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グル・パンチャーシカー

◎グル・パンチャーシカー

【本文】
 次に、ヴァジュラヤーナのサマヤ戒という荷を負うことが可能ならば、「グル・パンチャーシカー」を学んだ後、グルへの諸々の師事の仕方を正しくして、マントラヤーナに入るべきである。

 このヴァジュラヤーナっていう、また新たな言葉が出てきましたが、これも密教という意味と考えていいと思います。密教を表わす言葉っていろんな言葉があるんだね。このヴァジュラヤーナのヴァジュラっていうのは、みなさんよく知っている法具のヴァジュラでもあるんだけど、これはダイヤモンドとか、あるいは「壊れない」という意味なんだね。全く壊れない、完全なるもの。つまりヴァジュラヤーナっていうのは、壊れない乗り物っていう意味です。完璧な、壊れない乗り物。

 サマヤ戒っていうのは、これは密教の戒律のことですね。つまりもうちょっと簡単な言い方をすると、しっかりと密教の戒律を守る覚悟があるならば、そして密教の道を歩む覚悟があるならば、『グル・パンチャーシカー』を学んだ後――『グル・パンチャーシカー』っていうのは、グルに対する、師匠に対する心構えとか接し方とかを書いた伝統的な経典があるんですね。だから本格的な密教の道に入る者は、まず最初にこの『グル・パンチャーシカー』を学ぶっていうことになってる。

 『グル・パンチャーシカー』っていう師匠への考え方や接し方を書いた経典をしっかり学んだ後、実際にグルへの師事の仕方を正しくし、マントラヤーナに入るべきであると。まあこれはこのままだね。

◎サマヤ戒

 ここでちょっと今日の最後に、ここで出てきたサマヤ戒――このサマヤ戒っていうのは、大ざっぱに言うとね、これは密教の戒なんだけど、大ざっぱに言うと、秘密を守るっていうことです。密教っていうのはこの言葉どおり、秘密の教え。

 何で秘密なのかっていうと、これはまあいろんな意味がある。

 一般的な意味としては、さっき言ったように、密教っていうのはオーソドックスな誰にでも通じる教えじゃなくて、師匠と弟子の一対一の教えなんだね、究極的にいうと。つまり師匠が弟子のいろんなものを見て、全然違うやり方で引っ張っていく。中にはですよ、中には一般的には常識はずれなことをやることもある。あるいは、一般的な仏教の教えに反することをやることもある。それはいろいろあるんだね。

 例えば分かりやすい例でいうと、そうですね、酒。普通は仏教では、もちろん酒は飲むなといってる。何で酒を飲んじゃいけないのかというと、当然酒によって意識が散漫になる。瞑想っていうのは集中してなきゃいけないんだけど、酒によって一点集中の力が弱まる。あるいは現代的にいうと脳細胞がたくさん破壊されるっていうけど、無智のカルマが非常に強まる。あるいはその人にまだ悪いカルマがいっぱいある場合、悪いカルマが解放されて、その心の中に悪い要素が逆にいっぱい増えてしまう。だから酒なんて飲んでもいいことは全くないと。

 だから酒は駄目だっていわれるわけだけど、ここにある弟子がいて、この弟子は――例えばミラレーパなんかまさにそうなんだけど、ミラレーパって面白い人で、ミラレーパってマルパのもとでいろいろいじめられてカルマ落とされて、その後、瞑想修行に入って、で、洞窟の中でひたすら瞑想するんだね。そのときに、すごくストイックな人だから、「もう絶対わたしは村とかに行くと人恋しくなっちゃうから、もう決して食べ物がなくなったとしてもこの山から下りない」って誓いを立てて瞑想をずっと続ける。で、本当に食べ物がなくなっちゃったんで、その辺に生えてる、イラクサっていわれますけど、食用に適さない草をむしゃむしゃ食って、何とか命をながらえながら修行をしていた。

 で、ミラレーパはもうほとんど完成直前だったんです。ほとんどカルマが浄化され、ほとんど智慧の悟りの開ける一歩手前まで来てた。しかし、どうしても最後の一歩が至れなかった。なぜかというと簡単な問題で、エネルギー不足だったんです。つまりそのあまりに少ない食事、そしてひどく体を痛めつける苦行の連続で、エネルギー不足になってた。そこにちょうど、カルマだけども、ミラレーパの妹と、あと昔の婚約者が、ミラレーパを見つけてやってきた。で、その二人がミラレーパに肉とお酒を供養したんだね。ミラレーパはそれをもらって、肉を食べ、酒を飲んだ。ここで、準備OKだけどエネルギー不足だった体に、ピピピピッてエネルギーが充満された。

 ミラレーパほどのレベルになると、ちょっとぐらい酒飲んだって、さっき言ったような意識が散漫になったりはしない。そんなものはコントロールできるぐらいのレベルにある。で、その酒が入ったことによって――酒っていうのはつまり熱エネルギーを増大させる。酒の熱の力と肉の熱の力によって、全くゼロだったトゥモの、熱のヨーガの機関のエネルギーにボッと熱が生じ、それが一気に体中を浄化して悟りを得たんです。

 これは仏陀や神の祝福によって自然にそうなったんだけど、仮にね、例えば師匠がそばにいたとしたら、そこで、「お、ミラレーパ。おまえ、酒飲め」って言うかもしれない。「え? 仏教では酒は駄目っていわれてますよね」と。でもこのシチュエーションで、このミラレーパに限っては酒飲んだ方がいいっていうのがあるんだね。

 あるいはさっきの、じゃあケーキの問題をまた取り出すよ(笑)。例えばMさんが、「あっ!」ってケーキを見つけてしまった。そこでわたしがMさんのカルマを読んで、ここで食うなって言ったら、一日中Mさんはケーキで頭がいっぱいだなって思ったら、「食え」って言う。でもそうじゃなくて、例えばTさんがやってきて、同じように「ああ、ケーキだ」。わたしがピピーッてTさんを見て、ここは食わせない方がいいなと。Tさんはたぶん家に帰ればすっかりケーキのことを忘れて修行に励むだろうなと。で、そこでわたしは「食うな」って言う。そうするとTさんはそれを見て、「先生、Mさんにばっかりひいきして(笑)、わたしのことはいつも……わたしのことは嫌いなんですね」と(笑)。

(一同笑)

 
 こうなってしまうと、ガラガラって崩れてしまう。で、そこでわたしはなだめるために、「ああ、分かった、分かった。じゃあ食いな、食いな。」――こうなると、わたしがもくろんでいたことがすべて崩れてしまう。よって、信頼が必要なんだね。

 例えばわたしがそこでパッと見る。Tさんに食うなって言ったときに、「え? Mさんばっかりひいきしてるのかしら」っていうことを一瞬も思っちゃいけない。「あ、完璧だ」と。「わたしには、今食べないことが、わたしの修行にとって百パーセントいいことなんだな」って思えるかどうかなんだね。

 で、まあケーキなんてどうでもいいことだけど、さっきの酒とかね、つまり一般的にはそれ駄目だよっていってるようなことも、やらせる場合がある。場合によってはね。あるいは一般的には普通はこういうふうに導くんじゃない?っていうところを、全然違うやり方で導くこともある。それを例えば他の人が見てしまったり知ってしまうと、例えば教えに疑念を持ったりとか、あるいは理解できなくて批判をしたり、あるいは実際にその人にいろいろ言って――例えばね、今のケーキの例でいうと、Tさんが自分でそれをちゃんと信仰によって理解してね、「先生は、よく分からないけど、わたしにはケーキを今食べさせないことが先生の愛なんだ」って思ってたとするよ。そうするとそこにまた別の人が近づいてきて、話を聞いて、「え? それ絶対ひいきだよ」と(笑)。ね(笑)。

(一同笑)

 「それ、言った方がいいよ!」って言ったりすると(笑)、

(一同笑)

 そうすると、そこでTさんの信がまた崩れてしまう。だからそれは秘密にしとかなきゃいけない。だから一つは秘密の道っていう意味があるんだね。

◎結界を作る

 これはまあ一般的な意味なんだけど、もうちょっと深い意味では、結界を作るっていう意味があるんだね。結界っていうのは、エネルギー的な守られた空間を作っちゃうんです。

 だからその内容自体は別に秘密にしてもしなくてもいいようなことなんだけど、例えばですよ、マントラがあるとしてね。例えば、ここでも教えているヴァジュラサットヴァのマントラがあるとして、ヴァジュラサットヴァなんて現代ではいろんな本に載ってます。だから、別に例えばわたしが「これ、ヴァジュラサットヴァです」ってこうみんなに伝授して、それをみなさんが、家族とか友達とかに「これ、ヴァジュラサットヴァっていうんだって」って見せたとしても、本来はあまり意味がないはず。影響がないはず。だってそこら中の本に載ってるから。秘密も何もない。

 しかし秘密にした方がいいんです。つまり師と弟子、あるいはこの弟子のグループの中でだけの秘密にすることによって、結界――つまりエネルギーの壁みたいなのができるんだね。で、守られるんです。その中だけでちょっと特殊な空間ができるんだね。そこでこう進んでくっていう世界があるんですね。だからこれはちょっと深い意味。

 だからもう一回言うけど、浅い意味としては、いろんな深いやり方があるんで、それを理解できない人にそれが漏れた場合、いろいろ邪魔されたり批判されたりして、ちょっとあまりよくない、っていうのが浅い意味だね。

 で、深い意味としては、エネルギー的な壁を作らなきゃいけないので、あまりそれが現実的には漏れたからってあまり大したことがない話でも、漏らしちゃいけないっていうことですね。それが大ざっぱなサマヤ戒。密教の戒。

 そうではなくて、細かい密教の戒がいろいろあります。それがちょっと今日渡した紙の最後の方にあるこの「十四の密教の戒律」っていうやつね。これね、実は昔、勉強会でやったんですね。二回くらいに分けてやったんで。それは、そのうちそれもテープ起こしして、何らかの形で本になると思うんで、細かくはもうやりません。やりませんが、ちょっとザーッと読んでみましょうね。

 これね、ちょっとこう前半、五番目までなんかこう解説があって、六番目以降解説がないんだけど、これは前インターネットに載せたときのやつなんで、五番目まで解説を書いて六番目以降解説書いてないんだけど、まあこれはこれでさっきも言ったように、勉強会で詳しく解説した内容が残ってるんで、それは後に勉強してもらうこととして、ちょっと表面的な部分だけね、バーッと学んでみましょう。

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