エピソード2「ラプチへの旅」
ミラレーパはあるとき、グル・マルパの指示に従い、ラプチという山に行って瞑想すべく、道を歩いていました。
ラプチの入り口に差し掛かったとき、そこに住む人々が、飲み会を行なっていました。その席で話題に上っていたのは、偉大なヨギー・ミラレーパのことでした。
そしてちょうどそこへ本物のミラレーパが托鉢にやってきたので、人々は喜んでミラレーパを迎え入れました。
そこに集っていた者たちのある者が、ミラレーパに言いました。
「私は立派な牧場を持っているのですが、昼間から霊や悪魔たちが現われるようになり、そこに近づけなくなってしまいました。どうかそこへ行って、助けてくださいませんか。」
ミラレーパは同意して、一人でそこへ向かいました。
ミラレーパがその場所に着くと、霊たちは恐ろしい幻影を出してミラレーパを脅しました。道は上下左右に揺れ、雷がとどろき、稲妻が大地を打ち、山々は震え、川は突然激流となり、谷間は巨大な湖になってしまいました。その湖は後に「悪魔の湖」と呼ばれました。
ミラレーパがあるしぐさをすると、直ちに洪水はおさまりました。
ミラレーパが谷間の低いところへ行こうとすると、悪魔たちは岩を降らせて、山々を両側から遮断しました。そこで山の女神が、ミラレーパのために道を作りました。その道は後に「山の女神の道」と呼ばれました。
小悪魔たちはすべてミラレーパに屈服しましたが、より強い力を持つ悪魔たちは、ミラレーパに反撃するために集まりました。ミラレーパはまた別の神秘的なしぐさをしました。すると突然、すべての悪しきヴィジョンは消え、空は晴れ渡りました。
ミラレーパは丘の上に座り、慈悲のサマーディに入ると、すべての衆生に対する無量の慈悲が生じ、大きな精神的進歩とインスピレーションを経験しました。そこは後に「慈悲の丘」と呼ばれました。
その後もミラレーパはしばらくその地にとどまっていましたが、あるとき、ネパールの悪魔が、多くの魔の軍勢を引き連れて、ミラレーパに挑戦してきました。彼らはさまざまな凶悪なヴィジョンを作り出し、ミラレーパを脅しました。
ミラレーパは彼らに、カルマの真実を示す歌を歌いました。
しかし悪魔たちは改心することなく、ミラレーパをあざ笑い、より多くの凶悪なヴィジョンを作り出しました。
ミラレーパはしばらく思索した後に、悪魔たちに言いました。
「魔の軍勢よ。私の言葉をよく聞きなさい。
わがグルの祝福によって、私は究極の真理を完全に悟ることができた。私にとっては、悪魔による苦難や障害は、名誉である。そのような障害や苦難が大きければ大きいほど、覚醒の道での収穫も多い。」
そして再び、悪魔たちを改心させるための歌を歌いました。
この歌によってほとんどの悪魔たちは改心し、ミラレーパに信を持ち、そして凶悪なヴィジョンは消えました。
悪魔たちはミラレーパに言いました。
「あなたは、すばらしい力を持った、本当に偉大なヨーギーです。
あなたに真理を説いてもらわず、神通を見せてもらうことがなかったら、われわれは決して理解でき中他でしょう。
今後は、決して人々を困らせるようなことはしません。あなたが説いてくださった真理の話に感謝しています。
我々の知性は限られ、迷妄は無限です。心は、かたくなな習性の沼地に浸っています。
どうか、深遠であり、利益があり、そして理解しやすく実践しやすい教えを説いてください。」
悪魔たちの懇願にこたえて、ミラレーパはさらに悪魔たちに、歌によって法を説きました。
これによって多くの悪魔たちはミラレーパへの信を確定し、大きな敬意を表して、礼拝し、ミラレーパの周りを何度も回って、帰っていきました。
しかし悪魔たちのリーダーと、その数名の従者たちだけはまだ去ろうとせず、再び凶悪なヴィジョンによってミラレーパを攻撃してきました。
そこでミラレーパはより深い真理の教えの歌を歌い、それによって彼らは完全に改心し、ミラレーパに帰依し、自らの頭蓋骨を布施し、礼拝し、去っていきました。
次の日、悪魔のリーダーは、従者たちと、めかした女性の幽霊たちを引き連れて、ミラレーパのもとにやってきました。彼らはミラレーパに多くの食物や酒などを布施し、今後はミラレーパに従うことを誓い、何度も礼拝して去っていきました。
この経験によって、ミラレーパのヨーガ修行は大いに進歩しました。彼は歓喜に満たされて、一ヶ月間、そこにとどまりました。
その後のある日、ミラレーパは、ラプチのある場所に行くために旅立ちました。旅の途中、ある岩の上に座っていると、多くの女神たちが現われ、ミラレーパに布施をして、消えていきました。
さらにミラレーパが歩いていると、多くの悪魔たちがやってきて、ミラレーパを脅すために、道上に巨大な女性性器のヴィジョンを作り出しました。ミラレーパはあるしぐさをして、自分の男性性器のヴィジョンを現わしました。
九つの女性性器のヴィジョンを通り過ぎてさらに進むと、女性性器のようなくぼみがある岩がありました。これはこの土地の精でした。ミラレーパが男性性器の形の岩をそのくぼみに挿入すると、悪魔たちによって作り出されたすべてのみだらなヴィジョンは消えました。
平原の真ん中に来たとき、ネパールの悪魔のリーダーが再びやってきて、ミラレーパを歓迎しました。彼はミラレーパに布施と奉仕をし、法を求めました。ミラレーパが真理を教えを説くと、彼は岩の中に溶けて消えていきました。
ミラレーパは大いに歓喜した状態で、その平原に一ヶ月間とどまりました。