ハリダース・タクル(5)
◎プリヤにて――フセイン・シャーによる迫害
その後しばらくしてハリダースは、シャーンティプルの近くにあるプリヤへと行きました。
プリヤのガンガーの岸は、ハリダースのナーマ・キールタンによって活気づき、鼓舞されました。
プリヤのブラーフマナたちは、彼が偉大なるヴィシュヌ派信者であると気づき、心ひそかに、相応しい高い地位を彼に与えました。
彼の名声は、あまねく広がっていきました。
人々が遠くから、彼に会うためにやってきました。
カジのゴーライは、これが我慢なりませんでした。彼らはハリダースを逮捕してしまったのです。
ゴーライは、バダシャー・フセイン・シャーの宮廷に彼を連れて行き、悲しげにこう言いました。
「ハリダースはイスラム教徒であるのに、ヒンドゥー教徒のように振る舞っております。
これはイスラム教徒に悪影響を与えるでしょう。」
バダシャー・フセイン・シャーはこう言いました。
「ハリダースよ! 君はイスラム教徒だ。
君はイスラム教徒のように生き、イスラムの宗教を行うべきである。
ハリの御名を放棄しなさい、さもなくば、死ぬことになるぞ。」
ハリダースは、それに背いたらどうなるか分かっていましたが、恐れることなくこう言いました。
「体をバラバラに切り刻まれようとも、ハリの御名は捨てません。」
バダシャーは、彼を投獄しました。
するとハリダースは牢屋の中で、ハリの御名を他の囚人に広め始めました。
これは、バダシャーをさらに怒らせました。
彼はこう命じました。
「こやつを22の市場へ連れて行って、死ぬまで鞭打ちにするのだ。」
警官たちは彼を市場へと連れて行き、体中に残酷な鞭打ちをしました。
しかし主の慈悲によって、彼は死なず、体に鞭打ち傷がつくこともありませんでした。
警官たちは、さらに強く、思いっきり力を込めて、鞭を打ちつけました。
ハリダースは、叫びも抗議もせず、ずっと静かに落ち着いて、ハリの御名を唱え続けていました。
鞭打ちの威力が強まるごとに、彼の詠唱の声は大きくなっていきました。
そしてハリダースに鞭打ちをしながら22の市場を通過し終わると、警官たちはくたくたになりました。
しかしハリダースは死んでおらず、それどころか、痛みや疲労の兆候は何も見られなかったのでした。
警官たちは、ハリダースはリシか、桁外れの聖者であると思い、自分たちは彼を鞭打ちにしたことで、神によって罰されると考え始めました。
そしてまた、ハリダースを殺せなかったことで、バダシャー・フセイン・シャーは自分たちを処刑するかもしれないと恐れました。
それゆえに、彼らは手を合わせて、ハリダースにこう言いました。
「タクルよ! われわれはあなたにここまでして殺そうとしたのに、あなたは死にませんでした。
われわれはあなたを殺せなかったために、バダシャーのお怒りを買って、処刑されるでしょう。
どうかどうか、われわれをお守りください。」
ハリダースは彼らを哀れみ、キールタンをやめて、クリシュナを瞑想し、サマーディに入りました。
すると警官たちは、ハリダースが死んだのだと思い、彼をガンガーに投げ捨てたのでした。
彼は川に流され、少し離れた場所の岸に打ち上げられました。
そしてサマーディから目覚めると、彼は起き上がり、両手を挙げてハリの御名を唱え始め、岸辺を自由に動き回りました。
この試練を乗り越えた後に、マハープルシャとしてのハリダースの名声は、より一層広がっていきました。
彼の理想に鼓舞されて、さらに多くの人々がハリの御名に帰依し始めたのです。
そしてバダシャー・フセイン・シャーも、ハリダースに非常に感化されたといわれています。
彼はハリダースを処刑しようとしたことを後悔し、ハリダースのところへ行って許しを乞いました。
誰をも怒ることができないハリダースは、彼とその従者たちのことを前々から心配していました。
そしてこう言って主に祈ったのでした。
「主よ! 彼らがやったことに対して怒らないでください。彼らは無智なのです。」
ハリダースがプリヤで住んでいた洞窟には、大蛇が住みついていました。
ゆえに、誰もその洞窟にはあえて入ってきませんでした。
人々はハリダースにそこから出るように言いましたが、彼はそこでバジャンを行ない続けました。
彼らが洞窟から出るようにしつこく要求してくるので、彼はこう言いました。
「いいでしょう。明日蛇がここを出て行かなかったら、わたしが出て行きましょう。」
そして次の日、彼が何人かの信者たちとキールタンを歌っていると、蛇がのろのろとその洞窟から這い出てきて、どこかに行ってしまったのでした。
そのしばらく後に、アドワイタ・アーチャリヤは、ナヴァディープでヴィシュヌ派の集会を開き始めました。
ハリダースもそこにいて、それに参加しました。
そしてマハープラブ(チャイタニヤ)がシュリーヴァスの家でサンキールタンを始めると、彼はそのサンキールタンの重要なメンバーの一人となったのでした。