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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(46)

◎ルントクの母

 パトゥルは、アリ・ナクの人里離れた原生林で、長い年月を瞑想修行に費やした。パトゥルの心の弟子ニョシュル・ルントクもその場所で暮らし、熱心に瞑想修行を行なっていた。
 約七日ごとに、ルントクは自分が暮らす森の場所を出て、師パトゥルが暮らしている場所に行った。師と弟子は、共にお茶を飲んだ。ルントクはパトゥルに自分の瞑想経験を話し、パトゥルはルントクに瞑想の指示と教えを与えた。
 ある日、アリの森にやって来た商人が、偶然パトゥルと出くわした。商人はパトゥルにこう言った。

「ニョシュル・ルントクを探しております。彼を見つけようと、至るところを探し回っておりました。彼の母親から贈り物を預かっております。どうか、私に手を貸していただけないでしょうか?」

「あんた!」

 パトゥルは答えた。

「遥々長い道のりを、わざわざ贈り物をもってきてくれたのだね。だが、ルントクは修行をしに森の中に消えてしまったよ。数日間はここに戻ってこないはずだ。望むなら、ここでルントクを待っているのはあんたの自由だ。待ちたくないなら、ここに贈り物を置いて行ってもいい。」

「いいえ。私は、ルントクに直接渡すと、彼の母親と約束したのです。」

 商人が言った。

「そして、ルントクに伝言を伝えるという約束もしました。私は実際にルントクに会うまでは帰れません。何か良い案はありませんか?」

 パトゥルは一瞬考えた後に、こう言った。

「よし、あんたは、『エー、ルントク! パトゥルが呼んでいるぞ!』と叫びながら森を回ることくらいはできるだろう。
 それが、ルントクを呼び寄せる唯一の方法だ。」

 商人は、パトゥルに言われたとおりのことをした。大声で「キーヒーヒ! ルントク! パトゥルが呼んでいるぞ!」と叫びながら、森の周りを回った。
 遂には、ルントクに彼の声が届いた。予想通りルントクは森から出てきた。商人はルントクに恭しく贈り物を手渡し、預かってきた伝言を伝えた。
 ルントクはパトゥルに、この商人に何か霊性の助言と守護紐を与えてくださるようにお願いし、また商人とルントクの母のために、何か聖化された物を与えてくださるようお願いした。またルントクは、自分の母への伝言を商人に伝えた。

 パトゥルはルントクにこう言った。

「お前の母親に贈るようなものを、われわれは持っていたか?」

 ルントクは周りを見渡したが、ツァンパの入ったカバンとお茶以外何もなかった。
 
 パトゥルは少し考えて、こう言った。

「そういえばこの間、誰かが何か高価なものを私に捧げようとしたが、私は受け取らなかった。それを洞窟の中に置いてきたのだが、ちょっとそこへ行って、まだそれが残っているかどうか見てきてくれ。それだったら、お前の母親に贈ることができるだろう。」

 ルントクと商人は、施物が残されている可能性のある洞窟へと向かった。その洞窟の中の湿った苔の上に、良質の中国製の絹の織物が一巻と、光り輝く銀塊が一つあった。絹の織物は湿気で駄目になっており、すでに腐敗し始めていた。ルントクは銀塊を拾い上げて商人に渡し、それを贈り物として母親のもとに持ち帰るように言った。

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