マルパの生涯(7)
マルパは半月分の食料を持って、インド南部にある、逆巻く毒の湖に浮かぶ山のような島へ向けて旅立ちました。道は進みづらかったので、グルの指示に従って進みました。ある日、二羽の鳥が前方を飛んでいるのを見かけた以外は、途中で何の動物も見ませんでした。
マルパが毒の湖に浮かぶ山のような島にたどり着いたとき、その土地の霊が、魔法を使って、厚い雲で空を覆いました。稲光が走り、雷鳴が荒々しくとどろき、何度も雷が落ちました。雨と雪の大嵐になりました。昼間だというのに、タールを流したような真っ暗闇になりました。マルパは、生きるか死ぬかの瀬戸際の激しい苦痛を味わいました。三人のヨーギーがナーローパの前で誓った言葉を思い出したので、マルパは、マハーパンディタ・ナーローパの名前を大声で呼び、ナーローパに懇願しました。すると、空は晴れ渡りました。
マルパは、「クックリーパはどこにいるのだろう?」と不思議に思い、彼を探し始めました。ある木の下に、鳥の羽に覆われた人間の姿がありました。曲げた腕に顔は隠されていました。マルパはためらいつつ、「これが彼だろうか、それとも違うのだろうか」と考え、尋ねました。
「あなたはクックリーパを見ましたか?」
その人物は突然顔をあげました。目はにらみつけていました。そして言いました。
「やあ、やあ、鼻ぺちゃのチベット人! こんなに障害の多い道だというのに、お前を寄せ付けずにはおけなかった。どこから来たんだ? どこへ行くんだ? クックリーパに何の用だ? 私はここに住んでいるが、クックリーパのようなものは見たことも聞いたこともないぞ。」
そしてまた腕を曲げて顔を隠しました。
マルパはクックリーパを求めてまた別の場所を探しましたが、見つけることはできませんでした。そのとき、グルの言葉を思い出し、先ほど会った人物がクックリーパに違いないと確信しました。マルパはもう一度その人物の前に行き、礼拝して言いました。
「マハーパンディタ・ナーローパが私をここに送りました。マハーマーヤーを求めてきました。どうか私にお教えください。」
そしてマルパは贈り物を供養しました。
その人物は、顔をあげて言いました。
「なんて言った? そのナーローパと呼ばれる者は、博識なんかじゃないぞ。瞑想経験のないパンディタなんて、お笑い草だ。彼はマハーマーヤーを知っていて、自分で教えることもできるのに、人をそっとしておいてくれないからな。」
おどけた調子でしゃべっていましたが、クックリーパは喜んでいました。
「おお、今のは冗談だ。彼は、想像もできないほどの学問と修行の成就を達成したパンディタだ。そして私の気持ちは純粋だ。我々二人は、教えを交換し合った。彼はマハーマーヤーを知っているが、私もまた伝授を保持している。神聖なる見地から、彼はお前を私のところへ送ってよこしたのだ。私はお前にすべてを教えよう。あとでナーローパに頼んで、間違っているところがないか尋ねたらいい。
ここへ来る道で、二人の男を見なかったか?」
「見ませんでした。」
「二羽の鳥を見たか?」
「はい。」
「それなら、お前は鳥のような二人の男を見たのだ。」
クックリーパはまず、マルパにアビシェーカをおこないました。そして、大きな沈黙、小さな沈黙、そして装飾の意味によって、三つのヨーガの直接伝授をマルパに与えました。
形という劣ったヨーガによって、人は微細、鮮明、集中の道に導かれます。
マントラという深遠な意味のヨーガによって、人は三つの洞察のヨーガに導かれます。
ダルマという究極の意味のヨーガによって、人は五つの精髄のテクニックで縛られまる。
クックリーパはまた、24の主要なサンパンナクラマとその他の意味についても詳しく説きました。
マルパは障害なく学習を完成させました。彼はその後、これらの教えをすっかり授けてもらったことへの感謝の気持ちをクックリーパにあらわすために、祝宴の準備をしました。ガナチャクラの間、マルパは大いなる喜びに満たされて、クックリーパと法の兄弟姉妹たちに許可を求め、この歌を捧げました。
主よ、すべての仏陀方の心の息子、
すべての衆生のヴァジュラダラ、
秘密のタントラの宝の保持者、
栄光あるシャーンティバドラよ、私はあなたの御足に礼拝します。
あなたの体を見ると、私のプライドの山は崩れます。
あなたの言葉を聞くと、私は卑小な心から解放されます。
あなたの心を思うと、内側と外側の闇が払われます。
私はここのところずっと、幸運でした。
私はチベットからインドにやってきました。
私は、長い道を旅してきた者です。
私はパンディタの方々に、聖なるダルマを請いました。
私は直接の系統の聖なるダルマを授かりました。
私は、シッディを持つ主の御足に触れました。
人間と霊の障害を鎮め、
私は、秘密のマントラの父と母のタントラを授かりました。
私は、偉大なる口頭の教えを授かった教師です。
栄光あるシャーンティバドラは、私を受け入れてくださいました。
私は、善きグルのただ一人の息子です。
ネパールに向かって、障害なく、南方へと旅をしました。
私は幸運なカルマの仏教徒です。
タントラの王であるチャクラサンヴァラは、簡単にみえます。
この聖なるダルマは、短期間で成就されたからです。
吉兆の預言を聞いて、
私は、人として生まれることの価値を悟りました。
私のへその緒は、チベットのロタクで切られました。
私の幸運なカルマは、インドで再び目覚めました。
シッダ方とパンディタ方にお会いして、
アビシェーカ、タントラの解説、そして口頭の教えを授かり、
私の身体、言葉、そして心は祝福されました。
ダーキニーたちの主の御足のもとで
私は三つのヨーガの意味を学び
そして母『偉大なる奇跡』に会いました。
父『すべてが善い』に仕え、
愛著の道で、サマーディの経験を磨きました。
三つの智慧というランプを輝かせ、
三つの惑いの闇を払い、
三つのあいまいの燃料を燃やしつくし、
三つの低い世界の墓を空にします。
おお、主であるグルは、何とお優しいのでしょう!
おお、チューキ・ロドゥーは、何と幸せなのでしょう!
おお、ここですべてのダルマの兄弟姉妹と共にあることは、なんと楽しいのでしょう!
マルパはこの歌をチベット語で歌い、仲間のチベット人も、チベット語を理解できる者もそこにはいなかったので、ダラシュリーやその他の法友たちは、「このチベット人は気が狂ったのか?」と言いました。
マルパは言いました。
「私は特別な幸運と家族に恵まれましたが、今生の強い習慣の力によって、この歌はチベット語で出てきました。」
彼は歌を彼らの言葉に翻訳し、彼らはそれをとても素晴らしい歌だと思いました。
そしてマルパは、「私はナーローパのもとへ早く帰らなければならない」と思いました。
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