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アディヤートマ・ラーマーヤナ(39)「ヴァーリンの殺戮」

第二章 ヴァーリンの殺戮

◎ヴァーリンとスグリーヴァの戦い

 ラーマに抱擁されることで罪のすべてが根絶したスグリーヴァに、ラーマは微笑みながら、迷妄を生じさせる彼の御力マーヤーを、使命の成就のためにスグリーヴァにかけた。
 そしてラーマはこう仰った。

「おお、友よ! 御身が言ったことは真実である。
 しかし、世界中の人々はこう言うだろう。

『火(アグニ)を証人として、ラーマはスグリーヴァの手助けをするという誓いを立てた。彼は何かスグリーヴァへの義理を果たしたのであるか?』

 人々は私をそのように批判するであろう。
 そのような非難の流れを防ぐためには、御身はヴァーリンに決闘を申し込まなくてはならない。それは御身にとって良き結果となろう。
 たった一本の矢で私はヴァーリンを殺し、御身を王として任命しよう。」

 この提案に同意して、スグリーヴァはキシュキンダーに隣接した林に行き、恐ろしい雄叫びを上げ、ヴァーリンに決闘を申し込んだのだった。自らの弟から発されたその声を聞くと、ヴァーリンは怒りで目を真っ赤にして、自らの住処から飛び出し、スグリーヴァのいる場所へ行った。彼はスグリーヴァに突進していったが、スグリーヴァは彼の胸に一撃をお見舞いした。
 極限的に腹を立てて、ヴァーリンも拳でスグリーヴァに連続の突きを食らわせ、スグリーヴァもまた同じようにして殴り返した。このように、お互いそっくりな彼ら二人は戦ったのであった。ラーマは非常に驚嘆して彼らを見ておられたが、ヴァーリンとスグーリヴァは見た目がそっくりであったため、スグリーヴァを撃ってしまうことを恐れ、矢を放たなかった。
 恐怖で動揺して、スグリーヴァは敗北し、血を吐きながら逃げた。そして勝者のヴァーリンは住処へ戻っていったのだった。スグリーヴァはラーマにこう言った。

「おお、ラーマよ! 私を殺す気でありますか? もしあなたの目的が私の殺害であるならば、主よ、直接行えばよいではありませぬか!
 おお、真理の追随者よ、あなたに帰依所を求める者たちを愛する御方よ! なにゆえに、私の心にあなたへの信を抱かせておきながらも、私を見捨てられたのでありますか?」

 スグリーヴァのこの言葉を聞くと、ラーマは眼に涙を浮かべて彼を抱擁し、彼にこう仰った。

「恐れたもうな。おお、友よ! 御身らは外見が似ているゆえに、御身を撃ってしまうことを恐れ、私は矢を放てなかったのだ。ゆえに、見間違うことがないように、御身に見分けるための印をつけよう。
 さあ、もう一度行って、ヴァーリンに挑むのだ、そうすれば御身はヴァーリンの死を目の当たりにするであろう。私、ラーマは御身にこれを誓おう。おお、兄弟よ! 一瞬で私は御身の敵を殺戮するであろう。」

 このようにスグリーヴァを慰めると、ラーマはラクシュマナにこう仰った。

「おお、高潔なる者よ! 咲き乱れる花々で花冠を作り、スグリーヴァの首にそれをかけてくれないか。このように花冠で目印をつけて、彼をヴァーリンのもとに送り出すのだ。」

 ラクシュマナはそれに従い、スグリーヴァを鼓舞して、再度戦いへと送り出したのだった。スグリーヴァはもう一度出て行って、恐ろしい声でヴァーリンを挑発した。

◎ターラーのヴァーリンへの懇願

 このさらなる挑戦に驚嘆し、ヴァーリンは激怒して気を引き締め、挑戦を受けて立つための身支度をした。
 このようにして戦いを始める準備を整えると、ターラーがヴァーリンを引き留め、こう言った。

「あなたが今行かれることが正しいことだとは思いませぬ。私は心に非常なる不安を感じるのです。
 スグリーヴァがあなたに敗れて逃げて行ったのは、たった今のことであります。彼は再び、急いで戦いのために戻ってきたのですよ。彼の後ろ盾に何者か強力な同盟者がいるに違いありませぬ。」

 彼女に対して、ヴァーリンはこう言った。

「おお、美しき女よ! 奴に関する不安などは捨てたまえ。私の手を掴んでいるその手を放すのだ。敵を出迎えに行かせておくれ。
 奴を殺したら、すぐ戻る。奴の同盟者が何だというのだ? 誰かスグリーヴァの同盟者がいるとして、そやつも一瞬で殺して、戻ってこよう。嘆き悲しむでない。敵に挑戦を受けたとて、一体勇敢なる者が返答もせずに突っ立っていられるであろうか? ゆえに、おお、美しき女よ! 私は奴を滅ぼした後、すぐに戻るであろう。」

 ターラーは答えてこう言った。

「ああ、偉大なる支配者よ! 私が耳にしたある知らせをお聞きください。その後に、あなたが良いと思うようにすればよいでしょう。息子のアンガタが狩りをしていたときにある情報を耳にし、私にそれを報告してくれました。
 それは次の通りです――彼らはこう言っていました。アヨーディヤーのダシャラタ王の息子のラーマという名の偉大な御方がいて、弟のラクシュマナと妻のシーターと共に、ダンダカの森にやって来て、暮らしていました。
 ラーマの妻シーターはラーヴァナによって誘拐されたそうです。彼女を至る所に探しながら、彼はラクシュマナと共にリシャムーカに到着し、火(アグニ)を証人としてお互いで助け合うという誓いを立て、スグリーヴァと同盟を結びました。
 彼らの間の協定とは、戦であなたを殺し、あなたの国でスグリーヴァを即位させようというもののようです。この決議のために、彼らはこのすぐ近くの住処にとどまっております。
 では、私の助言をお聞きください。スグリーヴァが敗北して逃げて行ったのはほんの今であります。ならば何ゆえに、彼はこのようにすぐに戻って来ることができるのでありましょうか?(これで、彼が後ろ盾に協力な同盟者を連れているという私の恐れに信憑性があるいうとことが分かります。)
 ゆえに、スグリーヴァへの敵意を捨てて彼を都に招き、継承者として即位させるのが良いかと思います。そして、ラーマに避難所を求めるのです。ああ、猿の統率者よ! このようにして、あなたの国、社会、アンガタ、そしてあなたご自身を破滅からお救いください。」

 こう言うと、ターラ―は涙を流してヴァーリンの前にひれ伏し、手で彼の足を掴むと、恐怖から激しく泣き出したのだった。すると、ヴァーリンは彼女を抱擁して、大きな愛情を抱きながらこう言った。

「おお、愛しき妻よ! お前の言葉は、お前の女々しい臆病な心ゆえに出たものに過ぎない。私にそのような恐れはない。ラーマ様がラクシュマナと共にここに来られたのならば、私は必ずや彼と友になるだろう。至高主ナーラーヤナは地球から重荷を取り除くため、ラーマとして降誕されたということを昔聞いたことがある。彼は真我であり、友や敵などという区別をしないであろう。
 おお、徳高き女よ! 彼の御足に礼拝し、私は彼を家に連れて来よう。神々の神であるあの御方は、彼を探し求めている者たちを探し求めておられるのだ。彼には信仰を通じて近づくことができる。
 スグリーヴァが戦いのために一人でやって来たら、私は奴をただちに殺してやろう。お前は私に、スグリーヴァとの友情を深め、彼を継承者にするなどと話しておったな。おお、愛しき女よ! 如何にして私が――全世界に武勇を認められ、世に知られたヴァーリンである私が、敵に挑戦状を突きつけられたときに、恐怖から引き出されたそのような忠告に従うことができようか? どうして私がそのように考え、あるいは話すことができようか? ゆえに、おお、美しき女よ! お前の悲しみを放棄し、家で待っていなさい。」

 悲しみに打ちひしがれて泣いているターラ―をこのように慰めると、ヴァーリンはスグリーヴァを殺すことを固く決意して、外へと出て行ったのであった。

◎ヴァーリンの死

 首に花輪をかけた力強きスグリーヴァは、ヴァーリンがやって来るのに気づくと、発情した象のようにものすごい速さで彼に突進していき、拳で彼を打った。ヴァーリンもスグリーヴァに同じことをした。このようにして、彼らの戦いが始まったのだった。
 スグリーヴァは最初からずっと、ラーマの方をチラチラと見ながら戦っていた。生死をかけた戦いの中にある彼ら二人を見て、ラーマは矢筒から矢を取り出し、それを神聖なる弓につがえた。切り株の後ろに身を隠し、弓を耳まで引くと、大変優れた弓の名手であられるラーマは、ヴァジュラのように強力なその矢を、ヴァーリンの胸へと放った。その矢はヴァ―リンの胸を打ち砕き、ヴァーリンは大地を揺らしながら飛び上がり、恐ろしいうなり声をあげながら地面に倒れたのだった。
 ヴァーリンはしばらく気を失って倒れていた。そして再び意識を取り戻すと、ヴァ―リンは目の前に、左手に弓を、右手には矢を持ち、木の皮の衣を着、ジャータを頭頂に結い、広い胸をし、野花の花冠で眩く輝き、強く長い腕を持ち、新しいドゥルヴァ草のような艶が光り輝き、両側にスグリーヴァとラクシュマナを連れた、蓮華の眼をしたラーマを見た。
 ラーマを見るや、ヴァーリンは次のような侮辱の言葉を彼に言った。

「おお、ラーマよ! 私は御身に殺害を正当化されるほどのどんな害を加えたのいうのだ? 木の株の後ろに隠れて私に矢を撃つなどということをして、御身は王族の者の規範を破り、非常に悪質な罪を犯したのである。
 おお、ラーマよ! こそ泥のようにして私と戦って、御身はどんな利益を得るというのだ?
 御身がマヌ族に生まれたクシャトリヤならば、私と正々堂々と戦い、その報いを受ければよい。御身はどのような恩をスグリーヴァから受けたのであるか?
 ラーマよ、御身が森に暮らしている間に、御身の妻がラーヴァナにさらわれ、彼女を取り戻すためにスグリーヴァに助けを求めたと私は聞いた。
 おお、ラーマよ! 全世界に名の通った私の強さを御身は知らなかったのか? 私が望めば、私はラーヴァナを一族諸共生け捕りにし、シーターと共にランカー全土をここへ持って来ることもできるのだ。
 御身は厳格な誠実さを固守していると人々から聞いた。ならば、狩人のように隠れて猿を殺すことで遵守した誠実の法とは如何なるものなのか教えていただきたい。御身は私を殺すことで何を得たのであるか?」

 このように長々と侮辱の言葉を語ったヴァーリンに対して、ラグ族出身のラーマはこうお答えになった。

「私は、この世でダルマを強行するために、手に弓を持って地上を彷徨っている。アダルマを為す者を破滅させることで、私はここにダルマを証明するのだ。娘、妹、姉、義妹、義姉、義娘――これらは同じものである。これらの縁者を妻や女主人と見なすならば、その愚か者は罪人と見なされるべきであり、王に処刑されるのが当然の報いだ。
 お前は自分の弟の妻を無理やり奪い取った。ゆえに、おお、猿の統率者よ、ダルマを知る私は、お前を殺したのだ。
 偉大なる者たちは、そのようなことを聖別するためにこの世を彷徨う。猿の性分のため、お前はそれが理解できなかったのだ。ゆえに、侮辱的な批判にふけってはならぬ。」

 これを聞いて、恐怖に打ちひしがれたヴァーリンはラーマが真に至高者そのものであられると悟った。そして興奮した心で彼にひれ伏すると、ラーマにこう言った。

「おお、気高き魂よ! あなたは真に至高者であられる。私は無智なる猿であるがゆえに、あのような無礼な発言をしてしまいました。どうか御慈悲を垂れ、私をお許しください。
 私はあなたの矢に撃たれ、とりわけ、あなたの面前で死ぬでしょう。このようにあなたを拝見できる特権は、偉大なるヨーギーにさえも与えられるものではありません。
 死の際に自己を虚しくして唱えることで、ジーヴァに至高なる境地をもたらすその御名をお持ちの彼――その彼が私の前に立っておられるのです。
 おお、聖なる御方よ! 私はあなたを至高なるプルシャ、マハーヴィシュヌであると、シーターをあなたのコンソートであるシュリーであると悟りました。ブラフマーに懇願され、あなたはラーヴァナを滅ぼすべく、この世に降誕されました。
 あなたの至高なる境地に到達することができるよう、あなたの許可をお与えください。おお、ラーマよ。そして、あなたが強さにおいて私と同等であるわが息子のアンガタに慈悲をお垂れくださいますように。
 おお、ラーマよ! 私の胸を撫でて、どうか慈悲によって矢を抜き取ってください。」

 そこでラーマは、御手で彼をおさえながら、矢を抜き取った。そしてその猿の王は肉体を捨て、彼の魂はインドラ神と同一となった(ヴァーリンはインドラ神の化身であった)。
 ラーマに矢を撃たれ、冷たく心地よい御手で撫でられたことで、ヴァーリンはただちに肉体を捨て、パラマハンサであっても得難い境地に達したのであった。

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