パトゥル・リンポチェの生涯と教え(38)
◎寝床に座るだけで
あるとき、博学なゲシェーが、中央チベットからダチュカのセルチュー僧院まで遥々やってきた。彼は、ジェ・ツォンカパが記した、十四行の詩で悟りの段階的な道を説いた、影響力の強い経典である「道における三つの主要な様相」の教えを大々的に説こうとしていた。
パトゥルは、そのゲシェーの教えを聞きに行き、控えめに後方の扉の隣に小さなヤクの毛皮のマットをひいて、その上に座った。
講話が終わると、パトゥルは立ち上がってその小さなマットを丸め、外に出た。ある人が、パトゥルがこう言っているのを耳にした。
「私は寝床に座るだけで、それと同等の結論に達した!」
つまり、そのゲシェーが学問的な勉強を何年もして理解したことを、パトゥルは自分の寝床に座って瞑想することで理解した、ということである。
◎トゥルク・チョージュク・ルントク
かつてパトゥルは、ダチュカの下方にあるオンポを訪れたとき、遊牧民一家のテントに泊まった。トゥルク・ルントクという名のゲルク派のラマがパトゥルに会いに来て、入菩提行論の教えを説いてくれるように懇願した。
パトゥルはこう言って、難色を示した。
「私はそれを説けるような人間ではありませんし、あなたはそれを受け取ることができるような人間ではありません!」
どうやら教えの懇願が拒否されたようだと分かると、そのラマは立ち上がり、去ろうとした。
「あなたはきっと、心をつくり上げるのに時間をかけていないようだ。」
パトゥルはそのように意見を述べた。
しかしちょうどそのとき、一人の女が、温かい甘いミルクがなみなみと入ったコップを二つ、供物として持ってやって来た。
これを吉兆と考えたパトゥルは、気持ちを和らげてこう言った。
「いいでしょう、いいでしょう。教えましょう。」
こうしてパトゥルはそのラマに、入菩提行論の広大な教えを授けたのだった。
入菩提行論は、チベットでは「チョージュク」という名で知られていた。このラマはその後、その偉大なる経典を頻繁に説き続けたので、遂にはトゥルク・チョージュク・ルントクという名で知られるようになった。