クリシュナ物語の要約(33)「カンサの殺害」
(33)カンサの殺害
人々がこのように話し合っているとき、カンサ王に仕える最高の闘士チャーヌーラは、クリシュナとバララーマのもとへと近寄り、クリシュナは自分と、そしてバララーマはムシュティカという闘士と戦えと挑戦してきました。
ひるまぬ決意を持つクリシュナとバララーマは、その挑戦を受けました。
クリシュナとバララーマがまだ少年であるということで、この戦いは武器を使わない素手の格闘技の戦いとして行われることになりました。
こうしてクリシュナとチャーヌーラ、そしてバララーマとムシュティカの、激しい戦いが始まりました。
いかにも強大な闘士たちと、まだあどけなさが残る少年たちが戦うという、この全く不公平な戦いを眼にすると、観客の中の女性たちはクリシュナとバララーマにひどく同情して、次のように話したのでした。
「強い者と弱い者が戦うこんな試合を黙って見ているなんて、王の家来たちはなんて不正義なのでしょう!
ああ、水に濡れた蓮華のように、顔中から汗を流して、相手の周りを迅速に動く、蓮華のようなクリシュナのお顔を、どうか見てください!
不敵な笑みを浮かべて立ち向かう、赤い眼をしたバララーマのお顔が見えますか?
ああ、ヴラジャの地は、なんと祝福されているのでしょう! 人として現れた太古の真我は、バララーマとともに牛たちを放牧させ、美しく横笛を奏でながら、優雅にその上を歩かれたのです!
ああ、ヴラジャのゴーピーたちは、どんな立派な苦行を行なってきたのでしょう! 優雅さの化身のような主のお姿を、彼女たちはいつも眼で味わうことができたのです! それは何とも比較できず、何にも凌駕されず、何の飾りも必要とせず、それでも常に新しく、得難く、神の栄光に満ちたものなのです。
ああ、ヴラジャの女性たちは、なんと祝福されているのでしょう! 彼女たちは、牛の乳を搾るときや、お米を打つとき、そしてカードを混ぜるとき、床を牛糞で塗ったり、泣く子をあやすとき、さらには水をまいたり、家の掃除をするとき、その他どんな家事をする間も、常にクリシュナを思って、主への愛に心を満たされ、涙で喉を詰まらせて主を賛美して、すべての望みを叶えられたのです。
きっと彼女たちは、非常な功徳を積んでいたに違いありません。だから主が朝になり牛たちと出発して、夕方になって村に戻られるとき、横笛を美しく奏でられるのを聞くや、急いで道の上に集まってきて、やさしい眼がまぶしい、主のお顔を眺めることができたのです!」
そして息子の真の力を知ることのない、クリシュナとバララーマの両親であるヴァスデーヴァとデーヴァキーも、息子たちへの愛情故に非常な不安に陥っていたのでした。
クリシュナとバララーマは、様々な戦い方で敵と組み合い、戦い続けました。
雷電のようなクリシュナの攻撃で、チャーヌーラは何度も気を失いましたが、そのたびに何度も立ち上がり、そしてクリシュナの胸に激しいパンチを打ち込みました。しかしクリシュナはその強烈なパンチを受けても全く微動だにせず、チャーヌーラの腕をつかむと、何度も激しく振り回しました。するとチャーヌーラの体から、回転する間に魂が抜け出してしまったのでした。
一方バララーマは、ムシュティカに対して手のひらで強烈な打撃を加えました。ムシュティカは苦しみのあまりに体を大きく揺らせ、口から血を吐くと、そのまま地面に倒れて、息絶えたのでした。
そして次に挑戦してきた闘士クータを、バララーマはまるで戯れるように、左のパンチ一発で殴り殺してしまいました。
次に挑戦してきたシャラはクリシュナに頭を蹴られ、そしてトーシャラはクリシュナに体を引き裂かれて、ともに敗北しました。
これらの最高の闘士たちがクリシュナとバララーマに始末されたのを見ると、残りの闘士たちは恐怖して、全員がそこから逃げてしまいました。
その後、クリシュナとバララーマは、仲間の牛飼いたちを闘技場の中に呼び寄せると、賑やかにラッパが奏でられる中、手を叩き、足の鈴を鳴らしながら、彼らと一緒になって踊ったのでした。
このようなクリシュナとバララーマの偉業を眼にすると、その場にいたカンサ以外の全員は、大いなる喜びに沸き返りました。
しかしカンサは怒り狂い、こう叫びました。
「クリシュナとバララーマを、直ちに都から追放してしまえ! そして牛飼いたちの財産をすべて没収して、ナンダは鎖に繋いでしまうのだ!
そしてクリシュナの父であるヴァスデーヴァと、我が父であるウグラセーナも、家来もろとも即刻殺してしまうのだ!」
カンサがこう叫ぶ間に、クリシュナは激怒しつつ、カンサが座っていた高台めがけて、猛烈な勢いで駆け上っていきました。
それを見たカンサは、すぐに座から立ち上がり、剣と盾を持って身構えました。
カンサはまるで鷹のように空を自由に飛び回りつつ、クリシュナと勇ましく戦いを交えましたが、やがてクリシュナはカンサの髪をつかんで闘技場にたたきつけると、倒れたカンサの体の上に勢いよく飛び降りました。
こうしてカンサは死にました。しかしカンサは、「クリシュナに殺される」という自分の運命を知ってからというもの、常に不安に駆られ、水を飲むときも、話をするときも、歩くときも、眠るときも、呼吸をする間でさえ、常にクリシュナのことを心で思い続けていました。そのためにカンサは死後に救われ、得難き姿を得ることができたのでした。
兄のカンサが死んだのを見ると、弟のカンカやニヤグローダなどの八人の王子たちは、怒りで全身を燃え上がらせて、敵を討つためにクリシュナに突進してきました。
しかし完全武装して突進してきた彼らを、バララーマは手にした象の牙で、あっという間に始末してしまいました。
そのとき、空ではティンパニが打ち鳴らされて、神々は喜びに満たされて花を振りまき、アプサラス(踊りの女神)たちは歓喜して舞い踊ったのでした。
つづく