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クリシュナ物語の要約(13)「大蛇カーリヤの救済」

(13)大蛇カーリヤの救済

 ヤムナー河の河底にはカーリヤという名の大蛇が住んでおり、その大蛇のために河は毒され、多くの生き物が死にました。
 それを知ったクリシュナは、カーリヤを退治するために、ヤムナー河に飛び込みました。
 クリシュナが飛び込んできたのを見ると、カーリヤは激しく興奮し、口から大量の毒を吐き出しました。しかしクリシュナは全くそれを意に介せずに、その毒の水の中で優雅に戯れ泳ぎました。
 それを見ると大蛇は一層激怒し、その長い体で、クリシュナを巻き込んで絞めあげました。
 
 クリシュナが大蛇に絞めあげられ、全く動かなくなったのを見ると、クリシュナの親友の牛飼いの子供たちは、全員が嘆きと恐怖と悲しみで判断力をなくし、気を失ってその場に倒れてしまったのでした。

 そのとき、ヴラジャの地では、天と地に差し迫る危険を示す数々の凶兆が出現していました。
 村人たちは、クリシュナがバララーマを伴わずに出かけたと知り、またこれらの多くの凶兆を目にすると、クリシュナが死んでしまったのではないかと思い、全員が嘆きと悲しみと恐怖に圧倒されたのでした。
 そしてヴラジャの人々は、全員が無事なクリシュナの顔を見ることを願い、悲しみに心を揺らせながら、クリシュナが出かけた場所へ向かったのでした。
 村人たちがこのように不安になっているのを見ても、バララーマは、クリシュナの真の栄光を知っているが故に、ただ笑みを浮かべ、何も言わなかったのでした。

 さて、村人たちがヤムナー河に近づくと、そこではクリシュナが大蛇に捕まっており、そのそばで牛飼いの子供たちが気絶しているのが見えました。
 
 最愛のクリシュナが大蛇に捕まっているのを見て、クリシュナに強く心を結びつけていたゴーピーたちは、クリシュナが死んでしまったらこの世は荒涼としたものになると思い、今までクリシュナが示した愛や微笑み、まなざし、語られた言葉などを思い起こしながら、非常な悲しみに襲われたのでした。

 大蛇に捕まっている息子を見て、河に飛び込もうとしたヤショーダーを、ゴーピーたちはなんとかして押しとどめましたが、皆どうすることもできずに悲しみ、死んだように立ち尽くしたのでした。
 
 そしてナンダなどの牛飼いの男たちも、クリシュナを助けようとその毒の河に入ろうとしましたが、クリシュナの偉大さを知るバララーマが、それを止めました。

 さてクリシュナは、しばらくの間、大蛇に自分を締め付けさせた後、体を巨大化させました。すると大蛇は苦しみのあまりクリシュナを解放しましたが、怒り猛っていくつもの鎌首をもたげて、鼻から猛毒を吐き、口からは炎を吐きました。
 クリシュナがゆっくりと大蛇の周りを回ると、大蛇もクリシュナにかみつく機会をうかがいながら、ゆっくりと身体を回転させました。
 すると隙を見てクリシュナは大蛇の頭の上に飛び乗り、そこで優雅に踊り始めました。
 大蛇の頭の上で優雅に踊るクリシュナを見ると、主のしもべである神々や女神たちは、愛の思いに圧倒されて、クリシュナの近くまで近づいてくると、天の楽器を奏でて祝福の歌を歌い、花や供物をクリシュナにささげたのでした。
 そしてクリシュナが踊りながら大蛇のいくつもの頭を踏みつけると、大蛇は口と鼻から血を吐き、ほとんど気を失ってしまいました。
 不思議なクリシュナの踊りにより、いくつもの頭を次々とつぶされ、身体も砕かれ、息絶え絶えとなった大蛇は、全生物があがめる偉大なる至高者ヴィシュヌを思い出し、心の中で助けを求めました。
 
 その姿を見ると、大蛇の妻たちはひどく苦しみ、子供たちを連れてクリシュナに近づくと、こう祈りを捧げました。

「ああ、主よ。あなたがこの罪人を罰されるのは、正しいことでしょう。なぜならあなたは、悪人を罰するためにこの世に降誕されたからです。またあなたは、自分の敵も息子も平等に見る方だからです。あなたはただ彼の幸福のために、彼に罰を下されるのです。
 あなたが悪人を罰するのは、その悪人にとって恩寵といえるのです。なぜなら彼はそれによって罪を浄化されるからです。
 あなたによってこのように罪を浄化されるとは、ああ、私たちの夫であるこの大蛇は、過去にどんな苦行を行なってきたのでしょうか。私たちは本当に不思議に思わされるのです。
 美の化身である女神シュリーは、あなたの御足の塵だけを求めて、すべての楽しみを捨てて、清き誓戒を守り、長きにわたって苦行を続けているのです。そのようなあなたの御足の塵に、この者が触れられたとは、ああ、彼はどんな立派な行ないをなしてきたのでしょう!
 あなたの御足の塵を得たならば、その者はもはや、最高天や地球の王権も、ブラフマー神の地位も、ヨーガの神秘力も、輪廻からの解放さえも、欲しいとは思わなくなるのです。
 他の者には得がたきその御足の塵を、タマスの性質をもって生まれたこの大蛇が得たとは、ああ、主よ。何と不可思議なことなのでしょう!
 しかしながら主よ、愚かなこの生き物が、あなたの本質を知らずに犯した罪を、どうかお許しください。
 ああ、主よ。この大蛇は今にも死んでしまいそうです。この大蛇は愚か者ではありますが、私たちの夫なのです。
 あなたのしもべである私たちに、どうか何をなすべきかをお教えください。あなたの命令を敬意をもって実行したならば、その者はすべての恐怖から解放されるのです!」

 大蛇の妻たちのこのような祈りを聞くと、クリシュナは息絶え絶えの大蛇を、快く許されたのでした。

 そして大蛇カーリヤは、やがて徐々に意識を取り戻すと、恭しく合掌しながら、クリシュナに次のような祈りを捧げました。

「ああ、主よ。タマスに支配されるわれわれナーガ(蛇)は、生まれつき邪悪な生き物であり、絶えず怒りを抱いて生きております。しかしこれさえもあなたのマーヤーによるならば、誰がそれを自力で乗り越えられるでしょうか?
 全宇宙の支配者であり、全能の主であるあなたこそが、そのマーヤーを超えるのに力を貸して下さるのです。
 それゆえどうかわれわれに慈悲か、もしくは罰を、御心のままにお与えください!」

 この大蛇の真摯な祈りを聞くと、クリシュナはこう答えました。

「大蛇よ。お前はこれ以上、ここにいてはならない。あなたは親族や子供、妻たちを連れて、海へと向かいなさい。そして牛や人間たちが、再びこの聖なるヤムナー河を使えるようにしなさい。
 お前に私が下した懲罰の物語を自分の記憶にとどめて、朝と夕にそれを唱える者は、もはやお前たち蛇どもを恐れることがなくなるだろう。
 そして私が遊戯を行なったこの場所で沐浴し、絶えず私を思い、私に礼拝を捧げる者は、自らの罪を浄化することができるであろう。
 そしてお前の天敵であるガルダは、私がお前の頭に足跡を付けたが故に、決してお前を食べることはないだろう。」

 クリシュナからこのように言われた大蛇カーリヤとその妻たちは、大いに喜び、素晴らしき衣服と花輪、宝玉、最高の宝石、天界の香水、白檀、青蓮華の花輪を捧げて、クリシュナを礼拝し、賛美すると、海の中へと引き上げていきました。そしてヤムナー河の水は、クリシュナの慈悲により蛇の毒を浄化され、甘露のような水になったのでした。

 さて、大蛇に殺されたと思っていたクリシュナが、無事に河から上がってきたのを見ると、牛飼いの子供たちや、牛飼いの男たち、そしてゴーピーたちは、気絶から目を覚まし、喜んで駆け寄り、愛に満たされて、クリシュナを抱き締めました。
 クリシュナの偉大さを知るバララーマも、大いに喜び、笑いながら、クリシュナを抱きしめました。
 そしてヤショーダーも、クリシュナを膝の上に乗せて抱きしめて、歓喜の涙を流したのでした。

 
 村のブラーフマナたちは、ナンダにこう言いました。
「あの蛇のカーリヤに捕まったのに、無事に生きて帰れたとは、君の息子は何と幸運なんだろうか!
 君はクリシュナが救われたことをお祝いして、ブラーフマナに贈り物をしなければならないよ。」

 そこでナンダは大いに喜んで、ブラーフマナたちに、牛や黄金などを供物として差し出したのでした。

 さて、ヴラジャの人々は疲れ切っていたために、その夜をカーリンディーの岸辺で過ごしました。
 ところが、夏の熱で乾燥した森から野火が発生し、その炎は眠っていたヴラジャの人々の周りをあっという間に囲んでしまったのです。
 そこで村人たちは、クリシュナとバララーマに次のように助けを求めました。

「ああ、クリシュナ。クリシュナ。祝福に満ちたお方よ。ああ、ラーマ。偉大な武勇の持ち主よ。あなたの民である私たちを、あの恐ろしき炎が燃やそうとしています。
 あなたの友である私たちを、どうかあの死の炎からお守りください。恐れなき庇護者であられるあなたの御足を、私たちは一時も離れることができないのです!」

 すると、無限の力を持つクリシュナは、その恐ろしい炎を一気に飲み干してしまったのでした。

つづく

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