イエス・キリストの生涯(1)
イエス・キリストの生涯
――スワーミー・シヴァーナンダ・サラスワティー
◎出生のお告げ
二千年前、至高なる光が、この暗闇と陰鬱に満ちた無常の世界に降りました。主の地上への降誕を決定する法は、いつのときも、どこでも同じです。悪がはびこり、正法が衰退するとき、邪悪な力が聖なる力を上回るとき、神の言葉、あるいは神の遣いの定めた掟が忘れ去られたり、それに人々が従わなくなったとき、宗教的狂信者が魂を滅ぼすような聖典の文字に従い始めたとき――そのときに、主は人々を救うため、正法を守るために、地上に降臨されるのです。
われわれは、救世主(キリスト)イエスとアヴァターラ・シュリー・クリシュナの間に数多くの共通項を見い出すことができます。
出生のときから、主は静かにメッセージをわれわれに送り始められます。主イエスがこの世における最初の『家』に選ばれた場所は、宮殿ではなく、馬小屋でした。主は宇宙の主ご自身を子供として授かるという恩寵を、王族ではなく、身分が低く貧しいけれども信仰深く敬虔な人々にお与えになったのです。主の価値の尺度は、一般の人間とは異なっています。『彼』の眼から見て、地上の栄耀栄華、そしてまた、己の信心深さへの思い上がりや知性への自惚れなどは、降臨するに相応しき受け皿にはなりません。心の純粋性こそが祝福されているのです。なぜならば、心が純粋な者たちは神を見るからです。
主イエスの聖母マリアは、主に遣われし天使に、神の子が彼女から生まれるであろうというお告げを受けました。マリアはヨセフという善良な男と結婚し、二人はナザレに住んでいましたが、その国の統治者が、「すべての民たちは出生した村や町に名を登録し、税金を払うべし」という指令を出したので、ヨセフと共にベツレヘムへと向かいました。しかしそこに到着したとき、住めるだけのまともな家や宿屋がないということに気づき、夜を馬小屋で過ごすほかなかったのでした。
主がお生まれになったのは、まさにこの馬小屋だったのです。
祝福された、純粋で敬虔な羊飼いたちが、主にまみえるためにやって来ました。彼らは田舎で羊の世話をしていたのですが、天使が彼らの前に現われて、主の降誕を告げたのでした。天使たちは主の美しい賛美を歌い、その中で、主の降誕の目的を明かしました。
最上なる神に栄光あれ
地上に平和をもたらしたまえ
諸人に好意を示したまえ
救世主イエスは、真理と神の最高の栄光を再びこの世に打ち立てるために、この世に平和をもたらすために、そして人々のハートに他者への愛を目覚めさせるために、人間の世界にやって来られました。
これらの祝福された羊飼いたちは事実上、地球上で『救世主イエス』を礼拝した最初の魂だったのです。
主の降誕の八日後、主の両親は、主をエルサレムの寺院へと連れていきました。これはユダヤ人の習わしでした。
エルサレムには、シメオンという名の善良な老人がいました。彼は、救世主イエスの神性に気づいた、第二の人物となったのでした。彼は寺院にいるイエスを見て、イエスは無明と罪という闇を取り除いて人々を救済し、人々に愛と善の道を歩ませ、その心を神の王国という悟りに至らしめるために地上に降誕された神の光――救世主であると理解しました。そしてまた同様に、その日その寺院でイエスを見たある予言者は、イエスが世界の希望の光として輝く神の子であると宣言しました。
それから間もなくして、東方の賢者たちが、主を礼拝するためにベツレヘムにやってきました。主がお生まれになったとき、まばゆい星が空に輝き、この賢者たちは、それを古代の予言者たちが予言した救世主が降誕したという確かな象徴であると理解しました。そして賢者たちは主に礼拝するために、その星の方角に向かって進み、ヘロデの王国にやって来たのでした。彼らはヘロデ王に到来の目的を説明しましたが、ヘロデ王は彼らの話を聞くと、喜ぶどころか恐ろしくなりました。そしてヘロデは賢者たちに、自分もその神の子を礼拝したいから、その子の居場所を教えてほしいと頼みました。しかし心の奥底では、王はその神の子を排除しようとしていたのでした。
賢者たちは、主の家の上空に光り輝く星を目指して歩き続けました。そして『神の子』を見つけると、賢者たちは跪いて、礼拝し、信仰と崇敬のしるしとして、高価な贈り物を主に捧げたのでした。