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クリシュナ物語の要約(17)「ブラーフマナの妻たちの救済」

(17)ブラーフマナの妻たちの救済

 ある日、クリシュナの親友である牛飼いの子供たちは、ヤムナー河の岸辺に広がる森で牛を放牧させている間に、非常な空腹に襲われました。そこで彼らは、クリシュナとバララーマにこう訴えたのでした。

「ああ、バララーマ。すべての人の喜びよ。大いなる武勇をもつ方よ。
 ああ、クリシュナ。悪しき者を滅ぼす方よ。
 僕たちはおなかがすいて、とても困っています。何か僕たちに食べ物を食べさせてください!」

 牛飼いの子供たちからこのように懇願されたクリシュナは、この機会に、自分に帰依するあるブラーフマナの妻たちに慈悲を示そうと思い、次のように言いました。

「ヴェーダの解説者であるブラーフマナたちが、今、死後に天界に昇ることを願って、アーンギラサという祭祀を行なっている。だからみんなでそこへ向かうといい。
 そしてそこについたら、僕のお兄さん(バララーマ)と僕の名前を出して、僕たちに言われてきたと言って、ご飯をくれるようにたのんでみるといいよ!」

 このように指示された牛飼いの子たちは、言われたとおりに祭祀を行なっているブラーフマナのところへ行き、クリシュナの指示通りに、ブラーフマナたちに次のように懇願しました。

「ああ、地上の神様であるブラーフマナたちよ。どうかお聞きください。
 僕たち牛飼いの子供たちは、全員がクリシュナのしもべで、クリシュナとバララーマに指示されてここへやってきたのです。
 クリシュナとバララーマと僕たちは、ここから少し離れたところで牛たちを放牧させている間に、とてもお腹が空いてしまったのです。
 ああ、ブラーフマナ様、あなたたちはダルマを知る者の中でも最も立派な方々なのです。ですから、もしあなた方が食べ物を持っていて、クリシュナとバララーマを尊敬されているなら、どうか食べ物を分けてください。」

 天界に至るための入念な儀式を行ない、学があると自認しながらも、実は無智であったそのブラーフマナたちは、このような子供たちの言葉を聞いても、耳を貸そうとはしませんでした。
 クリシュナは、儀式における時と場所であり、供物であり、マントラであり、供養の火であり、神々であり、功徳であり、それらすべてを構成する最高のブラフマン、バガヴァーン(至高者)そのものなのです。しかし無智なブラーフマナたちは、クリシュナを単なる普通の人間の子供と見て、関心を払わなかったのです。

 子どもたちの懇願をブラーフマナたちが無視したので、子供たちは落胆して帰って行き、それをクリシュナとバララーマに報告したのでした。

 彼らの報告を聞いたクリシュナは、大声で笑いだし、失敗してもくじけずになお努力し続けるという生き方を世の人々に示すために、彼らにこのように告げました。
「さあ、もう一度頼んで来てくれないか。しかし今度は、ブラーフマナの奥さんたちに、僕とバララーマがここにいることを告げて来てごらん。彼女たちはとても優しくて、僕の心の中に生きている人たちだから、きっとたくさんの食べ物をくれるに違いないよ!」

 そこで牛飼いの子供たちはすぐにまた出かけ、クリシュナに言われたとおりに、ブラーフマナの妻たちに話しかけました。

「ブラーフマナの奥様方に栄えありますように!
 どうか僕たちの願いをお聞きください。僕たち牛飼いの子は、ここから少し離れたところで遊んでいるクリシュナに、ここへ来るように言われたのです。
 あの子は牛飼いの仲間やお兄さんのバララーマと一緒に、牛に草を食べさせるために、家からすっかり遠くまで来てしまい、お腹を空かせてとても困っているんです。だからどうか食べ物を分けてください!」

 クリシュナが近くに来ていると聞くと、今まで主のことを耳にし、主に強く心をひかれ、主に会いたくて仕方がなかった彼女たちは、急にうろたえ始めました。
 長い間その名を耳にしてきて、主に心を結びつけていた彼女たちは、さまざまな種類の食べ物を器に入れると、夫や家族たちが止めるのも聞かずに、河が海に流れるように、全員で愛する主のもとへ向かったのでした。

 そして彼女たちは、ヤムナー河の岸辺に広がる美しい森の中で、バララーマとともに牛飼いの子供たちに囲まれた、愛するクリシュナの姿を目にしたのでした。
 
 そのとき、青黒い肌をしたクリシュナは、踊り子のように美しく、腰には金色の絹を巻き、花輪やクジャクの羽で身を飾り、献身的な仲間の肩に手を置いて、耳には蓮華を飾り、頬では巻き毛が揺れて、蓮華のような御顔には優しい笑みをうかべていました。

 最愛の主に常に心を結び付けてきた彼女たちは、目を通して主を心の中に招き入れると、心の中でクリシュナを長い間抱きしめることで、長い間主に会えなかった苦しみを癒したのでした。

 自分に会うために、彼女たちが家族の反対を押し切り、家族の非難も顧みず、家庭の平安も捨ててやってきたのを知ると、クリシュナはやさしい笑みを浮かべて、次のように言いました。

「ああ、神の恩寵を受けた方々よ、ようこそいらっしゃいました。ここへお座りください。あなたたちが僕を見たいと思ってここに来られたことは、本当に正しいことなんです。
 自分にとって真に何が大事かを知る者は、最愛のものであり真の自己にほかならないこの僕に、不断のバクティを捧げるものなのです。
 あなたたちは、真の自己にほかならない私の姿を見たのですから、もはや人生の目的を遂げられたのです。だからもう、祭祀の場にお帰りなさい。ブラーフマナであるあなた方のご主人たちは、あなた方の協力があって初めて、祭祀を完成させることができるのですから。」

 クリシュナにこう言われて、ブラーフマナの妻たちは言いました。
「ああ、全能の主よ。そのようなひどい言葉を言わないでください。
 私たちは、あなたが捨てられたトゥルシーの飾りをこの髪に飾りたくて、親しい者たちを無視して、あなたの御足を求めたのです。
 私たちの夫や両親、息子、兄弟、親族たちは、もう私たちを迎えてはくれないでしょう。ああ、あなたの御足に身を投げ出した私たちに、あなたへの奉仕以外の人生を残さないでください!」

 クリシュナは答えて言いました。
「あなた方の夫や両親、そして兄弟や息子たちは、決してあなた方に怒りを抱くことはないでしょう。神々でさえもが、あなた方の行為を認めておられるのですから。
 この世に生きる人々は、たとえ私のそばで、私と身近に接したとしても、それだけでは人生の目的を達成することはできないのです。しかし心を私にささげたなら、あなた方はいずれ私を得ることができるでしょう。」

 このようにクリシュナから告げられたブラーフマナの妻たちは、言われたとおりに家族のもとへと帰って行きました。そしてクリシュナが言ったとおり、家族たちは彼女たちを怒ることはなく、そして彼女たちの手助けによって、無事、祭祀は執り行なわれたのでした。

 そしてクリシュナは、彼女たちからささげられた供物を仲間たちに食べさせた後で、自らもそれらの供物を食べたのでした。
 
 
 やがてブラーフマナたちは、普通の人間の子供としてふるまうクリシュナとバララーマの本質に気づかず、彼らにまみえ奉仕できるという最上の機会を、自分たちがみずから拒否してしまったという最悪の事実に気づき、そのことを大いに後悔し始めました。

 そして自分たちの妻がクリシュナに対して抱く素晴らしい純粋な信仰心を知ると、自分たちにはそのような信仰心が足りないことを知り、そのことをひどく後悔して、自分たちをとがめ、次のように話すのでした。

「われわれのブラーフマナとしての清らかな生まれや、ヴェーダの知識、誓いや戒律の遵守、多彩な知識、善き家柄や祭祀への熟練など、それらのすべては、宇宙の主であるクリシュナから顔をそむけたなら、はたして何の役に立つであろうか?
 主が持たれるマーヤーの力は、ヨーガに熟達した者をも惑わせてしまうのだ。我々ブラーフマナも、その力に惑わされたために、自身の重大事がわからなくなってしまったのだ。
 しかし我々の妻が、全宇宙の父であるクリシュナに抱く信仰は、なんと素晴らしいものなのだろうか!
 彼女たちはブラーフマナとしての儀式を受けることもなく、ヴェーダを学ぶこともなかった。苦行を行なうこともなく、真我を探究したわけでもない。
 しかし彼女たちには、神々の主であるクリシュナに対する、なんとゆるぎなきバクティがあるのだろうか! われわれは浄化の儀式で聖化されて、あらゆることを行なってきたが、だがそのわれわれには、彼女たちのような純粋な信仰心が見られないのだ。
 ああ、自身の重大事を忘れて、家長としての活動で堕落したわれわれを、慈悲深き主は、今回の出来事を通じて目覚めさせようとされたのだ!
 主はすべての支配者であり、すべての祝福を、解脱でさえも衆生に授けられる方なのだ。そのような主がわれわれに食べ物を乞うたことは、単なる口実に過ぎなかったのだ。
 宇宙の主であるヴィシュヌが、ヤドゥ族に降誕されたということを、われわれはすでに耳にしていた。であるのに愚かなわれわれは、あの子供が主であると認めることができなかったのだ。
 ああ、このような立派な妻を持てたとは、そして彼女たちのおかげで心を主に結び付けることができたとは、われわれは何と祝福された者なのであろうか!
 マーヤーに惑わされたために主の栄光に気付けなかった私たちを、宇宙の主・クリシュナがどうか許してくださいますように!」
 
 このように、クリシュナに対して犯した罪を彼らは幾度も後悔しました。そして自分たちもクリシュナとバララーマの二人の御子に会いに行きたいと思いましたが、カンサのことを恐れていたために、彼らはそれを実行に移すことはできなかったのでした。

つづく

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