パトゥル・リンポチェの生涯と教え(83)
◎パトゥルの苦しみ
ゾクチェン僧院を後にして、パトゥルはダチュカにあるゲマン・リトーへ行き、一般にケンポ・ヨンガとして知られるケンポ・ヨンテン・ギャツォの家を訪ねた。
パトゥルはそこに着くと、突然こう言った。
「ケンポ、ここに一年間住んで、独房修行をしてもいいか?」
ケンポは驚いたが、希望に胸を躍らせて、ただちに同意し、一年間パトゥルの独房修行の従者として仕えたのだった。
パトゥルがしばらくリトリートに入ると、ケンポ・ヨンガは、ゾクチェン僧院の大僧院長ゾクチェン・ポンロポがパトゥルを訪問するために彼のもとに向かっているとの情報を得た。ケンポは、ゾクチェン・ポンロポがもうすぐ到着するということをパトゥルに知らせた。しかしパトゥルはその知らせを聞いても、何も言わなかった。
ゾクチェン・ポンロポは、翌朝ケンポ・ヨンガの家に到着した。ケンポ・ヨンガはゾクチェン・ポンロポを丁寧に出迎えるために外に出て、彼が馬から降りる手伝いをし、丁寧に家の中へと案内した。
ポンロポは、パトゥルが床の上に敷かれた固い敷布団に寝そべり、まるで毛皮のように見える長い羊毛の糸で作られた厚手の遊牧民用の毛布で顔を覆っているのを見た。
パトゥルは声高に、哀れそうに、
「アー・ホー・ホー! ああ!」
と嘆いた。
ゾクチェン・ポンロポは、
「どうかしたのですか?」
と聞いた。
厚手の毛布の下から、パトゥルの嘆き悲しむ声が聞こえてくる。
「ああ! 苦し過ぎる! ああ! ああ!」
ゾクチェン・ポンロポは叫んだ。
「どうしたのですか?」
「苦しい!」
パトゥルは叫び声をあげた。
「ああ! 助けてくれ!」
「一体、どうしたというのですか!」
ポンロポは叫んだ。
「私は引き裂かれているのだ……五毒に!」
ゾクチェン・ポンロポはくるりと背を向けて、そのまま去って行った。
パトゥルは毛布から顔を出し、爆笑した。