クリシュナ物語の要約(19)「クリシュナとゴーピーたちの遊戯」
(19)クリシュナとゴーピーたちの遊戯
秋の季節のある夜、美しい月明かりの下で、クリシュナは、自らの横笛により、人々を魅了する甘美な調べを奏でました。
その調べを耳にすると、ヴラジャの乙女たちはクリシュナへの愛に心を奪われてしまい、愛するクリシュナに会いに行こうと、村のあちこちから、クリシュナが笛を吹いている場所へと向かったのでした。
あまりにも強いクリシュナへの思いゆえに、牛の乳を搾っていたゴーピー器を捨てて外へ飛び出し、牛乳を沸かしていた女性はそれを放って出かけてしまい、炉で粥を炊いていた女性もそれを炉から降ろさぬままに急いで家から駆けだしたのでした。
また、食事を休止していた者はその義務を放棄して出かけて行き、子供に乳を飲ませていた者も、それをやめて子供を置いて出て行きました。夫の世話をしていた者も夫に背を向けて出て行き、食事中だった者も食べ物を残したままあわてて出て行きました。
中にはあまりにあわてたために、服を間違った着方で着たままでクリシュナのもとへ急いだ者もいたのでした。
夫や両親、親族や兄弟に行くのを止められても、彼女たちはクリシュナに心を奪われて、強く引き付けられたため、すべてを振り切ってクリシュナのもとへと向かったのでした。
家族に力づくで止められてしまい、どうしても家を出られなかったゴーピーたちは、クリシュナに会いたいという強い思いでそっと目を閉じて、自分の心をクリシュナに結びつけたのでした。
すると、クリシュナとの会えないという最大の苦しみを味わうことにより、彼女たちの罪はすべて燃やされました。
そしてクリシュナを瞑想して心で抱きしめた喜びで、彼女たちの功徳もすべて消費されました。
こうしてあらゆるカルマの足かせは断ち切られ、彼女たちは身体を放棄し、解脱に至ったのでした。
さて、家から出ることに成功したゴーピーたちは、ついにクリシュナのもとへと到着しました。
そこでクリシュナは次のように言いました。
「ああ、祝福された皆さん、ようこそいらっしゃいました。僕はあなたたちに何をすればよろしいでしょうか? 皆さんはお元気にしていますか? またあなたたちはどうしてここへ来られたのでしょうか?
今夜は何か恐ろしげで、あたりには獰猛な生き物がうろついていますから、あなたたちはもうヴラジャに帰った方がよいでしょう。
あなたたちの父母や息子、兄弟、そして夫たちは、あなたたちを探しているに違いありません。彼らを心配させてはいけません。
ああ、貞淑な女性たちよ。あなたたちは早く帰って、あなたたちのご主人に仕えてください。子供たちや子牛たちも、きっとお腹を空かせているに違いありません。
高い世界に昇りたいと思う女性は、たとえ自分の夫が堕落していて、不運であっても、また年老いて、病気がちで、貧しい者であったとしても、彼を見捨てるべきではないでしょう。
夫を持つ女性が夫以外の愛人と付き合ったりしたら、それは卑しく恥ずべきことで、天界に行くことはできずに、災難のもととなり、恐怖や憎しみを生み出すでしょう。
あなたたちは僕を愛しています。それはとても正しいことです。しかし僕のそばにいなくとも、僕を瞑想して、僕の栄光を歌うのがよいでしょう。だからもうあなたたちは家に帰ってください。」
クリシュナのこのつれない言葉を聞くと、ゴーピーたちはすっかりしょげかえり、ひどい不安に陥りました。
彼女たちは悲しそうに顔をうつむけると、悲しみのあまりに立ち尽くしたまま黙り込んで、涙を流しました。
クリシュナへの愛に心を満たされて、クリシュナのためにすべての望みを捨てたゴーピーたちは、涙でかすんだ眼を拭うと、つれない言葉を話す最愛のクリシュナに、声をつまらせながら次のように言いました。
「ああ、何とひどいことを言われるのでしょう。解放を求める者をヴィシュヌ神が受け入れるように、すべてを捨ててあなたの御足を求めた私たちを、どうか受け入れてください。どうか私たちを捨てないでください!
確かにあなたが言われるように、女性の本来の義務とは、夫や子供や家族や友人たちに仕えることにあるでしょう。しかし、ああ、愛するお人よ。どうかそのような奉仕を、全能の主であるあなたに捧げさせてください。あなたはすべての人々の内なる真我そのものなのですから。
聖なる教えを知る者は、愛すべき、永遠の真我であるあなたに、喜びを見出す者なのです。自分たちの夫や子供から、私たちは何を得られるというのでしょう? それらは苦しみのもととなるだけではありませんか。だから、ああ、至上の主よ。どうか私たちに慈悲を示して、あなただけを思ってきた私たちの望みを、どうかくじいたりしないでください!
家事をしていたこの手も、もうそんなことはできなくなりました。そしてこの足は、もうあなたの御足の下から動けないのです。ならば私たちはどうして家に帰れて、そこで何ができるというのでしょう?
ああ、苦しみを癒すお方よ。どうか私たちに慈悲を示してください。あなたにお仕えしたくて、私たちは家庭を捨てて、あなたの御足を求めたのです。
ああ、人の中の宝であるお方よ。この心に芽生えた望みに苦しむ私たちに、あなたへの奉仕という恩恵をお与えください。
アムリタが滴るその唇、美しき笑みとまなざし、たくましき腕、女神シュリーが住まれるその広き胸、そんなあなたのお姿を目にした私たちは、もはやあなたの奴隷なのです。」
このような切なきゴーピーたちの願いを聞いたクリシュナは、朗らかに笑うと、彼女たちへの慈悲心によって、彼女たちを喜ばせようと思いました。
実はこのゴーピーたちは、普通の人間ではありませんでした。彼女たちの幾人かは偉大な聖仙の生まれ変わりであり、幾人かは偉大な女神の生まれ変わりであり、他の者も聖なる魂の生まれ変わりだったのです。
クリシュナは何百人ものゴーピーたちとともにヤムナーの岸辺に向かうと、そこで彼女たちと遊戯(リーラー)を楽しんだのでした。
クリシュナはその腕で彼女たちを抱きしめ、彼女たちの手や髪、裾、足、胸に触れたり、冗談を語ったり、笑みを浮かべた陽気なまなざしにより、彼女たちに喜びをもたらしたのでした。
しかし、偉大なるクリシュナからこのようにやさしい態度でふるまわれた彼女たちは、次第に高慢となっていき、自分たちは地上のどんな女性よりも優れていると思い始めました。
彼女たちがこのような虚栄と自負心に陥るのを見ると、その自負心を断ち切るために、クリシュナは突然、その場から姿を消してしまったのでした。
つづく