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ジャータカ・マーラー(11)「慈悲に満ちたインドラ神」

 ジャータカ・マーラー 第11話「慈悲に満ちたインドラ神」

 世尊がまだ菩薩だった頃、永い間にわたって功徳を積みつづけ、布施・自制・戒・慈悲が本性となり、常に利他行を行ない続け、あるときインドラ神として生まれました。

 その結果、天の世界はより盛んな威光を伴って輝きました。そして菩薩は、天の神が持つような慢心を持つこともありませんでした。

 このような素晴らしい威光を放つインドラ神を恐れ、阿修羅たちは、光り輝く軍勢によって、彼に戦いを挑んできました。

 衆生に恐怖を与える高慢な阿修羅たちを倒すため、彼はまさに戦いに向かおうとしました。
 彼は千頭の立派な馬にひかれた黄金の馬車に乗り、神々の大群とともに、かの阿修羅の軍勢を、天の海の岸辺で迎え撃ちました。

 そしてついに、互いに武器で切り合い打ち合う、天(デーヴァ)と阿修羅(アスラ)の戦いが始まったのでした。
 しかし阿修羅の軍勢の力のほうが強く、神々の軍勢は劣勢を強いられ、ついに恐れて逃走しました。
 そしてインドラ神だけが、一人戦場にとどまり、戦いを続けていました。

 インドラ神の御者のマータリは、阿修羅の軍勢が勝機とばかりに歓喜して襲い掛かってくるのを見て、そして味方の軍勢はもっぱら逃走しているのを見て、いまや退却の時期が来たと判断して、インドラ神の乗る馬車の向きを変えました。そうして天の宮殿へと引き返そうとした時、インドラ神は、道の両側に生えている樹の枝に、多くのガルダ鳥の巣があるのを見つけました。それを見るとインドラ神は、慈悲の思いに心をつかまれ、御者マータリに言いました。

「このまま進むと、馬車があのガルダ鳥の巣にぶつかってしまう。あの巣の中には、まだ羽の生えていないひな鳥も多く住んでいる。ひな鳥たちが巣から落ちて馬車につぶされてしまわないように、ゆっくりと馬車を進めなさい。」

 しかしマータリは言いました。
「でもそんなことをしていたら、あの阿修羅の軍勢に追いつかれてしまいますよ。」

 インドラ神は答えて言いました。
「それがどうしたというのだ。いいから、ガルダ鳥の巣にぶつからないように進みなさい。」

 そこでマータリは、こう提案しました。
「蓮華のような眼を持つ王よ。それならば、宮殿に帰るのはやめて、馬車を阿修羅軍のほうに引き返しましょう。それによって我々は阿修羅軍にやられてしまうでしょうが、あのガルダ鳥たちは完全に助かるでしょう。」

 そのときインドラ神は、殊勝なる慈悲心と勇気をあらわして、こう言いました。
「それでは馬車を引き返せ。私は恐怖と憂いに苦しんでいるあの鳥たちを殺して自分の生命を長らえさせるよりは、阿修羅王のふるう恐るべき棍棒に打たれて死んだ方がましだ。」

 そこでマータリは「かしこまりました」と答えて、インドラ神の馬車の方向を変え、阿修羅の軍勢が襲ってくる方向へ向って走り出しました。

 明らかに勝ち目がないはずなのに、インドラ神がただ一人で歓喜に満ちて引き返してきたのを見たとき、阿修羅の軍勢は、インドラ神には自分たちを殺す策が何かあるのだと錯覚し、恐怖して逃げ去ってしまいました。

 阿修羅軍が退却したのを知って、一度は逃げた天の軍勢もみな戻ってきて、インドラ神の勝利をたたえました。

 このように実に、「ダルマはダルマを守る者を守る」ということを知るべきです。

 悪人は慈悲の心なく悪事をなし、
 中位の者は、慈悲の心を少しは持っていても、自分が苦難にあうと悪事をなします。
 しかし真の善人は、たとえ自分の命が尽きようとも、ダルマを捨てることはないのです。

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