パトゥル・リンポチェの生涯と教え(72)
◎チョイン・ランドルが神秘力を実証する
ある日、説法が終わると、パトゥルとチョイン・ランドルとペマ・ドルジェは一緒に座り、談話を交わしていた。チョイン・ランドルはパトゥルにこう言った。
「ところで、ゾクチェン・ミンギュル・ドルジェは最近どうしているかね?」
パトゥルはチョイン・ランドルに返答した。
チョイン・ランドルは続けてゾクチェン僧院について話し始め、そこの特徴を述べて、またさまざまな寺院の名前を挙げ、そこで暮らす善き人々や悪しき人々について語り、最後にこう言った。
「ゾクチェン僧院の人々は今、ミンギュル・ナムカイ・ドルジェに対して然るべきやり方で敬意を払っていない。」
話の中で、チョイン・ランドルが何気なく、ミンギュル・ナムカイ・ドルジェが重要な儀式中に、祭壇に向かって、扉のすぐ近くにある法座に座っていたと述べた。そのレイアウトは珍しいものであり、ある僧院の風変りな特徴を示していた。(普通、法座は扉の方を向いており、その後ろに祭壇がある。さらにそれよりも一般的なのは、法座の脇にテーブルがあり、群衆の方を向いている。)
パトゥルは頷いて、こう言った。
「はい、はい、そのとおりです!」
ペマ・ドルジェは考えた。
「チョイン・ランドルは、いつゾクチェン僧院を訪ねたのだろうか? まるでゾクチェン僧院をよく知っているかのようだ。もしかすると、若い頃そこにいたのだろうか?」
ペマ・ドルジェはチョイン・ランドルに尋ねてみた。
「尊きラマよ、あなたはゾクチェン僧院に行かれたことがあるのですか?」
偉大なる師は少しためらい、こう答えた。
「うむ。そこに”行ったことがある”と言ってもいいのかもしれない。」
「どういう経緯で行くことになったのですか?」
「うむ、毎年あなたはゾクチェン僧院で、ツォクチェン・ドゥパという手の込んだ儀式を行なっていたでしょう。そうではないかね? ミンギュル・ナムカイ・ドルジェが玉座に座っているところで、ある人が象牙の小太鼓を叩きながら、『ヴィディヤーダラよ、眷属を引き連れて、おいでください!』と歌っていた。」
「そうです。」
「うむ、そのような吉兆な歓迎に応えて、百の一族の平和の神々と憤怒の神々、曼陀羅の神々、そしてわれわれ古き先人たちは、そこにやって来なければならなくなったのだ! それがわたしがゾクチェン僧院に行った経緯だ。それ以外のことで、わたしはゾクチェン僧院に行ったことがない。」
そのときペマ・ドルジェは、パトゥルと一緒に会いにきたこの偉大なラマが、本当のマハーシッダ(大成就者)、ヴィディヤーダラ(持明者)であることを悟ったのだった。