シャブカルの生涯(26)
その後、わたしは家に戻りました。母と、いつも親切にしてくれた親戚のトプサン・ベンデに感謝の気持ちを伝え、彼らそれぞれのために“都市を解放する車輪”として知られている“接触において解放する車輪”を描き、彼らの首の周りにかけました。この後、わたしはドビ僧院へ行き、長衣を作ってもらいました。
【注】“都市を解放する車輪”とは、衆生、特にチベット人の苦しみを見て涙したアティーシャがダーキニーから描くよう指示されたチャクラ(車輪)。そのチャクラの中心にはアティーシャがいて、彼の周りにマントラが描かれていて、それは輪廻の低い世界への転生から解放すると言われています。シャブカルはそのようなチャクラを描いたり、小さな文字を書いたり、縮小して描くことで有名でした。
その当時、わたしの髪の毛の長さは三フィート(約一メートル)ありました。隠遁所の僧の一人が切れ味の良い羊毛を刈り取るためのナイフを手に持ち、わたしをからかって、こう言いました。
「おっ、ショホン出身の素晴らしい羊がやってきた。彼はもう毛を刈り取られる準備ができてるみたいだぞ!」
周りのみんなは笑い出しました。
その夜、わたしは高くそびえる山を登っているときに、道を塞ぐ大きな岩に出会う夢を見ました。ある男がそれを取り除き、そしてわたしが頂上に到着すると、太陽が昇ってきました。その頂上にある隠遁所の中で、わたしはアティーシャの像を見つめました。
雌の鉄の鳥の年の第五番目の月の吉兆な上弦の月の第八日目の朝、わたしは出家の受戒を受けました。博識、純粋さ、高潔な心といった三つの徳を授けられた者、教えという馬車の最高の指導者、ヴィナヤ(律)の偉大なる保持者、アーリヤ・ナーガールジュナの化身、アリク・ゲシェ・リンポチェ、わたしには恐れおおくてその名前を口に出しがたいお方――ジャムペル・ゲレク・ギャルチェン・パル・サンポ――が中心的な僧院長を務めました。彼は教えの最高の指導者、僧院長補佐を務め、秘密の質問を行なうギャル・ケンチェン・ゲドゥン・テンパイ・ニマ・リンポチェによって補佐されていました。
【注】秘密の質問とは、完全な出家の受戒を受ける前にその予定者に対して行われ、両親の許可を得ているかなど、誓いを守ることに対して考えられる障害に関係するもの。
伝統的な手続きにしたがって、ラカ・トゥルクや他の者たちとともに必要な人数の僧たちのなかで、わたしは見習い出家者の誓いと完全な出家の誓いを順番に受け取りました。
わたしはジャムパ・チューダル、“ダルマを広める優しき者”という名前を受け取りました。僧院長はとても嬉しそうな顔をしながら、こうおっしゃりました。
「衆生とダルマのために利益をなすだろう。」
集まった人びとみんなのリクエストに応じて、僧院長はクンリク、“全智者”のアビシェーカと“至福の道”の伝達も授けました。
「ちょうど大地が生命体と非生命体の両方を支えるように、戒はあらゆる良い資質の支えなのです。」
このような話を聞き、わたしは貴重な僧院の訓練はあらゆる善と徳の土台であると理解し、正午以降は食事を取らず、僧院では靴を脱ぎ、祝福された水を飲むといったヴィナヤ(律)に従って行動しました。
わたしは帰宅途中に、わたしの親類の一人、ルモヤに偶然出会いました。彼女は他者に対する好き嫌いがはっきりしていて、噂話に詳しい女性でした。以前、彼女はわたしのことをとても気に入っていました。わたしだとは気づかずに、彼女はこう呼びかけました。
「あんたは誰だい?」
「わたしはンガワン・タシです。」
と、わたしは答えました。
「アイ! お前はなんて酷いことをしてくれたんだい!」
彼女は叫びました。
「これでお前の父のンガワン・ツェワンの血統は途絶えてしまうようだね! お前は人と呼ぶにも値しない奴だ! 将来、ひとびとがお前の貧しく年老いた母がすべてを奪われるのを目にするとき、お前は悪名高い例えにされるだろう!」
それに応えて、わたしはこのような詩を歌いました。
「愛すべき祖母よ、聞いてください。
今日あなたが語った言葉は間違っていなかったですか?
邪悪なものをすべて放棄して、
今わたしは善へと向かっています。
何の満足もない輪廻にとどまること――
欲望を抱き、輪廻に執着すること、
今やそれは邪悪そのものなのです!
故郷という監獄に落ちること――
人を輪廻に結びつける父母や妻にとらわれること、
今やそれは邪悪そのものなのです!
ただ家族に食物や衣服を与えるためだけに
あらゆる悪行に手を染めること、
今やそれは邪悪そのものなのです!
人の命はすぐに終わる。
ダルマを持たずに来世へ旅立つこと、
今やそれは邪悪そのものなのです!
次の転生を迎えるとき、
否定的なカルマの衝動的な力が
人を三悪趣に投げ込むのです。
今やそれは邪悪そのものなのです!
在俗信徒のぼろ切れを投げ捨てて、
美しく素晴らしいサフラン色の衣をわが身にまとう。
無駄な会話をすべて放棄したので
わたしの言葉は優れたままであり
祈りとマントラを唱えるのです。
悪しき考えをすべて投げ捨てたので
わたしの心は優れたままであり
純粋な認識を抱くのです。
燃える炭火の穴から抜け出すように
わたしは世俗の家庭から抜け出して
無住居という涼しい館を受け継ぐのです。
これがわたしの行いの素晴らしさです。
今生で幸せに暮らし、来生を迎えるとき、
わたしはずっと高い世界へ上がるでしょう。
これがわたしの経歴の素晴らしさです。」
彼女はこう答えました。
「ああ、お前はまったく正しく前へと進み、その衣をまとってるようだね。わたしゃ、年老いた祖母で、この世界に望みもないが、もしあと数年生きられたら、お前がどうなったか見てみたいものだ。わたしゃ、ダルマを実践していた優れた者たちを多く見てきた。その究極の点へ到達することは、そう容易いことではない。そうか、それなら、全力を尽くしなさい! オーム・マニ・パドメー・フーム……」
そう言って、彼女はマニをぶつぶつ唱えながら、去っていきました。そのときは彼女の言葉はあまり快く思いませんでしたが、あとになってそれらがわたしを助けてくれたことに気づきました。他の信仰深い老人たちは、わたしを見かけると、こう大声で言いました。
「幸運児よ!」
そしてわたしが家に着くと、母と妹が大いに喜んでくれました。
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