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アディヤートマ・ラーマーヤナ(53)「ヴィビーシャナの追放」

第二章 ヴィビーシャナの追放

◎ラーヴァナと大臣たちとの会議

 さてランカーでは、ハヌマーンがそこで為した神々でも為すことのできない業に面目を失ったラーヴァナが、大臣たちの集会の中でこう言った。

「ハヌマーンの為したことを見たか。奴は難攻不落のランカーへ侵入した。
 そして誰にも近づくことができないシーターと会い、わが息子アクシャを含む多くの勇敢なる悪魔たちを滅ぼした。
 奴は海を渡り、ランカー全土に火を点け、お前たち全員を制圧し、無傷で帰っていった。
 今後われわれは何をするべきであろうか?
 物事をわしの有利に変えるには何をしたらよいであろうか?
 外交術において熟達しているお前たちに、このことについて考えるよう命ずる。」

 ラーヴァナの言葉を聞くと、悪魔の大臣たちは彼にこう言った。

「おお、われらが主、われらが師よ!
 何ゆえに、御身はそのラーマに対して恐れを抱いておられるのか。――御身はすべての世界の征服者ではありませぬか!
 御身の息子インドラジットはインドラを縛り上げ、それを御身の前に差し出しました。御身はクベーラに勝利し、今御身が楽しんでおられる空飛ぶ要塞プシュパカを彼から奪いました。
 御身はヤマをも征服しました、それゆえ、その死神の武器である杖でさえ御身にとって恐れる理由はありませぬ。
 御身はただフームカーラ(怒声)だけで、ヴァルナを征服しました。
 そしてまたあらゆる悪魔をも征服したのであります。
 偉大なるアスラのマーヤーは、恐れから己の娘を御身に差し出し、そして今でも彼は御身の部下であります。ならば他のアスラにおいては言うまでもありませぬ。
 ハヌマーンは、ただわれわれが奴を軽視したばかりに、ここであのように生意気な行動をとったのであります。
 われわれはあの取るに足らない猿の輩が何もできず、奴に対してわれわれの武勇を示すのは無駄であると考えました。
 そのように考えたゆえ、われわれは少しばかり油断してしまったのであります。
 われわれが本気になれば、そもそも奴が生きて帰れたと思いますでしょうか? ご命令ください。われわれがこの全世界から猿族と人間を抹消してみせましょう。
 われらは皆共に、あるいは一人ずつ、御身の命に従って、行って参ります。」

 このご都合主義の大臣たちの言葉を聞くと、クンバカルナは悪魔の王ラーヴァナにこう言った。

「御身が手始めに為したことは、己が滅びる種となった。幸運なことに、偉大なるラーマは御身がシーターさらったときにその場にいなかった。
 おお、ラーヴァナよ! 御身がラーマと出会っていたら、おそらく生きては帰られなかったであろう。
 ラーマはただの人間ではない。彼は神――至高者ナーラーヤナであられる。
 彼の名高き妻のシーターは、ラクシュミー女神である。
 あたかも魚が毒入りのエサを飲み込んで自らの破滅を招くように、御身はこの全悪魔族を破滅に導きいれるためにシーターを連れ去って来たのじゃ。
 そして今、御身は己の行為の果報を思い、悩んでおる。
 しかし、おお、王よ、御身の為したことが誤りだったとしても、わしがそれらを修正して差し上げよう。心配したもうな。」

 クンバカルナの言葉を聞くと、インドラジットは立ち上がってこう言った。

「おお、わが主よ! 私にご命令ください。
 私はそのラーマとラクシュマナをスグリーヴァと奴の猿諸共に破滅させて、御身のもとへと帰還いたしましょう。」

◎ヴィビーシャナの追放

 そして、高い信仰心、知性、純粋な心、そしてラーマへの完全なる献身を持ったヴィビーシャナが前に出てきた。
 ラーヴァナに会釈した後に、彼の傍に座り、彼もまた、クンバカルナからラーヴァナに至るまでの傲慢な悪魔たちを仰天させるような言葉を語った。
 彼は故意に次のように語った。

「おお、王よ! これらの――クンバカルナ、インドラジット、マハーパルシュヴァ、マホーダラ、ニクンバ、クンバ、アディカーヤなどの悪魔は誰も、ラーマとの戦いに全く対抗できないでありましょう。
 おお、王よ! 御身は言うなれば、シーターという霊に取りつかれたのです。もし生き残りたければ、その霊を追い払いたまえ。
 そのための手段は、彼女を高価な贈り物と共にラーマのもとに連れて行き、彼に譲渡するのです。そうすれば御身は幸福になります。
 ランカーの至る所を舞い、悪魔たちの首を切り落とす鋭い矢を見たくなければ、ただちにシーターを彼のもとに返すのです。
 獅子の如く強く、歯と爪で戦い、ランカー全土を攻撃し破壊することができる山のような猿を見たくなければ、ただちにシーターをラーマに返したまえ。
 たとえ御身がインドラやシャンカラに守護されていようが、天界の神や死の神の保護の下にあったとしても、パタラに帰依していようとも、ラーマからご自分の命を守ることはできないでしょう。」

 これらの善意から出た気高き有益な言葉は、まるで死する運命にある男にとっての医薬のように、あの邪悪なラーヴァナには受け入れられなかった。
 そして破滅の時の影響下にあるラーヴァナは、ヴィビーシャナにこう言った。

「わしは食い物や安楽を与えてお前を飼ってきてやったのだぞ。
 わしと一緒にいるというのに、お前に善きことばかりやってきたわしに対して敵意を抱くとは。お前はわしの望むこととは正反対のことをやっておる。
 味方だと思っておったが、お前はわしの生まれながらの敵なのだな。それには疑いの余地がない。
 お前のような無様で恥知らぬの者と付き合うのは、わしにとって相応しからぬこと。近しき縁者にはしばしば破滅を待ち望まれるというのは周知のことである。
 もし他の悪魔がお前が言ったようなことを言ったら、わしはただちにそいつを処刑したであろう。だが、わしはお前を殺しはせぬ。
 しかし、立ち去れ、悪魔族のくずが!
 二度とわしの前に姿を見せるでないぞ。」

 このラーヴァナの辛辣な言葉を聞くと、勇敢なるヴィビーシャナは、手に矛を持ち、四人の大臣達と共に、集会場から空へと飛び上がり、非常に怒ったムードで、宙にとどまりながら、十の頭を持つラーヴァナにこう言った。

◎ヴィビーシャナの説教

 彼はこう言った。

「御身が破滅に至らぬよう願います。
 御身はわが兄者、ゆえに私にとって御身は父上と等しいのであります。
 私は御身の幸福のためになることのみを語りましたが、御身は私を追放すると仰います。
 カーラ(破滅の時)はラーマの御姿でダシャラタの家系に、そしてカーリー(カーラの女性性)はシーターという名の下、ジャナカの家系に降誕されました。
 地球から重荷を取り除こうと、そのお二人は御身の破滅のために地上に来られたのであります。御身が私の有益な助言を聞き入れなかったことは、彼らの誘因の下にあります。
 ラーマ様は人間のように見えますが、真にプラクリティを超越した至高者なのです。
 あの御方は、一切の衆生の内にも外にも存在していらっしゃる全智者なのであります。
 彼はいかなるけがれにもけがされず、永遠に不変であられます。
 あたかも、宇宙に遍在する火元素が、木片のさまざまな形と大きさに応じてさまざまな形や大きさで生じるように、さまざまな異なる名前と姿の下、彼はまるで分けられているかのように現れるのです。
 火を異なったものとして見なすような無智の眼を通じてこの現象を見る者たちは、ただの人間であります。
 あたかも、透明な水晶を青色や黄色の傍に近づけると、それらの色として見えるように、そのように、五つの鞘(コーシャ)の存在の下で、純粋なる魂である彼はそれらのように見えるのです。
 あの御方は永遠に不生であり、無限であります。
 しかし、ご自身をご自身のマーヤーのグナの中に反映させ、カーラ、プラダナ、プルシャ、アヴィヤクタの四つのフォームをとってお現われになります。
 原因としてプラダナとプルシャを使い、不生なる御方である彼はこの全宇宙を顕現させます。
 彼は不変なる御方ですが、『カーラ(時)』として宇宙に破壊をもたらせます。
 ブラフマー神によって祈りを捧げられたことで、『時』の権限である彼は彼ご自身の神秘的な力であるマーヤーによってラーマの御姿をおとりになり、御身を滅ぼすためにこの世にやって来られたのです。
 御身は如何にしてそれを変えるというのですか?
 主の意思は必ず真実となります。
 ラーマ様は御身のご子息、軍隊、そして一切の装備諸共に御身を滅ぼすでしょう。私は御身と悪魔の一族が滅びゆくことを見るに堪えませぬ。
 ゆえに、おお、ラーヴァナよ、私はラーマ様の御許に保護を求めにゆきます。
 私が去れば、御身はたいそう幸せを感じ、この宮殿で人生を楽しむに違いありません。」

 かくして、ラーヴァナの言葉に突き動かされ、ヴィビーシャナは一瞬にして自らの家や所有物などのすべてのものを放棄し、ラーマへの奉仕に時を捧げる思いに完全に満たされながら、ラーマの御許へと向かったのであった。

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