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クリシュナ物語の要約(8)「二人の神霊の救済」


クリシュナ物語の要約(8)「二人の神霊の救済」

(8)「二人の神霊の救済」

 ヤショーダーは、いたずらをしたクリシュナを紐で縛って木の臼に縛りつけると、忙しい家事に戻りました。クリシュナはふと、二本のアルジュナの樹の存在に気付きました。それは普通の樹ではなく、ナラクーバラとマニグリーヴァという神霊だったのです。

 この二人は偉大な富の神・クベーラ神の息子ですが、次第に傲慢となり、ある時、天の森の中で、女神たちとともに、酒を飲んで酔っ払って、素っ裸になってうかれていたのでした。
 そのときそこに神仙ナーラダがやってきて、その光景を見たのです。女神たちはナーラダを恐れ、また恥ずかしく思い、あわてて衣を身につけました。しかし二人の神霊はナーラダが来ても服を着ようとせず、裸のまま立っていたのです。
 クベーラの息子たちが富のためにこのように傲慢になっているのを見て、ナーラダは、彼らへの慈悲によって、このように言いました。

「ラジャスのグナの産物の中では、財産からくるおごりほどに、良識と判断力を失わせるものはない。なぜなら財産を誇ることは、常に女性と賭博、飲酒に関係するからなのだ。
 財産を誇ることで、人は死すべき身体を、老いも死にもしないと考え、慈悲もなくなり、心も制御できなくなり、他の生き物に害を加えるようになるのだ。
 たとえ今神として生きていようと、いずれは死ぬ定めにあるのである。そのような儚き肉体のために、自分の身の破滅につながる悪業を行なう者は、ことの重大性がわかっているのだろうか?
 富へのおごりで盲目となった者には、貧困こそが最良の目薬となってくれるだろう。なぜなら、貧しき者だけが、生き物はすべて同じであるとみなせるからだ。
 自分の足にとげが刺さったことのある者は、決して他の者にそんな苦しみを味あわせはしないだろう。なぜなら、苦しみを避け、喜びを求めるという点において、生き物はすべて同じであると、彼は悟るからなのである。しかしとげが刺さったことのない愚か者は、決してそうは思えないのである。
 貧しき者は、いかなる自負心も持たず、自己中心性からくる頑固さも持っていない。彼が神の意によりこの世で味わう試練は、彼にとって最高の苦行となってくれよう。
 常に空腹に苦しむ貧しき者の感覚器官は、ただちに力を弱めて行き、他者への暴力もおのずとしずまるのである。
 すべてを平等に眺める聖者は、貧しき者との交際だけを求めて、彼のもとにやってくるのだ。そして貧しき者は、そんな聖者と交際によって、すべての渇愛を捨てて、速やかに浄化に至ることができるのだ。
 平安で静まった心を持つ聖者たちが、富に愛着して傲慢となり、悪人と交際する、そのような者にどうして関心を抱くであろうか?
 それゆえ私は、酒を飲み、富へのおごりで盲目となり、女性の奴隷となったお前たちから、無智ゆえに生じた自尊心を、ただちに取り去るであろう。
 お前たちは偉大なクベーラ神の息子ではあるが、非常な思いあがりを抱き、裸でいることも気づかぬほどに無智になったのだ。それゆえ私は、わが慈悲によって、お前たちを樹の姿に変えて、いつも裸で、どこにも行けないようにしてしまおう。そして罪の意識を感じるように、そのような状態にあっても、自分という意識が残るようにしておこう。
 やがて神々の世界の時間で百年が経過して、主クリシュナがこの場に来られるとき、お前たちはその罪から解放され、再び天界に帰ることができ、バクティの思いを獲得できるだろう。」

 このようにしてこの二人の神霊は、自分という意識が残ったまま、二本のアルジュナの樹に姿を変えられ、罪を懺悔しながら、クリシュナの到来を待ち続けたのでした。

 神仙ナーラダの予言を成就させるべく、クリシュナは、二本のアルジュナの樹の方に、ゆっくりと進んでいきました。そして紐でしばりつけられた木の臼を引きずりながら、二本の樹の間を這って通って行ったのです。
 クリシュナがその樹の間を通り過ぎると、繋がれていた樹の臼が、樹と樹の間に引っかかりました。さらにクリシュナが前に進むと、その力によって、二本の樹はすさまじい音とともに根こそぎ倒されたのでした。
 するとそこに、すべての自尊心をはぎ取られた二人の神霊が、あたりを偉大な輝きで照らしながら、姿をあらわしたのです。彼らはクリシュナに向かって合掌すると、次のように言いました。

「ああ、クリシュナ、クリシュナ、すべてを魅了する偉大なヨーギーよ。あなたは最も太初の、最高の真我なのです。未顕現と顕現という宇宙は、ともにあなたのお姿なのです。
 三つのグナも、あなたを理解することはできません。ましてやその派生物である理性や自我意識などはなおさらです。三つのグナに閉ざされた魂が、自分よりも先に存在するあなたを、どうして認識することができるでしょうか?
 あなたは全宇宙の創造者、無限者であり、ご自身から発されたグナによって、その栄光を隠された、完全なブラフマンなのです!
 すべての祝福の授与者であるあなたは、全被造物の繁栄と解放を願って、このたびは完全なお姿として、この世に降誕されたのでした。
 ああ、栄光あれ、栄光あれ、かくも喜ばしきお方に栄光あれ、最高に慈悲深き主に栄光あれ、ヴァスデーヴァの優しき御子にヤドゥ族の王に、どうかいつまでも栄えありますように!
 ああ、完全なるお方よ。私たちがもうこの場を離れることをお許しください。あなたのお姿を目にできたのは、ひとえにあの神仙ナーラダの慈悲故なのです。
 私たちはこれから、あなたの素晴らしさを語るためだけに言葉を用います。
 あなたの物語を聞くためだけに耳を使います。
 あなたのお仕事をするためだけに手を使います。
 あなたの御足を思うためだけに心を使います。
 そして、あなたの住まいである全世界に下げるためだけに頭を使います。
 さらに、あなたの体現である聖者を見るためだけに、この眼を使うでしょう!」

 二人の神霊からこのように賛美されたクリシュナは、笑いながら、このように言いました。

「ああ、ナラクーバラとマニグリーヴァよ。あなたたちは私を最高の礼拝の対象であると悟ったが故に、もう自分たちの世界に戻るがよいだろう。あなたたちが求めた、輪廻の終息につながるバクティのともしびは、もはやあなたたちの心にともされたのだから。」

 紐で木臼につながれた主から、このように教えられた二人の神霊は、幾度もひれ伏し、許しを得た後で、もといた天の世界へと帰って行ったのでした。

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