パトゥル・リンポチェの生涯と教え（４９）

◎ルントクと盗賊のかしら

　ド・キェンツェー・イェーシェー・ドルジェが、昔の中国との国境近くにあるダルツェドの住処を去り、ゴロクのニェンポ・ユツェの山岳地帯に向かったとき、パトゥルはアリの森で暮らしていた。
　パトゥルは、彼に会いに行くことにした。そしてある晩、弟子のニョシュル・ルントクにこう言った。

「歩いて行こう！」

　彼らはニェンポ・ユツェの山岳地帯に向けて出発し、数日間旅をした。ある日の夕方前、二人は荷物をおろし、テントを張った。パトゥルはルントクにお茶を作るために水をもらってくるように指示し、近くの野営地へと向かわせた。
　パトゥルは彼に、非常に用心して行かなければならないと厳しく警告をした。その地域全体が、恐ろしく危険だと言われており、地元の人々をカモにする悪質な多くの盗賊団の隠れ家であったのだ。
　ルントクは不安になったが、勇気を出して、水を取りに向かった。
　帰ってきたとき、哀れなルントクは、恐怖で震えていた。ルントクはパトゥルに、この近くの野営地は強盗のギャング集団のもので、そのギャングたちは、獰猛な強盗団のかしらに率いられた、荒々しく無鉄砲な流浪者たちであると語った。ルントクがパトゥルに忠告を伝え終えようとしたちょうどそのとき、恐ろしい強盗のかしらが突然、勢いよくパトゥルのテントに入ってきたのだ！ この大柄で恐ろしい姿をした男は、黒いチュバ（羊皮のロングコート）を身にまとい、剃刀のように鋭利な遊牧民の長刀が、剣のようにベルトにささっていた。
　この恐ろしい盗賊は、真っすぐにパトゥルの方へ向かっていき、彼に怒号を浴びせ、罵り、何度か激しく彼を蹴った。
　それからまた突然、踵を返すと、大股ですたすたと歩き出し、夜の闇の中へ消えていった。

「すぐにここを去りましょう！」

　ルントクは叫んだ。

「ここは危険すぎます！」

　パトゥルは笑って、何も言わなかった。

　ちょうどそのとき、旅人の一団がそこを通りかかった。彼らは、あの強盗ギャング団の野営地の方向へ向かっているようだった。ルントクは彼らにギャング団のことを知らせようと考えたが、その前に、彼らの会話が聞こえてきた。彼らは偉大なラマに会おうとしているところで、その幸運にワクワクしきっている様子だったのだ！
　ショックを受けると共に、ルントクは気づいた。あの剃刀のように鋭い遊牧民の長刀を持った盗賊のかしらこそが、師の師匠、偉大なるド・キェンツェーに違いないということに！
　そして言うまでもなく、まさにその通りなのであった。