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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(17)

◎幽霊の出る要塞

 深い岩の峡谷に激流の川が流れているカム地方のニャトンには、恐ろしい幽霊が出る要塞があった。そこでは、昼間でも幽霊の叫び声が聞こえてくるのだった。そこに近づこうとする者は誰もいなかった。その要塞の影に触れただけで、人々は気分が悪くなってしまうのだった。

 ある日パトゥルは、入菩提行論の教えを説き終わると、「もし誰かがニャトンの幽霊が出る要塞でこの経典を百回説いたら、悪霊は黙り込み、もう今度は危害を加えなくなるだろう」と予言した。

 パトゥルの近しい弟子の一人、ツァンヤク・シェーラブは、ただちにその挑戦を志願した。これを聞くと、地元の村人たちは大変気の毒に感じ、首を振って、ツァンヤク・シェラブは確実に死ぬ運命にあるのだから、もう二度と彼にお会いすることはないだろうと思い、悲しんだ。

 ツァンヤク・シェーラブは、幽霊の出る要塞に着くと、広い部屋を選び、その床にマットをひいた。そして、慈悲と菩提心を生じさせ、「目に見えない聴衆たち」に向かって声に出して、入菩提行論の全十章をすべて説いた。

 その夜は、何も起きなかった。そのようにして、来る日も来る日も、ツァンヤク・シェーラブは教えを説き続けた。近隣の村人たちが、遠くで、シェーラブがお茶のためのお湯を沸かしている火から煙があがっているのを見て、驚いた。

「彼はまだ死んでいないようだ!」

 しばらく後に、村で一番の勇敢な男が、決心して幽霊の出る要塞に行き、何が起こっているのかを自分の眼で確かめてくることにした。

 そこで彼は、ツァンヤク・シェーラブがまだそこにいて、楽しそうに入菩提行論を説いているのを目にした。彼はまだ、「目に見えない聴衆たち」に向かって、教えを説いていたのだ。

 勇敢な村人は、村に戻り、自分が見たことを皆に伝えた。村人たちは自分たちもその教えを聞こうと考え、要塞へと向かった。日に日に、その要塞の聴衆は増えていった。ツァンヤク・シェーラブが百回説き終わる頃には、村人全員がその要塞の中で座って、この上ない信仰心を抱きながら彼の教えを聴いていたのだった。

 それ以来、パトゥルが予言したように、ニャトンの要塞では、何もトラブルは起きなくなったそうである。

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