになり、その間、モトゥルはその遊び仲間であり、見物人であった。
後年、シュリー・ラーマクリシュナはこれらの欲望について、また彼がどのようにして欲望を抑えたかについて、信者にお話しになるのを好まれた。彼はこうおっしゃった。
「昔、金の刺繍飾りの非常に高価なローブを着て、銀製の水ギセルを吸うという考えを思いついた。モトゥル・バーブは新しいローブと水ギセルをわたしに送ってくれた。わたしはローブを着た。また水ギセルをいろんな方法で吹かした。このように寄りかかって吸ってみたり、あんなふうに吸ってみたり、また頭を上にして吸ったり、頭を下げて吸ったりもした。それから自分自身にこう言ったのだよ。
『おお、心よ、これが世の人々が”銀の水ギセルを吸う”と呼んでいるものだ。』
わたしはすぐにそれを捨てた。わたしは数分の間ローブを身に着けた、それから脱いだ。足で踏みにじって、唾を吐き、こう言った。
『これが高価なローブというものだ! ただ、人のラジャス性を増させるだけだ。』」