パトゥル・リンポチェの生涯と教え（５４）

◎パトゥルが特別な教えを請われる

　アゾム・ドゥクパはパトゥルに、ロンチェン・ニンティクの系統のツァルンとトゥルコルの口頭の教えの伝授を正式に懇願した。

「うむ、そんなものはわたしは知らんよ。」

　パトゥルは曖昧にそう答えた。
　そして、考え込んだようにして、「その教えを、知っておることは知っておるけどな」と曖昧に言った。

「でも、ほとんど忘れてしまったわい！」

　そして、ぶっきらぼうにこう付け加えた。

「ふう、まあ、いずれわかるさ。」

　それで会話が終わった。

　次の日パトゥルは、アゾム・ドゥクパの野営地に向かって道を下っていた。アゾム・ドゥクパとその従者たちは、途中でパトゥルに出くわした。皆で一緒に野営地へと降りていき、パトゥルは非常に盛大に仰々しく迎えられた。
　パトゥルは、厚手の柔らかな絨毯が敷かれ、色とりどりの中国絹の錦織に包まれたふかふかの座布団と毛皮が沢山備えられた、豪華絢爛なテントに案内された。
　パトゥルは、これらの豪華絢爛な品々に不審そうな眼差しを投げかけた。
　アゾム・ドゥクパは尊敬に満ちた身振り手振りで、パトゥルを最も高い座に案内した。それは、パトゥル用に設けられた座であった。

「しょうがないな！」

　そう言うが早いか、パトゥルはその場にドスンと座り込んだ。

「初めて見るようなものばかりだ！ 今この瞬間まで、わたしは天界という場所に行ったことがなかった！ ここは『完全解脱の仏国土』に違いない！」

　そしてパトゥルは一瞬沈黙し、考え、こう言った。

「ふさわしい器を持つ幸運な者たちはほとんどいないが、マントラヤーナの教えは広範囲に適用されるものだ。それでもときどき、人々は私にアングラ（袴のようなもの）の意味を聞いてくる。ゲルク派のゲシェーもわたしのところへ来たが、わたしが言いたいことはほとんど話していなかった。
　昔、わたしはハンセン病にかかった。病状は非常に悪かった。だが、ある瞑想修行とあるヨーガの体操をしたら回復した。この小さな白い傷跡を除けば、それまで病にかかっていたということを示すものは完全に消えてしまった。」

　パトゥルはそう言って、眉間を指さした。

「その経験から、わたしはあなたにこの教えを伝授することは、非常に利益があると確信している。」

　パトゥルは、コートの中に手を突っ込み、短い袴のようなものを取り出した。それは、ヨーガの体操のときに着用するためにつくられたアングラであった。

「これはわたしの九本目のアングラだ。」

　パトゥルはそれをアゾム・ドゥクパに見せながら言った。

「今まで八本も履き潰してきた。」

　それから三週間の間、パトゥルはアゾム・ドゥクパにヨーガを教えた。
　パトゥルは、ナーディ、プラーナ、ビンドゥ、トゥモを用いた修行の、ポーズ、動き、呼吸、観想を事細やかにすべて教えたのだった。そしてそれを行なう理由と、ヨーガのさまざまな体操を成し遂げる方法を綿密に指導した
　これらの師と弟子は、伝授が完了するまで、ずっと一緒にヨーガ修行を行なった。このようにして、一人から一人に伝授される、ささやきの系統として知られる流儀のやり方で、このロンチェン・ニンティクに属する叡智が、師から弟子に伝授されたのである。

◎不断の努力

　パトゥルは、ロンチェン・ニンティクのツァ・ルン（気道と風）のヨーガの教えの直接的な指導を、ジグメ・ギャルワイ・ニュグから受けた。また、隠遁ヨーギーのトゥプワン・ロクサと一緒に幅広くヨーガを修行した。そのようにしてパトゥルは、気道と微細なエネルギーを使った修行法をマンツーマンで学んだのである。
　パトゥルはよく、自分の小さな黒いヤクの毛のテントの真ん中に座って、これらのヨーガ修行を行なった。ある特定の修行の間、パトゥルはよく、テントの中心のポールに頭をぶつけた。そのうち、パトゥルが繰り返し頭をぶつけていたポールは、著しく色がくすんだ。――パトゥルの修行における、不断の努力と根気強さの比類のない証である。