パトゥル・リンポチェの生涯と教え(29)
◎シュリーシンハ大学での説法会
パトゥル・リンポチェは、シャーンティデーヴァの入菩提行論を説くために、シュリーシンハ哲学大学へと向かっており、それと時を同じくして、ある僧の一団が、その説法会に参加するために、シュリーシンハ哲学大学に向かっている途中であった。その僧の一団は、その大学からそう遠くない草原で、あるラマと出会った。
そのラマは、遊牧民のように羊の皮のチュバ(チベット民族の伝統的なコート)を着て、小さなたき火のそばで、座ってお茶を入れていた。
僧たちは彼に尋ねた。
「パトゥル・リンポチェはもう到着されているかご存知ですか?」
「ああ、すでに着いておるよ! シュリーシンハで教えを説くらしいな!」
そのラマは答えた。
「だが、一体全体、そいつの教えを聞きに行って何になるってんだい? そのパトゥルとかいうやつは、ただのおしゃべりに過ぎないさ! 正直言って、あいつは大ぼら吹きだよ!」
まるで霊感を受けたかのように、そのみすぼらしい放浪ラマは、偉大なる師パトゥル・リンポチェの悪口を、延々と、非常に独創的に、もの凄い勢いでしゃべり続けた。
それらの侮辱の言葉を聞いて、僧たちは激怒した。
「お黙りなさい、サマヤの破壊者め!」
彼らは大声で叫んだ。
「さもなくば、お前を叩きのめすぞ!」
すると、みすぼらしい放浪ラマは、悪口雑言をやめ、再びお茶を作り始めた。僧の一団は去り、そのすぐ近くで野営した。翌朝、彼らは大学へと向かい、再び、あのみすぼらしい放浪ラマに出くわした。放浪ラマは親しみを込めて彼らに挨拶し、こう言った。
「よし、一緒にシュリーシンハ大学に行こう! 聞いた話によるとな、少なくとも一番最初のクラスでは、お茶が振る舞われるらしいぞ!」
僧たちはさらに激怒し、放浪ラマと口を聞かなかった。彼らは放浪ラマを置いて大学へ行き、集まりの中に入っていって、席を取った。
すぐに、偉大なる師パトゥル・リンポチェが到着したという知らせが入った。聴衆たちは全員、敬意を表わすために立ち上がり、厳かに、耳に心地よい声で、入菩提行論を称える詩を歌った。
その著名な師が、玉座に座って教えを説き始めようとしたとき、僧たちはゾッとした。彼らがここに来るまでに出会い、「叩きのめすぞ」などと脅迫してしまった、あの羊の皮をまとったみすぼらいいラマこそが、偉大なる師パトゥル・リンポチェであったということに気づいたのだ!
パトゥルは、こう言って講義を始めた。
「昨晩、怒り狂った僧の一団と出会ってな。どこにおるかな? 名乗り出て、最前列に座ってほしいのだが!」
恥じ入りながら、彼らは言われた通りにした。
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